二年目。

君への手紙を書き始めてから、休日が好きになった。以前、ネットサーフィンで時間を埋めていた土日は全て君のために充てるようになった。惰性でしてた金曜の夜ふかしもやめて、早々と眠りにつき、次の朝、早朝から君への手紙を書き続けた。

大抵はテレビをつけながら書いた。

程よい雑音が聞こえると、集中できる。たまにテレビの方に目をやっても、君のことしか浮かばない。

人気の観光地が出てくると、君とあんな素敵な所に行ったらさぞ幸せだろうな、とか勝手に思った。

ラブソングが聞こえてくると、君と僕に当てはめて聴いてしまう。

恋、とか愛、とかいう字を見ると君が浮かぶ。

そうした時間がいっとう幸せだった。

そうすることを繰り返して、何回目かの日曜日が来た。その日も変わらず、君を想って手紙を書いていた。

今日はいつもに増して外が騒がしいな、と思った瞬間だった。

パリン、とガシャン、が合わさったような音が聞こえた。さすがにこれは変だぞと感じたその刹那、「大丈夫ですか?!」と誰かから声をかけられた。

「えっ、あ、はい。」反射的にそう答えた。瞬時に、誰だ?とか何があった?とかなんでうちに人が?とか脳内に?が溢れた。

混乱していると、その誰かに抱えられ気づけば家の外だった。

どうやら隣の部屋から火が出て、アパート全体を包み込む大きな火事になっていたようだ。二階建てのアパートはごうごうと火を噴き、煙を上げ、いつもとはとんと違う姿になっていた。

そこで事の大きさを知った僕はまたひどく混乱した。

涙目の大家さんと、青い顔したアパートの隣人と、興味津々な目をした野次馬に話しかけられたが、何を話したか覚えていない。

気づけば救急車で病院に運ばれ、そのまま入院となった。医者が自分の状態を説明してくれた。服が炭になるほど火は自分の近くに来ていたらしい。煙も吸っていて、あと少して命に関わっていたらしい。しかし、厚着していたのが幸いして火傷はそこまで酷くなかった。至る所に包帯を巻かれ、ミイラみたいになったけど。

入院中に考えていたことは、仕事のことや、お金のことでもない。家の事でもない。

君に宛てた手紙が無事か、それだけだった。

両親が見舞いに来て、代わりに荷物をまとめて、新しい物件を探そうか。と提案してくれたが、さすがにそれははばかって断った。

退院すると、直ぐに家に向かった。

僕の部屋は火元から1番離れていたので、半分は残った。もう半分はすすを被ったかのように黒かった。家にあがって君に書いた手紙を探した。ようやく見つけたが、それはもう灰のようになっていて、読めるような代物ではなかった。

僕は引っ越した。

即日入居できる物件を探して、残った家具と、少しの仕事道具をもって住んでいた家を離れた。

家に着いてからは、家具を設置したり、焼けてしまったもののかわりを買いに行ったりで一日が終わった。買い物をした帰り道、モダンな雰囲気の雑貨屋で君が好きそうな便箋が売っていたので、買った。

次の一日はあの日書いていた手紙を思い出して書く作業につかった。

その手紙を送る時に、一緒に新しい僕の家の住所も手紙の隅に書いておいた。


返事はまだ来ない。

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5480通目の手紙 @haru13229

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