第266話
エミア様としばらく雑談していると
「名残惜しいけど、そろそろ時間切れだねぇ。」
白く包まれた空間がうっすらとしてきていた。
「お別れの前に報酬を払うとするかねぇ。」
報酬なんていらないと言おうとしたところ、軽く指で口を押さえられた。
「対価を無しにとはいかないんだよねぇ。さて報酬だけど……」
俺を膝枕させたまま、エミア様は何もない空間に手を伸ばす。
すると手を伸ばした先が光り輝き、扉が現れたのだった。
「扉?」
何の扉だろうか。
エミア様が扉に手をかざすと、ガチャリという音とともに扉が開かれた。
「「えっ!?」」
開いた扉の先にいたのは
「サ、サリオラ!?」
こんな体勢をサリオラに見られるのはマズいと思ったラグナだったが、エミア様がラグナの身体に軽く手を添えただけで全く身動きが取れなくなっていた。
「ラグナと……エミア様!?ってなんて破廉恥な事しているんですか!!」
不可抗力だ!と叫びたいが、身体が動かない。
ラグナは恥ずかしげに「や、やぁ。」と言うことしか出来なかった。
そんなラグナとエミアの姿に動揺するサリオラ。
2人の体勢を見るのが恥ずかしいのか、顔を手で隠して見ないようにしている。
まぁ、指の隙間からこっちを見ているのがバッチリ見えているけど。
「ちょっと仲良くしてただけだよねぇ?それよりも、サリオラ。君は真面目に反省していたし、ラグナ君の報酬としてちょうど良いから現時刻を持って罪を償ったとして解放するよぉ。」
「えっ、報酬?あ、ありがとうございます?」
自分の契約者があんな体制でいることに怒鳴りたい気持ちもあるが、まさか解放されるとは思ってもいなくてサリオラは動揺していた。
「まぁラグナ君と会えた所で悪いんだけど……時間切れだよぉ。」
「えっ、ちょっ!?」
サリオラが動揺しているのもつかの間。
白い靄が一気に晴れていき、ラグナは再び砂浜へと戻って来ていたのだった。
ほっぺに微かに残る感触。
一気に顔が沸騰するように暑くなる。
「消える瞬間に突然過ぎだよ、エミア様……」
絶対にあとでサリオラから文句言われる気がする。
目の前には、パチパチと燃えているたき火。
どうやら少しだけ時間が経過していたみたいだ。
ちょっとだけ火の勢いが落ち着いてきていた。
火をボーッと見ているとぐぅーっとお腹が鳴った。
「そうだった……俺ってばサザエ1個とオジサンひと口しか食べてなかったんだ。」
焼いていた魚の殆どは魔法書と魔道書の2冊に食べられてしまったから。
『ラグナ、ご飯奪ってごめんなさい。』
俺のお腹が鳴ったのを気にしたキャンプスキルの魔道書が謝罪してきた。
「大丈夫だよ。また食べればいいし。それじゃあまた焼こうかな。」
『ゴクリ。』
魔道書の唾を飲むような音が聞こえた。
むしろどこに唾を飲むような……
その前にどうやって食べてるんだよ。
見た目は本なのに。
『詳しく言うと私まで怒られちゃうから言えないけど……ラグナに見えている本は仮の姿だから。これ以上は言えない。』
つまりは俺には見えていないけど、本来は別の姿って事か。
「まぁいいよ。君の分も焼いてあげる。どうする?オジサンと小アジどっちがいい?」
『本当にいいの?』
「前もって言ってくれれば準備するから大丈夫だよ。」
『それじゃあ、小さいお魚。カレー?とかいう匂いので食べたい。』
「わかった。俺もバカ○ぶしでオジサン焼くかぁ。』
収納から魚を取り出すと串に突き刺していく。
そして
「これを大量にっと……」
魚の身にこれでもかという量のスパイスを振りかける。
すでに魚を焼く前からカレーの様な匂いが周囲に浸食していく。
たき火の火の近くに串を突き刺して再び調理。
しばらくするとジューッと魚の表面が音を立てて焼ける音が。
『この匂い、凄い。食べる前なのに美味しいってわかる。』
確かに凄い匂い。
火で炙られた事で香りがさらに広がる。
本来なら海鮮だけでBBQを楽しもうと思っていたけど。
我慢出来そうにない。
ラグナは収納の魔法からとある肉の塊を取り出す。
『それは?』
「これはワイルドボアっていう魔物の肉なんだ。今日は海鮮気分だったんだけどね……どうしても、この肉をバカ○ぶしで味付けして焼いてみたくなってさ。」
更に収納から鉄のフライパンを取り出すと油を少し垂らして熱を加えていく。
ワイルドボアの肉にバカみたいにスパイスをまぶして……
フライパンが温まってきたタイミングで肉を投入。
ジューっという何ともけしからん音を立てる。
更に香ばしいカレーの様な匂いがあたり一面に広がっていく。
その匂いによって、ぐぅっとお腹の音が鳴り響くのも仕方ない事だと思う。
『ねぇ、まだかな?』
「もうちょっと待って。」
魚と肉を焼き始めてからというもの、魔道書がソワソワとしながら浮いている。
あんまり火に近寄ると燃えちゃいそうな見た目をしているから、見ているこっちもそわそわしてしまう。
「そろそろ焼けたかな?」
魚もワイルドボアの肉もいい感じに焼けてきた。
魚の串を持ち上げ、皿を取り出すと小アジを串から外して載せる。
そしてワイルドボアの肉。
肉にナイフを入れると肉汁がジュワッと出てくるが、その肉汁を逃すまいとバカの様にまぶしたスパイスが肉汁のうま味を吸収。
肉とカレーのスパイスのコラボレーションした香りに思わず唾を飲み込んでしまう。
肉は数切れだけでいいと言うのでお互いの分を切り分けると皿に載せる。
『じゅるり。』
「それじゃあ、食べようか。頂きます!」
『いただきます?』
こうして1人と1冊は本日2回目の晩御飯を楽しむのだった。
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