第86話

王都までの一週間は平和な道のりだった。


辺境伯領から王都までに立ち寄った街は2ヶ所。


豪華な宿屋にドキドキもしたけれど、やっぱりエチゴヤの宿に比べるとどうしても見劣りしてしまう。


しかも俺の分の宿泊費は神殿持ち。


ちょっと気が引けてしまう。


この一週間はひたすら護衛の人達に剣の扱い方を教わっていた。


エチゴヤ商会と商業ギルドが用意してくれた護衛の人達はどちらかと言えば守りよりも攻撃が得意。


そして神殿騎士の人達は本当に守りに特化していた。


何度も手合わせをしてくれたけど凄い。


「そこ!」


神殿騎士と木剣同士がぶつかり合う。


「あまい!」


騎士と9歳の子供では全く相手にならない。


木剣が簡単に弾かれる。


そして木剣を握り直し再び騎士に向かっていく。


剣同士がぶつかり合った瞬間に力を抜いて剣を滑らすようにして相手の剣をかわして神殿騎士に向かって突撃する。


「まだまだだ。」


その言葉と共に俺の目の前には神殿騎士の装備であるバックラー小盾が表れて軽く吹き飛ばされた。


吹き飛ばされた俺は簡単に転がされていく。


「大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。」


「それじゃあそろそろ今日は終わりにしよう。」


今日の訓練は終わり。


何度も打ち合ったけど全く崩れない。


「さっきのは良かったけど突撃するなら相手の装備をよく確認することだな。」


「わかりました。」


訓練を見ていた護衛の人達がそわそわしている。


どうやら見ていて触発されたらしい。


「一つお願いがあるんだが。」


エチゴヤ商会から派遣された護衛の人が神殿騎士の人に話し掛ける。


「どうした?」


「俺も昔は神殿騎士に憧れていたんだ。しかし現実を知り夢を諦めた時に今の商会に拾って貰った。でもやはり今のを見ていると完全には諦め切れていなかったらしい。自分の今の実力の立ち位置を知りたい。もし良ければ誰か手合わせしてくれないか?」


さっきまで俺と打ち合いをしていた人が仲間の神殿騎士に目で合図する。


「では私がお相手をしましょう。」


神殿騎士とエチゴヤ商会の護衛の人との手合わせが始まった。


「「はぁぁ!」」


開始の合図と共にお互いが剣を打ち合う。


カン!


打ち合う姿を見ると違いがよくわかる。


エチゴヤ商会の人は力で叶わないとわかると手数を増やすために動き回る。


「ふっ!」


一瞬の隙を突こうと剣を突き出す。


「ふん!」


突き出した剣を一瞬にして弾き飛ばされる。


神殿騎士の人はあれだな。


大木みたい。


どっしりと構えて全てを打ち払う。


足腰が本当に鍛えられているんだろう。


どんなに攻撃されてもビクともせずに弾く。


「これなら!」


フェイントを掛けて護衛の人が剣を振るうもバックラーに阻まれた挙げ句そのまま弾かれる。


そしてその一瞬の隙に神殿騎士は剣を突き出し護衛の人の首元に。


「それまで!」


お互いに下がり礼をする。


「手合わせありがとうございました。全く敵いませんでしたよ。」


「いやいや、手数の多さは凄かったぞ。」


「でも改めて分かりました。あなた方がいる所までは遠い。まだまだ修行ですね。」


「そこまでは悪くは無かったぞ。偉そうに言うのもあれなのだが……これからも護衛と名乗りさらに上を目指すならば、少し言わせて欲しい。」


「さらに上を目指す……」


「君が目指すものはなんだ?君のやるべき仕事は相手を討ち滅ぼす力か?違うよな。君の仕事は主人を守ることだ。確かに相手を滅ぼすことは大事だ。でも第一は守るべき主人を無傷で護衛することだろう?今のままでは攻撃にばかり目がいってしまい視野が狭くなっている。これではいつか護衛対象を危険にさらす。もっと広い視野で見渡せるようになると自然と実力も上がっていくだろう。」


護衛の人も何か心当たりがあるのかも知れない。


負けたのに悔しい素振りは全く無い。


「最近悩んでいたことがやっとわかった。自分に足りなかったのは確かに視野の広さだ。本当にありがとうございます。」


深々と頭を下げてお礼を伝える。


「いやいや、こう偉そうに言ってはいるが俺自身まだまだだ。神殿騎士には更に上が沢山いる。俺はもっと上を目指しているんだ。」


護衛の人を圧倒していた神殿騎士よりももっと上がいるのか。


父さんの方が強いとは思うけど、この人達は守ることに関しては父さん達よりも上だと思う。


「それにしてもラグナ君は9歳だろ?それでこの腕前は純粋に凄いと思うぞ?」


俺と打ち合った神殿騎士の人がそう言うとみんなが頷く。


「普通なら9歳と言えばまだまだごっこ遊びの延長上くらいの腕前だ。でもラグナ君はどちらかと言えば実戦に近い動きをしている。やはりアオバ村だからか?」


「うーんどうなんでしょう?一応僕に剣術を教えてくれているのは元冒険者と村長と父ですけど。」


「ならば師匠も素晴らしい腕なのだろうな。その3人のうちの誰かは判らぬが、きっと騎士に関係した人物が居たのだろう。騎士としての基礎もしっかりと叩き込まれている。」


「そうなんですか?自分ではわかりません。」


騎士に関係しているとしたら父さんなのだろうか。


その後も手が空いた時は手合わせをしてくれた。


何度か打ち合いを見ることが出来た。


本当に勉強になる日々。


そんな濃厚な日々を過ごしながら一週間。


無事に王都へと到着した。

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