第26話

「大丈夫だ。俺達2人が守ってやるから!」


悲しみの意味をがっつり勘違いされて抱きしめられたまま身動きが取れません。


どうも、両親2人からの愛を身を持って受け止めてるラグナです。


「2人とも。心配してくれてありがとう。もう大丈夫だよ。」


「絶対にアホ領主からは守ってやるからな!心配するな。」


「えぇ。絶対守って見せるわ!私達の大事な子供ですもの。」


おぉぅ。2人からの愛が凄いよ。


まぁ本当にありがたいから感謝だけど。


「2人とも判ったから!それで……このお皿に載ってるのどうする?2人は食べてみる?」


お皿に載ってるスパイスを見て固まる2人。


そうだよねぇ。白、赤、黒の色とりどりの香辛料。


香りはいいんだけどねぇ。


見た目の色が不安になるよね。


仕方ない。


ここは俺が毒味でも。


お皿の上のスパイスを指に付けて舐める。


「お塩の味とあとは判んないけどちょっと辛い味?とりあえず毒は無いと思うよ!」


お互いに見つめ合う2人。


「よし!それじゃあ俺が試してみるか。」


父さんは気合いを入れてスパイスを指に付けた。


そんなに気合い入れなくてもいいと思うのに。


恐る恐る指を口に近付ける。


そして一舐め。


父さんの目つきが鋭くなった。


あれ?美味しくなかった?


「……ラグナ。これは絶対に人前で出すな。」


「急にどうしたの?父さん。」


「母さんも舐めてみればわかる。」


母さんは指にスパイスを付けたあと匂いを確認する。


「この香りは胡椒に少し似てるわね。それじゃあ行くわ。」


恐る恐る指を舐める母さん。


改めて思うけど母さんって綺麗だよなぁ。


「ねぇラグナ。このことってまだ私達以外誰も知らないわよね?」


「うん……倒れる前に初めて使ったから……」


「あの時が初めてだったのね。ラグナ、これは絶対に人前で出しちゃ駄目よ?本当に。これは絶対に駄目だから。」


もともと隠し通すつもりだったんだけど……


でも何でそこまで……?


「不思議そうな顔をしてるわね。ラグナ、この香辛料はね……美味しいのよ。判る?美味しすぎるの。」


そりゃこんな辺境の村だしね。


香辛料が村に入ってくることなんてあんまり無いし。


塩以外の香辛料を使った料理は、ほとんど口にしたことがない。


「あなた、ラグナに話をしてもいいわよね?」


「あの事を話するのか?ラグナだから理解できるだろうし……そろそろ良いんじゃないか?」


話?何だろう。本当の子供じゃないってこと?


「今から話すことは村の中でも村長しか知らない話なの。」


俺の出生に関することなら村長以外も知っているはずだし……


何のことだろう。


「実は私達2人ともこの国の出身じゃないのよ。しかも他国の貴族だったの。いろいろあって2人で駆け落ちしちゃってね。」


えっ。それは全く知らなかった。


元冒険者とは聞いたことがあったけど。


目を見開いて驚くラグナを見て苦笑いをするミーナ。


普通の5歳児ならばきちんと理解なんて出来ないだろう。


他国の貴族が駆け落ちしてこの国へ。


しかもこの国で何事もなく平然と暮らしていることの難しさを。


でも流石はラグナ。ちゃんと今言ったことを理解してる。


「それでね、一応とは言え私達は元貴族なの。しかもある程度の家柄のね。だから食事に関してはここの村の仲間よりも舌が肥えているのよ。この国に来てから豪勢な食事とかからは遠ざかってはいるけどね。」


貴族かぁ。確かにふつうの村人では無いとは思っていたけど。


読み書き、計算は出来るし魔法も少しだけど使えるみたいだし。


「この香辛料だけど、そんな私達からしても美味しすぎるって思うの。元とは言え貴族がそう思うのよ?わかる?元貴族でもそう思うのよ?」


「この味がこの国の貴族にバレたら本当に危ないかも知れん。俺達2人はもちろん全力でラグナのことを守るつもりだ。でもこの香辛料をもしもこの国の貴族が食べてみろ?これを売れば確実に莫大な富が得られる金のなる木だぞ。お前を手に入れられるならある程度の出費は覚悟してバカをする貴族が居るかも知れん。」


「この香辛料がどの程度作れるかはラグナもまだ判らないと思うの。でもね、これが定期的に手に入るならある程度の出費はすぐに回収出来ちゃうわよ?だったら無茶してもいいかと考えちゃう貴族が多いわよ。特にこの国だもの。」


前世でもキャンプ飯を作るのにほ○にしのスパイスを使って定期的に料理してたけど確かに美味かった。肉にも魚にも合うし。


それにしても……


父さんと母さんもオレと同じ意見か。 


万が一貴族になんて捕まったらひたすら作らされて一生が終わるバッドエンドコースだよな。


「そういえば、最初に出した香辛料はどうしたの?本当にイルマにはバレてない?」


「バレてはいないと思う。最初に召喚したスパイス取り出すね。」


えっと収納にしまったのはどうやって出すんだろう。


そう思ったら言葉が浮かんできた。


あぁ、こうすれば取り出せるのかと何も考えずに行動してしまった。


ラグナは忘れていた。


何をしたときに倒れたのかを。


「スパイス取り出し!」


そうラグナが言葉を放つと皿の上にあったスパイスがいきなり増量した。


「ラグナ今のは……」


皿の上にあったスパイスが急に増えたことに驚いたグイドはラグナの方を振り向いた。


するとそこには顔色が真っ青になったラグナが。


しかも気を失ったのか倒れている最中の姿が。


「ラグナ!!」


地面に倒れる寸前のところでグイドは何とかラグナを抱きしめることが出来た……

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