第57話
領主はブリットの娘のミレーヌをチラッと見ると少し考え込む。
「その娘が鑑定魔法持ちであると?歳は幾つになる?」
領主に質問されたミレーヌは軽く会釈すると語り始めた。
「審問鑑定魔法の審査については合格し免許を取得してあります。歳は9歳になりますわ。」
只でさえ審問鑑定魔法審査の合格者は極少数だと言うのにそれを9歳で取得。
まさに天才の一言だろう。
審問鑑定魔法審査とは国がこの免許を持つ魔法師に対して審問鑑定魔法の精度を保証する意味合いで交付されている。
審問鑑定魔法の結果次第で人の人生が変わってしまう恐れが有る為、モグリの魔法師による鑑定結果が使われないように免許制になっている。
免許持ちの審問鑑定魔法の結果は絶対。
嘘を交えた内容については直ぐに魔法で見抜かれてしまう。
なお審問鑑定魔法免許保有者が嘘の鑑定をした場合は、大なり小なりに関わらずいかなる理由があっても重罪。
自分の人生も掛かっている為免許保有者が嘘の鑑定をするなどほとんどあり得ない。
「9歳で審問鑑定魔法免許保有者とは…ミレーヌ殿は天才だな。」
自分の娘が天才と呼ばれ笑顔になるブリット。
「うちの娘は天才であり天使のように可愛いですから。それじゃあミレーヌちゃん、この方が述べたことが真実か調べて貰えるかな?」
「わかりました。とりあえず何を調べればいいかわからないので伺ってもよろしいですか?」
愛嬌のある笑顔で村長に質問すると村長は先程と同じ内容の話をした。
「今の話は女神に誓い真実ですか?」
「うむ、真実じゃ。」
ミレーヌは膝をつき両手を組み神に祈るようなポーズで呪文を唱え始めた。
「守護の女神様に願います。」
その一言でミレーヌの魔力が高まりぽわっと身体が光り始めた。
「この者が述べたこと、真実に値することかお教え下さいませ。
ぽわっとした光が村長の元へ。
そしてその光は白く発光し消えた。
「白く発光したのでその方が述べたことは真実のようです。」
自分の息子がやらかしていた罪が確定した瞬間だった。
「もう良い。何が起きていたのか全て話すが良い。」
領主は抗うことを諦め話を続けるように村長を促した。
「それでは先程の続きから。若者達はワイルドボアの群を引き連れたまま逃げまどいこの親子に一部の魔物を押し付けてそのまま走り去っていきました。
2人は2頭のワイルドボアに襲われはしたもののなんとか討伐。そのまま急いで村に戻りました。」
2頭のワイルドボアに襲われた部分に領主は引っかかりグイドとラグナに尋ねた。
「お主等は2頭のワイルドボアに襲われたと言うのに怪我の一つもしなかったのか?魔物番とはいえ片方は子供ではないか。お主が2頭も討伐したと言うのか?」
痛いところを突かれたとグイドは思ったものの審問鑑定魔法を目の前で見たばかりだったので真実を話すほか無かった。
「こちらに向かってきた2頭のうち1頭は息子に気が付き息子の方に向かって行きました。魔物の討伐以前に狩りに初めて出掛けたばかりの息子が魔物を前にして討伐出来るとは思えません。慌てて1頭討伐しましたが自分が討伐し終わった頃には息子もワイルドボアを討伐し終えていました。」
大の大人ですら数人掛かりで挑まないと死ぬ可能性があるワイルドボアをこんな子供が?
「そっちの子供よ。本当なのだろうな?」
ラグナも誤魔化すわけにはいかないので正直に話をした。
「本当にたまたまです。普通なら死んでます。ワイルドボアが走って向かってきたので頭を突き刺したら死んでくれました。」
嘘は言ってない。何で突き刺したかは言いたくない。普通なら剣だと勘違いしてくれるはず。
こんな子供が魔物を討伐など領主には信じることが出来なかった。
「怪しいな、ミレーヌ殿。審問鑑定魔法をお願いしてもよろしいかな?」
ラグナはドキッとはしたものの話をした内容は事実なので覚悟を決めた。
「今述べたことは真実ですか?」
「はい、述べたことは真実です。」
ミレーヌは再び審問鑑定魔法を使いラグナの発言を調べた。
魔法の光はラグナの元へ。
そして白く発光し消えていった。
「この方が述べたことは真実です。君は凄いね!私と同じくらいの子供なのにワイルドボアを討伐するなんて。歳はいくつ?名前は?」
ミレーヌはラグナに興味津々になりつい質問してしまった。
「僕も同じく9歳になります。名前はラグナです。」
この光景をみて面白くないのは領主の息子。
先程可愛いとつい口に出してしまったことからわかるようにミレーヌの姿を見て気に入ってしまっていた。
自分が気に入った娘が平民に話し掛けていることが気に入らない。
「おい。平民の癖によけいなことを話してるんじゃない!」
ラグナに向かってそう怒鳴ってしまった。
「私が話し掛けてしまったので謝罪します。申し訳有りません。」
領主の息子はラグナにむかって怒鳴ったつもりがミレーヌに謝られてしまった。
違う君じゃないとは言い出せなく、ぐっと堪えて黙り込むしか無かった。
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