第8話 濃厚接触者からの解放

 夫がホテル療養に移ってから90時間以上経ったので、ようやく夫が使っていた寝室とトイレの消毒に取り掛かった。枕とシーツはそのままゴミ袋へ、布団は半日天日干しした後、粗大ごみ収集に出すべく布団圧縮袋に入れて密閉。中の空気が外に出るので圧縮するのは止めた。

 干せない洗えないマットレス。いいのか悪いのか分からないが、アルコール製剤をたっぷり含ませた布巾で端から拭いていく。息を止めながら作業を進め、仕上げに匂いだけで酔いそうなくらい、マットレスにアルコール製剤を吹き付けた。

 汗だくで消毒している途中、流れた汗が目に入った。ひぃぃ!「粘膜からの感染」という言葉が頭をよぎり、洗面所に走り顔を洗ってアイボンで目の洗浄をした。目に入ったのは自分の汗で、ウイルスが入ったわけではない。落ち着け、私。

 トイレも同様に壁から小窓の網戸まで磨き上げ、噴き出す風にビビりながら寝室に掃除機をかけて、約3時間に渡る消毒を終えた。作業中着ていた服もすぐに洗濯し、そのままシャワーを浴びて全身洗浄。最後に洗濯槽洗浄して全作業完了。そこへ、夫から明日帰宅することになったと連絡がきた。もう?思ったより早い。

 翌日、療養中の洗濯物が詰まった鞄を持って夫が家に入ってきた。「48時間経ってから洗濯してだって」ムンクの叫びの形相で、鞄を車に戻させたのは言うまでもない。夫の洗濯物が残っている憂鬱を抱えたまま、やっと私の濃厚接触者という肩書が外れた。

 


 

   

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