第195話

「やっと見えてきたな。」


思っていたよりもかなり遠かった。


まだ離れてはいるが、地図が正しければ遠くに見えている街が国境線を守る街『ヨハネス』だ。


1人旅を始めてから3週間。


途中にある村や街は一切立ち寄ることがないままヨハネスへと歩を進めていた。


「たしかイルマがいるシーカリオンの商業学園は、馬車で1ヶ月の道のりだって言ってた気がするからまだ結構遠いんだよな。」


シーカリオンを目指す前にやるべき事。


ヨハネスにあるヨハム公爵の館へのお礼参り。


散々好き放題やってくれたんだ。


俺はもう我慢しない。


日が少し暮れ始めた頃にヨハネスの街の近くまで到着。


とりあえず街には必要以上に近寄らないように気をつけながらぐるっと一周していく。


「やっぱり街に忍び込むなら夜中しか無いか……国境線を守る街だけあってなかなか警備が厳重だ。」


とりあえず国境線を確認する。


「地図に横一直線で書いてあった線が国境線だと思ってたらこう言うことかよ。」


前方に見えるのは横一直線に広がる壁。


「まるで万里の長城じゃんか。どんだけあるんだ。」


夕暮れとあって視界は悪いが、目で見える範囲はずっと壁が広がっている。


「高さは5メートルって所かな。うーん……無理矢理行こうと思えば行けそうだけど……」


無理矢理突破した先がシーカリオンの衛兵だらけだったら流石に厳しい。


再び戻って近くの森の中へ。


「とりあえずここで一泊して、また明日考えよう。」


ハンモックを張ろうかとも思ったが、高さが低く細い木しか見つからない。


仕方が無いのでカモフラージュローブを羽織ってそのまま地べたに寝ることに。


そして翌日。


「うーん……シーカリオン側を覗けるような高台が無いな……」


森にある木の上から覗こうにもそこまで高い木が無い。


意図的に樹高が低い木だけを植えられている感じがする。


「これは一か八かで強行突破するしか無いかな。」


壁の向こう側がどうなっているのか見えないので仕方がない。


悩んでいると何やらバタバタと物音がする。


慌ててカモフラージュローブを羽織り隠れる。


「この辺りの場所だと思います。」


「そうですか。ありがとうございます。ですが見当たりませんね……」


「周囲を捜索いたしますか?あまり時間もありませんし。」


俺の近くに現れたのはマリオン様の神殿騎士と司教であるタチアナさんだった。


「いえ、大丈夫です。うっすらとですがマリオン様の魔力を感じます。ラグナ様、マリオン様からのお告げがあります。いらっしゃいますでしょうか?」


さすがタチアナさん。


魔力も匂いも気配も消してくれるはずのローブなのに俺に気付くなんて……


ローブを収納した後にタチアナさんの元へ姿を表す。


「よくぞご無事で……守護の女神の神殿を止めることが出来ず、使徒様をお守りできなく本当に申し訳ございませんでした。」


タチアナさんと神殿騎士2人が躊躇なく地面に頭をつけて謝罪してくる。


俺は慌ててタチアナさん達を立ち上がらせる。


「あれはどうにもならなかったので仕方ないですよ。それにほら、俺無事でしたし。それにしてもどうしてここに?」


「それについてはマリオン様より言伝を預かっております。」


「言伝?」


「はい。まずラグナ様がヨハネスの街へ入れるように神殿の者がお手伝いすること。その後はラグナ様が持つ転移柱を持ってシーカリオンに渡り、安全な場所で待機するようにとの事です。」


直接連絡は取れないけどマリオン様は見守ってくれているのか……


サリオラ大丈夫かな……?


「手伝ってくれるのは嬉しいのですが……危険ではありませんか?」


「マリオン様からのお告げは絶対ですから。それに……ラグナ様はマリオン様の使徒。今度こそ守りたいのです。」


タチアナさんがそう言うと俺の手をガシッと掴む。


『嬉しいんだけど……狂信者っぽくてちょっと怖い……守護の女神の神殿は嫌いだけどマリオン様の所にはいろいろお世話になってるし……』


「危険だと思ったら僕の事は捨てて構いませんので。それを約束してくれるなら協力お願いします。」


「ラグナ様を捨てるなど……」


「これを約束して頂けないならば協力はお断りさせて頂きます。」


きっとここまで言わないとタチアナさん達は万が一の時に喜んで命を捧げそうだし。


「……わかりました。それがラグナ様の命令とあらば仕方ありません。」


「命令って訳じゃないですよ。でもどうやって街へと?」


俺がタチアナさんに聞くとニヤリと笑うタチアナさん……


「よくぞ聞いてくれました。詳しいことは馬車の中でお伝えします。」


そう言うと行きましょうとタチアナさんに手を繋がれ、馬車へと向かうのだった。

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