第63話

「テーブルに設置されてるスイッチ押していただければ私共がお部屋に駆けつけますので、何かありましたら遠慮なくお知らせ下さい。お食事の時間は18時からとなっております。時計はそちらの壁に設置されております。それではお食事の時間までごゆっくりおくつろぎ下さい。」


店員さんがお辞儀をして部屋を退出する。


時計をチラッと確認する。


「16時かぁ。あと2時間もあるし……お風呂でも入るかぁ。」


露天風呂に入るために隣の部屋へ。


「ガラス張りの壁は寝るときにちょっと落ち着かないなぁ。」


露天風呂の入り口の扉付近に籠が設置されている。


さっき部屋を見て回った時には無かったのに。


籠を覗くと服が準備されていた。


広げてみる。


「浴衣なんて準備されているのか……」


着ていた服を籠に畳んでいざ露天風呂へ。


扉を開くと木の湯船。


綺麗に植樹と囲いがされているので覗かれる心配はない。


洗い場にも魔力灯が設置されているので夜も楽しめるみたい。


洗い場には石鹸が設置されている。


手に取ると花の香りがする。


「そう言えば石鹸も初めてみたな。村には石鹸なんて入ってこないし。」


泡立ててみる。


うーん。


やはり日本で使っていた石鹸に比べたら泡立ちが悪いよなぁ。


スキルで出て来ないかなぁ。


ちょっと頑張ってはみたものの何も出て来なかった。


「仕方ない。これで身体を洗うしかないか。」


洗うタオルもないので手で身体を擦り汚れを落としていく。


うーん。これで頭を洗ったら髪の毛がゴワゴワしちゃいそうだ。


シャワーのお湯だけで我慢する。


身体と頭を洗ったあとはいよいよ湯船へ。


片足を入れる。


「うーん、ちょっと温い。それにやっぱり温泉じゃないのかぁ。」


温泉の匂いがしなかったので諦めていたけどやっぱり温泉には入りたかった。


「でもまぁ、湯船でゆっくりお風呂に入るなんて村だと出来ないからなぁ。」


やっぱり1度これを経験すると元日本人としては村に帰った時に湯船でゆっくり浸かれないので辛くなりそうだ。


「どうにかして家の中には作れないかな。」


いろいろ家の中の配置を考えてみる。


でもどう頑張っても湯船が入るスペースは用意できそうにない。


「諦めるしかないかぁ。」


のんびりと湯船につかる。


夕日が出ていた空は暗くなり始めていた。


「そろそろあがるか。」


ゆっくりと湯船につかることが出来た。


身体を拭いて浴衣へ着替える。


若干曇りがあるものの鏡が設置されていたので浴衣姿を見てみる。


「うーん。俺の顔って前世の顔そのままって訳じゃ無いんだよなぁ。黒目、黒髪だけど肌の色はこの国の人と同じだし。目とかは前世の雰囲気があるけど鼻と口は違う。」


考えてもどうにもならないので気にしないことにした。


そして時計を見ると17時50分。


「そろそろ行くか。」


部屋を出て食堂に行くとすでに父さん達はイスに座っていた。


「ラグナ~、遅いぞ~。」


すでに皆の顔が赤いな。


「皆してもうお酒飲んでるの?」


「する事も無いしのぅ。」


「ラグナは風呂に入ってたのか。」


「うん。皆は入ってないの?」


「シャワーなら浴びたぞ。」


「あれ?でもみんな服が。」


村で着ていた服のままな気がする。


一応着替えてはあるんだけど。


「あぁ、ラグナは用意されてた服を着てるのか。」


「あの服はなんか落ち着かなくてのぅ。」


「すぅすぅするからな。」


浴衣になれてないと違和感があるのか。


「こっちの方が楽だと思うんだけど。」


ふむ。と父さんが俺をみて考える。


「なんかラグナはその服が似合ってるな。しっくりくるって感じだ。」


皆がジロジロ見てくる。


「確かに似合っておるのぅ。」


「だな。」


「みんなして見ないでよ。」


そして俺も席に着く。


「それでは皆様お揃いのようなので準備させて頂きます。」


いつの間にか支配人が控えていた。


そして目の前に現れる料理達。


「なんだこのスープは。変わった色をしているな。」


「肉も変わった匂いだ。」


「この2品だけですがこちらの料理は勇者様の故郷の味を再現したものとなっております。」


目の前に現れたのは味噌汁と醤油の香りがするお肉。


この匂いは懐かしい。


もう味わえないと思っていた味が目の前に。


ラグナは自然と涙が出てきていた。

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