第173話
「あ、あれは家にあった……」
アースドラゴンの腹下に突き刺さっているガントレットは実家に飾られていた物とそっくりだった。
ラグナは頭から血の気が下がり膝を突き座り込んでしまう。
「ラグナ!?どうした!?」
急に力が抜けたようにペタンと地面に座り込んだラグナに驚いたイアンはすぐに声を掛けるが……
ラグナの顔色は血の気が下がっているのか真っ青。
声を掛けても呆然としているのか反応が無い。
「ラグナ君!!しっかりしたまえ!!」
ビリー達もラグナの異変に気がつくと、目の前でアースドラゴンが暴れている危険な状況の中ラグナへと声を掛ける。
「ラグナ、どうしたんだ!!何があった!?」
イアンがラグナにそう問い掛けるとゆっくりとラグナはアースドラゴンの腹下にあるガントレットを指差す。
「あれは……ガントレットか?」
「何故あんなものが……?」
ビリーとアムルはラグナが指差す所にあるガントレットを不思議そうに見ていた。
ドラゴンにガントレットが突き刺さるのかと。
しかしイアンだけはその正体に気がつく。
「バカな……あれは……」
イアンも驚き声をあげてしまう。
「イアン?お前までどうしたのだ?」
「あ、あのガントレットは
「「なんだと!?」」
そしてアースドラゴンを改めて観察し、違和感に気がつく。
アースドラゴンの堅い鱗が刃物で切られた傷の数々。
そしてドラゴンに対して矢が突き刺さっているという現実。
「まさか……こいつはペッツォ伯爵領を壊滅させた後にわざわざ遠回りしてアオバ村に近付いたとでも言うのか!?」
ラグナはビリー達の会話をぼんやりとした意識の中聞いていた。
『あのガントレットは母さんの……そしてこいつはアオバ村近くを経由してここまで来た……まさかアオバ村は……』
アースドラゴンに突き刺さっている矢をよく見てみる。
『あの形は村で作られている矢と同じ……』
そして同じ様に尻尾に突き刺さっている剣を見る。
『あれはよく村長さんが使っていた……』
「「「!!」」」
ビリー達はすぐに突き刺さるかのような巨大な魔力を感じて身構える。
「ラ、ラグナ君!」
ラグナから膨大な魔力、そして激しい殺気が放たれた。
「お前は……お前は俺の大事な村に何をしたんだぁぁぁぁ!!」
ラグナの激しい怒りの咆哮と共に膨大な魔力が周囲に広がっていく。
ビリー達はラグナの膨大な魔力によってその場から吹き飛ばされてしまう。
先ほどまで錯乱し暴れていたアースドラゴンは、ラグナからの膨大な魔力に当てられると隷属魔法の魔法陣が破壊され正気を取り戻す。
「マズい!?隷属魔法の魔法陣が!!アースドラゴンが正気に戻るぞ!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
ラグナは膨大な魔力を身体強化魔法に注いでいく。
「グルゥゥゥァァァァ!!」
アースドラゴンは己の危険を察知し、自分の回りにアースウォールを発動させて身を守ろうとする。
「燃やせ!燃やせ!燃やし尽くせ!エクスプロージョン!!」
ラグナはナルタの城壁付近であろうとお構いなしに爆炎魔法を発動させるとアースウォールを破壊。
そのまま地面を踏み込むとアースドラゴンの顔を全力で殴りつける。
「「な、殴ったぁ!?」」
まさかの光景に3人は驚く。
トゲトゲとした表皮に守られているにも関わらず殴りつけるとは思ってもいなかったから。
「ガァァァァァァァ」
30メートル近い巨体のアースドラゴンがラグナからの一撃により怯むと、その巨体が物凄い地響きと共に倒れる。
アースドラゴンは殴りつけてきた人物を視認する。
「グルゥゥゥ!!」
まただ。
またこの小さき生き物がドラゴンたる自分を傷つけて来たことにプライドを傷つけられる。
「グルァァァァ!!」
