第29話

父さんと母さんの馴れ初めを聞いた後にお昼ご飯。


ご飯を食べたあとは部屋で休んでいた。


ドンドン。


家の扉から音がした。


誰かが来たらしい。


部屋の扉からそっと覗くと村長さんが来たのが見えた。


村長さんは相変わらず纏う雰囲気がどう見てもマフィアのドンって感じ。


髪型はぴっちりとしたオールバック。


60歳越えてるのに見事な筋肉。


もちろん腹筋は綺麗なシックスパック。


どう見ても60代の体つきじゃないよ。


村長って普通はよぼよぼおじいちゃんってイメージがあったんだけど。


未だに現役で魔物狩りも行っているみたいだから自然と鍛えられているんだろう。


村長が来たってことはいよいよか。


村長がダイニングで座ったのを確認した後にラグナは部屋から出てきた。


「村長さん、こんにちは。」


「おぉ、ラグナか。もう体調は大丈夫なのか?」


「もう元気です。あの時はせっかくのお祝いだったのにごめんなさい。」


村長さんが優しく頭を撫でてきた。


「そんなこと気にするでない。ラグナが元気になったならそれでいいんじゃ。」


見た目は本当に怖いんだけど、子供に対しては本当に優しいお爺さん。


その代わり怒った時は阿修羅の如くのオーラを纏う。


そして容赦ないゲンコツの一撃。


子供達は本当に悪いことをしたと身を持って味わうことになる。


前世では虐待だなんだかんだ騒がれるだろう。


でもここは異世界。


悪戯の内容によっては本当に命を落としかねない。


それは去年の出来事。


11歳の男の子が引き起こした大事件。


門番がトイレに行くために門から一時的に離れた。


その子は居ないことを確認しこっそりと村の門から脱出して外に遊びに行ってしまった。


そして少し時間がたった後。


村の外から子供の叫び声。


大人達が駆けつけた時にはすでに時遅し。


変わり果てた姿で発見された。


その後門番は1人から2人体制に変更になった。


そして村の子供達は広場に集められた後、今回の事件について村長から説明があった。


隣で話を聞いていたイルマも珍しく怖がっていた。


その子とは何度か一緒に遊んだこともあった。


でも徐々に危険な遊びを行うようになったので、俺はイルマをその子から引き離してあまり関わらないようにしていた。


その子は木の枝を振り回して冒険者ごっこと称して、年下の子供達を追い掛け回しては虐めていた。


本人は冒険者になって金持ちに俺はなるんだ!ってよく言ってた。


俺達にも襲いかかってきたけど、普段魔物狩りをしている父さんに鍛えられているので何度か返り討ちにしてからは来なくなった。 


まさか小さい身体で魔物と戦うときのコツがこんな所で生かされるなんて。


俺達子供がいくら注意しても悪戯や虐めを止めてくれなかった。


仕方ないのでこっそりと大人達が気がつくように細工したり苦労したよ。


いくら怒られても止めなかった結果。


とても残念な結果に終わってしまった。


さて、話を戻して。


何故村長さんが家に来たのかを。


父さんと母さんとの話し合いの結果、2人では万が一情報が漏れてラグナを攫いに来た場合庇いきれるか判らない。


だからといって村に住む人みんなに打ち明けると情報漏洩の可能性が上がってしまう。


なので村長さんだけに俺の能力を打ち明けることにした。


「それで話とはなんじゃ。仲間には聞かせられる内容じゃ無いのだな。」


「あぁ、じいさん以外に誰になら話をしても大丈夫なのか俺じゃ判断出来ん。」


「それ程の内容か。して話とは?」


「ラグナ。」


「はい、それじゃあ行きます。『スパイス召喚』」


「はっ!?」


村長さんは目を見開いて固まっていた。


「そ、その粉はなんじゃ……」


「一応私達は試食しましたが……香辛料です。それもとびきり上等な。」


「香辛料じゃと!?ラグナ、お主まさかその歳で

声を聞いたのか?こんなことすらもスキルだと言うのか!?」


村長さんが急に立ち上がったと思ったらへなへなと座りこんでしまった。


「村長さん、実は声を聞いたのは二回なんです。」


「2回じゃと!?たった5歳でスキルを2つも獲得じゃと?」


村長さんは頭をかきむしって唸ってしまった。


「それでラグナや。もう一つのスキルは何じゃ。もう覚悟はできた。驚かぬから言ってみろ。」


「収納です……」


村長さんは絶句して固まってしまった。


目線だけは父さんの方に向いていたが。


「じいさん、それもマジだ。確かに収納スキルが使えたのはこの目で確認した。」


村長さんは深いため息を吐いた。


「よりにもよって収納とは……このことはお主ら以外は?」


「誰も知らないはずだ。ラグナが倒れたのもこの収納スキルを使用したのが原因らしい。目が覚めた後も何度か収納スキルを使わせてみたが毎回意識を失っていたな。」


それを聞いた村長さんの雰囲気が一変した。


「バカもんが!こんな幼い子に何をさしておるか!倒れるのは魔力欠乏症じゃろう。そんな危険なことをお主がやらせてどうするんじゃ!」


「村長さん、父さんは悪くないんです。父さんは止めていたんですがどうしても実験したくて見守って貰ったんです。」


「ふん!」


「「いてぇ!」」


俺と父さんに愛情タップリの拳骨が落ちてきた。


「いてて、久々のじいさんの拳骨は効くな。」


俺はあまりの痛みに頭を押さえて座りこんでしまった。

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