第288話

ガッデスを出発して2日。


少し街道から外れた場所で野営をする事にした。


「本当ならそろそろテントでも使いたいんだけど……」


ミラージュの兵士がどこにいるのかわからない状況なので、のんびりとテントを張る事すら出来ない。


カモフラージュローブが使えるハンモック一択になっていた。


「まぁ、これはこれで嫌いじゃないんだけどね。」


ハンモックにゆらゆらと揺られながら星空を眺める。


「あっ。」


カモフラージュローブをハンモックの上から軽く羽織っていただけだったので下に落としてしまう。


下にある枝に引っかかったカモフラージュローブ。


「ん?」


この形は……


あれがいけるかもしれない!


木の枝を1本折り、地面へと突き刺す。


木の枝の上にカモフラージュローブを被せてペグ打ちさえ出来れば……


カモフラージュ能力付きのワンポールテントが。


1人でテンションが上がりながら、地面に完成図を描いていて気が付いてしまった。


「ワンポールテントはダメか……」



ワンポールテントはガイドロープを使わないと綺麗に張る事が難しい。


そのままだと風にも弱いし。


仮にカモフラージュ機能付きのロープが作れたとしても……


「結構スペース使うから、敵がロープに足を引っ掛けたらバレて終わりだしなぁ。」


いい案だとは思ったが、すぐに欠点に気が付いてしまいちょっと凹むラグナ。


それに……


そもそもワンポールテントを張った事が無い。


もちろん前世の時に実物を見たことはあるし、触った事もあるけど……


自分では持って無かったから。


「でも大きめのカモフラージュ機能付きの布は作って貰おう。出来れば防水機能も付けてもらって。」


そうすれば、魔道書にテントに変身してもらった際に上から掛ければフライシートの代わりとして使えそうだし。


そんな事を考えながら地面を軽く整地して火を起こす事にした。


「火を使うならこっちかな。」


今回取り出したのは備長炭。


薪を使うと煙と火でミラージュの兵士に見つかるかも知れないから。


炭を使えば薪に比べて煙も少ないし、火を使った際の灯りも最小限で済む。


「まぁ、最初はどうしても煙が出ちゃうんだけどね。」


ラグナは片手で火の魔法を発動させながら、反対の手で風の魔法を発動して空気を送っていた。


バチバチバチ!


ちょっと風を送りすぎたのか一気に火力が上がってしまい火の粉がアチコチに飛んでいってしまった。


『熱い!!』


いつの間にかラグナの隣にふわふわと浮いていた魔道書に、火の粉が飛んでいってしまったらしい。


「ごめん!大丈夫?」


魔道書自体が燃えた様子は無かったので安心したが……



『もうっ!気を付けてよ!』


と怒られる。


「本当にごめん。」


シュンとするラグナ。


でも考えてみたら、俺が焚き火をしている所に魔導書が近づいて来たんだよな。


そう考えると悪いのは果たして俺なのだろうか?


ラグナがそんな事を考えていると


『……私が急に近寄ったのもいけなかったのかも。ごめんなさい。』


と謝ってきたのだった。


「うん。お互い様だね。次からは気をつけよう。」


『わかった。……ねぇ、今日は何を作るの?』


「ん~。せっかくの炭火だし肉でも焼こうかなぁ。」


『お魚は無いの……?』


と悲しそうな声で聞いてくる魔道書。


「魚?まぁ、魚でも良いけど。魚好きなの?」


『うん。スパイスで味付けしたお魚が特に好き。』


確かに美味しいけど。


「それじゃあ、魚にしようか。」


収納からオジサンを2匹。


後は下処理済みのイカを取り出す。


『何それ?』


魔道書はイカに興味津々なのかグルグル回って観察していた。


「イカっていう生き物だよ。事前に下処理して貰っておいて良かった。捌き方とか知らないからなぁ。」


フライパンを取り出して炭火の上へ。


軽く温めながら少量の油を馴染ませて


「イカを投入っと。」


イカの身とゲソを投入したら、ここで登場するのが貴重な調味料。


それを振り掛けるとジューッと焼けるいい音と共に一気に香ばしい香りが広がる。


「貴重な醤油だからなぁ……本当に使いたいときにしか使えないよ。」


この匂いは本当に好き。


『ラグナ、これが欲しいの?』


「そりゃ欲しいよ。大好きな調味料だし。」


『これはキャンプで使うもの?』


「日本人のキャンパーなら使うんじゃないかな?キャンプ飯を作るのにも使うだろうし。」


ラグナがそんな事を言うと


『醤油を召喚しますか?』


まさかの声が頭の中に響いた。


思わずキャンプスキルの魔道書を見つめてしまう。


そして……


「醤油、召喚!!」


魔力を込めると、目の前に現れたのは……


「小さくね!?」


小さなボトルに入っている醤油が目の前に現れたのだった。

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