第201話

「ヨハム公爵家にあの宝石が……」


サリオラから貰った赤い宝石。


それがヨハム公爵家にあることが判明した。


『どこにあるのかわからなくて、諦めるしか無かったけど……場所が判明してるなら取り返そう。』


タチアナさん達は手紙を出してすぐにこの街からシーカリオンへと移動したらしい。


明日までには移動を完了し、安全な場所を確保しておくとの事だった。


『今日の夜に偵察。明日の夜に決行しよう。とりあえず仮眠するかな。』


そして時間は流れ、夜。


屋敷から少し離れた場所の建物の屋根の上から偵察するラグナの姿があった。


『夜は照明の魔導具を持った兵士がペアを組んで巡回してるのか。』


灯りがゆらゆらと揺れならがら、あちこちで移動しているのが見える。


この警備を行うだけでも莫大な費用が掛かっているんだろう。


『でも流石、公爵家って感じだな。』


建物の窓から明るい室内がよく見える。


つまり贅沢に照明の魔導具が至る所に設置されてるって事だ。


『もうちょいよく見えると楽なんだけど……』


そう考えていると……


『双眼鏡を召喚しますか?』


双眼鏡!?


キャンプ関係だけじゃないのか??


と一瞬考えたが、そう言えば……


『俺も双眼鏡買ってたわ……』


キャンプをしながらのんびりと日中はバードウォッチング。


夜は天体観測でもしてみようと思いながらも使う事が無いままだった。


『本当にタイミングが良すぎるよね。双眼鏡召喚!!』


魔道書が出現すると双眼鏡へと形が変化していく。


『双眼鏡はこうなるのか……』


とりあえず屋根の上に寝転ぶと、双眼鏡を覗き込み城の窓から室内を覗いていく。


『凄いなぁ……あちこちに美術品みたいなのが展示してあるし……』


あれもこれも全て住民から絞り上げた税で購入したもの。


本当に呆れる。


城の上部の部屋に一つだけやたらと豪華なベランダらしきものが設置されてる部屋が見える。


『まさかね……流石にあの部屋は無いでしょ。』


そう思いながらも双眼鏡から覗き込むが……


『でも部屋の位置が高すぎて、ベランダに隠れてる。部屋の中は見えないか……』


そう思っていると誰かがベランダへと出てきた。


その人物をじっと観察する。


1人はガウンを羽織り、片手でグラスを持つ男。もう1人は透明なケースを両手で持ち、グラスを持つ男からよく見える位置で支えている人物。


思わず双眼鏡の倍率をあげる。


!!


豪華な装飾をされているが見間違えるはずが無い。


透明なケースの中にはラグナがいつも身に付けていた宝石が保管されていた。


怒りがふつふつとこみ上げてくる。


なにも知らなければこのまま魔法をぶっ放していたかも知れない。


でもそんな事をして困るのは街の人達。


それに……


魔物を散々殺しておいてあれだけど……


人の命を奪うのは異世界に来たとはいえ抵抗がある。


きっと何回か繰り返せば慣れてしまいそうな自分がいて怖い。


特に爆裂魔法なんて大量虐殺に向いている魔法を持っているから余計に。


『つまり、ワインを飲みながら宝石を鑑賞しているアイツがヨハム公爵か……』


どことなく雰囲気が王に似ている気がする。


体型以外は……


とりあえずあの家にあることは判明した。


公爵は鑑賞に満足したのか、まだ飲み途中のワインをグラスごとポイッとベランダから投げ捨てていた。


グラスが落下した音に気がついた兵士達がわらわらと集まる。


そして音の原因が判ると、首を振りながらまた元の配置へと戻っていくのだった。


『簡単にグラスを投げ捨てて……あれだって領民からの税で買ったものだろうに……』


見ているだけでもイライラする。


とりあえずは明日の夜。


「絶対に取り返してやる。」


と小さい声で呟くラグナだった。

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