ラグナが着地した付近に自身の巨大な尻尾を振りかざし1回転。
付近に大量の飛礫が飛んでいく。
数々の衝撃や地響きにより弱っていた城壁がガラガラとあちこちで崩れていく。
「グルゥ?」
グルッと尻尾を1回転振り回したアースドラゴンは砂埃によりラグナの姿を見失っていた。
そのため警戒しながらキョロキョロと目を動かし捜していた。
その頃ラグナは上空へとジャンプしていた。
そして……
ダッシュメイルに魔力を流すと背中より一気に空気が噴射され、アースドラゴンへと向かって急降下する。
まるでライ○ーキックのような体制でアースドラゴンの脳天目掛けて足を振りかざす。
「死ねぇぇぇ!!」
ラグナの足が目と目の間に直撃すると地上には衝撃波が広がる。
「グ……ルッ……」
アースドラゴンは白目を向くとそのまま地面へと倒れ込む。
「はぁはぁはぁ……」
「し、死んだのか……?」
イアンがアムルに聞くがアムルは首を振る。
「いや……気絶しただけだろう……呼吸はしている。」
「問題はどうやってこの巨体にとどめをさせばいいのかねぇ……」
意識を失っている今がチャンスなのはわかっているが……
シトメるだけの火力が無い。
ラグナもどうやって息の根を止めようか考え込む。
目を潰したくても既に堅牢な瞼が閉じてしまっており目潰しも出来ない。
巨大な怪獣を倒すセオリーは身体の中から攻撃だけど……
はやくアオバ村に向かいたいから覚悟を決めよう。
ラグナはアースドラゴンの上から降りると口元へ。
「ラグナ君?」
ビリー達が見守る中ラグナはアースドラゴンの口を開くとそのまま身体の中へ。
「ラグナ君!?」
まさか身体の中へ入っていくとは思っていなかった3人は慌ててアースドラゴンの口元へと駆け寄るが……
流石に身体の中に入る勇気は無かった。
ラグナは身体の中へ入るとすぐさまホバーシューズに魔力を流し浮かび上がるとLEDランタンを発動し、周囲を照らしながら身体の中を触れないように進んでいく。
『物凄くクセェ!!ちゃっちゃと終わらせよう。』
身体の中を突き進むとすぐに胃と思われる場所にたどり着く。
最悪な状況下だった……
食べられたばかりの魔物……
吸収途中の肉片。
思わず吐き気そうになる。
ガストーチソードで切り刻みながらなんて耐えられそうにない。
出来れば一瞬でカタを付けたい……
ガソリンみたいなのがあれば良かったんだけど……
そう考えると頭に声が響く。
『着火材(ジェル)を召喚しますか?』
ナイスタイミングだ!
「着火剤(ジェル)召喚!!」
指先からジェル状の液体が飛び出してきたので胃の中全体にまき散らしていく。
そして外に出るために口に向かいながらあちこちにジェル状の液体をまき散らす。
口に到着すると池のように大量のジェルを撒くと口から脱出。
外に出るとビリーさん達だけでなく、第一陣で来ていた兵士達も集まってきていた。
「危ないのでアースドラゴンから離れてて下さい。」
俺がそう言うと兵士達は従ってくれた。
「それじゃあいきます。」
アースドラゴンの口を開くと大量のジェルに向かってファイアーボールを発射。
着弾するとジェルが一気に燃えていく。
ラグナは着火を確認するとアースドラゴンから距離を取り離れる。
炎はジェルが撒かれていた身体の中へと向かって勢い良く燃えながら進んでいく。
「グルァァァァァァァァ!!」
アースドラゴンの目が見開くとゴロゴロと倒れ込みながら自分の腹を両手両足でかきむしるように暴れている。
「いったい何をしたんだ……」
アースドラゴンの口からは激しい炎が燃えているのが見える。
暫くしてあたり一面に肉が焼けたような匂いが広がる。
その頃にはアースドラゴンはひっくり返ったまま動かなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます