第36話
朝食用にと作ったスープを一口飲んでその味に固まる村長さん。
そりゃそうだろう。
普段は具材の出汁と塩で味付けしたスープだろうし。
前世ではアウトドアスパイスほ○にしを焼いた肉の上に振りかけたり、パスタやうどんに絡めて食べたりしたことはあったけど。
意外にもスープでもいけるってことが驚いた。
まぁ前世ならこのスパイス使わなくても味噌やら醤油やらめんつゆやらコンソメやら……
簡単にいろんな味付けが出来たもんな。
この世界に来てからは基本塩ベース。
勇者も味噌や醤油は作れなかったみたいだ。
このスパイスが使えるだけでも本当に助かった。
食生活が豊かになると本当に嬉しい。
村長さんはパンをスープに浸して食べるときもその味に驚いていた。
「このスープの味はパンにも合うのぅ。」
最初はスパイスの味に驚いて固まっていた村長さんもニコニコしながら朝食を食べていた。
俺もスープを一口。
ちょっとスパイスでピリッとくるのが本当に美味しい。
ちなみにこの村で主に食べられるパンは黒パン。
こんな辺境の村で手に入るのは小麦じゃなくてライ麦。
小麦よりもライ麦の方が過酷な環境でも育ちやすいからね。
なのでみんながよく知っている白いパンじゃなくて外までカリッと焼き上げた黒いライ麦パン。
黒パンは硬いってのは聞いたことがあるけど本当に硬い。
今は焼き立てだからまだ大丈夫だけど。
数日経つと本当にカチカチになる。
カリッと焼き上げることで日持ちが良くなるんだよ。
パンは基本数日分を一気に焼き上げる。
理由としては薪の節約。
パンを焼くってのは薪を結構使う。
なので一気にパンを数日分焼き上げないと薪の消費量が凄まじいことになってしまう。
前世の日本って食に関しては本当に恵まれていたよな。
「ごちそうさま。ミーナありがとう。本当に美味かったわぃ。」
「いいえ~。美味しそうに食べてもらえると作った側としてはとても嬉しいですよ。」
ふぅ。朝から結構ガッツリ食べたな。
「んでじいさん、今日はどうしたんだ?」
村長さんがハッとした顔を珍しくしていた。
「あまりにも美味い物を朝から食べたんで用件を忘れるとこじゃったわ。儂に話さなきゃいけないことがあるんじゃないのか?」
「やっぱりバレてたか。見えないと思ったんだけとな。ラグナ出せるか?」
「うん。わかった。」
とりあえず2本でいいかな?
ラグナの両手が光り輝く。
そして光が収まると両手には備長炭。
備長炭2本を村長さんに手渡す。
村長は恐る恐る炭を手に取るとその硬さに驚く。
「これは……炭なのか?それにしてはあまりにも硬い。普通はもっと脆いはずじゃ。」
2本の炭を叩くと金属のような音。
「音も金属みたいな音じゃな……」
「一応昨日使っては見たさ。大変だったけどな。」
「大変?これが本当に炭なら暖炉に入れとけばいいんじゃないのか?」
「俺もそう思ってよ。少し薪を入れて燃やした暖炉に入れたけど音はしたけど着火はしなかったんだわ。」
「そんなことがあるのか?見たことは無い炭の形をしているが所詮炭じゃぞ?」
確かに昨日父さん頑張って着火したよね。
「あまりにも着火しないんで魔法剣で焼き上げたんだけどよ。それでもなかなか着火しなかったわ。」
「魔法まで使ったんか。そこまでしなきゃ着火しないとなると大変じゃな。それで……火持ちは?」
「火持ちはやべぇな……ギリギリ半日もたないくらい。こんなん見たこと無いわ。」
それを聞いた村長さんは深いため息を吐いた。
「着火しにくいのは難点じゃが……これも隠さねばならんの……たぶんハルヒィのやつも違和感に気がついておったから口止めしておくか。」
「なんかいろいろごめんなさい。」
シュンとしたラグナを見た村長は頭に手を置いた。
「子供がいちいち気にするんでないわ。考えてもみぃ、お主はその歳でもう3つもスキルを覚えたんじゃぞ?これがどれだけ凄いことか。」
優しく微笑みながら撫でてくれた。
「まぁでもこれだけは守ってほしい。」
目の前には真剣な表情の村長さんの姿。
「スキルはこの家の中でなら使ってもいい。でも絶対に他の人にバレてはいかん。外で使うのも駄目だろう。もちろんイルマ達の前でもじゃ。もしもバレてしまっては儂等では守りきれるかわからん。約束は守れるかのぅ?」
「はい。絶対に守ります。誰かにバレてハルヒィさんみたいにはなりたくないですから!僕じゃ逃げ切れません。」
「なら約束じゃ。ラグナよ。強くなるんじゃ。理不尽な権力から自分を、仲間を守れるように。襲いかかる力を跳ね返せるように。出来るか?」
「頑張ります!」
せっかく新しい人生を歩んでるんだ。
怯えて逃げ続ける人生なんて嫌だ。
全力で頑張ろう。
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