第59話
俺はキャンプ地点に戻ると、すぐに6人パーティーを組んで他の兵のレベルを上げる。
経験値を均等に分配できるパーティーは6人までしか組めないのだ。
ダンジョン3日目は、俺が夜になるまで魔物を狩って過ごした。
ファルナは俺を心配し怒っていたが、『朝型に体を慣らす』という言い訳で逃げた。
ダンジョン4日目もダンジョン3階で過ごした。
皆のレベル上げに苦労する。
安全の為、全員のレベルを30以上にしたいが、思ったより進みが悪い。
だが、皆に余裕が出来て笑顔が見え始めた。
俺が夜になり戻ると、ヒメとファルナ、そして兵士がきゅうを囲んで遊ぶ。
ヒメがきゅうに手を出す。
「きゅう、お手」
きゅうはヒメに前足をちょこんと乗せた。
足が短いのでヒメの手によりかかるような体勢になる。
「可愛い~!」
ヒメがきゅうを抱いて頬ずりする。
「きゅう♪」
きゅうはこのダンジョン合宿のアイドルになっていた。
「次はわたくしがやりますわ」
ヒメはきゅうを離さない。
ファルナ、言っても無駄だぞ。
その後、ヒメはきゅうを離さなかった。
俺が焚火を見てぼーっとしていると、ファルナが話しかけてきた。
「お疲れ様ですわ」
ファルナが飲物を持って来る。
「ありがとう」
ミルクか。
温かい。
飲むとほっとする。
「ハヤトのおかげで助かっていますのよ。ハヤトが居なければ、わたくしは終わっていましたわ」
「運が良かったからな。カインとアオイの癖が強すぎるのと、強くて目立っていた。そのおかげで俺は影のように動けた」
ファルナの顔が曇る。
「2人は無事でしょうか?不安ですわ」
「分からないけど、カインは無事でも連絡しに来ないような人間だ。定期連絡とかそういう気の利いた事はしないだろう。それに、今俺達のレベル上げは遅れている。助けに行っても捕まって終わる。本当は全員のレベルを50以上にしたかったが、やってみて無理だと分かった」
「そう、ですわね。出来る事をするしかありませんわ」
「何日分物資は持つんだ?」
「ダンジョンに入って丸7日で、変わりませんわ」
「4階に行けば肉がいっぱいある」
「食料だけの問題じゃありませんのよ。他の物資も足りませんの。精鋭揃いなら、食料だけで長く居られますが、新兵は長くダンジョンに留まれば心を病みますわ」
「新兵が多くて、過酷なキャンプは耐えられないか」
「そうですわね」
精神への影響がある。
笑顔の者も居たが、それは不安の裏返しでもあるのだ。
不安を感じるから人は話をしたがる。
新兵が長い間ダンジョンで合宿すれば、心が病んでくる。
いつ魔物に襲われて死んでもおかしくない状態にいるのだ。
ゲームでは女性は殺されず、エチエチイベントが発生するが、当たり所が悪ければ女性でも普通に殺される。
殺されなかったとしても地獄だ。
俺も前に過労で寝込んだ。
命の危険と隣り合わせの状況は精神を削る。
スティンガーか。
早く奴を倒さなければ、こちらが疲弊していく。
後一カ月用意する時間があればもっと余裕で対処できた。
エリスとトレイン娘が焚火に集まってきた。
「2人とも疲れてないか?」
「私は元気です!」
「僕は、少し疲れたよ」
大丈夫と言っているトレイン娘の方が心配になる。
行動する臆病者であるハヤトは悲観的に物事を考えた。
だが、皆は思ったより楽しくダンジョンキャンプをしていた。
「トイレに行って来る」
「今は駄目ですよ!」
「今ヒメが入っているんだ!」
エリスとトレイン娘が通せんぼする。
「すぐ出るだろ」
「だ、ダメだよ!」
「その、媚薬の副作用が、少し残っているのですわ。30分は待ちましょう!」
俺の体が熱くなった。
媚薬の副作用って!
30分待つって!
俺はエチエチな妄想をしてしまう。
「分かった」
俺は目を閉じた。
丹田を膨らませるように大きく深呼吸する。
落ち着け、俺!
自分の魔力を感じるように俺はひたすら瞑想した。
こうしなければ体が熱くなるのだ。
性欲を発散したい俺と抑え込もうとする俺が戦う。
俺は、理性で感情を抑え込んだ!
俺は勝ったのだ。
「ハヤト、大丈夫ですの?」
ファルナが俺のおでこに手を当てる。
不意打ちか!
く、やめろって!
エチエチイベントは封印すると決めたはずだ!
「お、俺!もう一回魔物を狩って来る!パーティーを組んで魔物を狩って来る!」
俺は性欲を攻撃性に変えて魔物を狩った。
合宿メンバーの全員が異性ってなんだよ!
俺はボスを一気に倒す。
しかも全員美人で優しいってなんだよ!
俺は100体近い魔物に囲まれるが、ステップ&カウンターですべてを殲滅した。
体は元気だ。
だが、俺の理性が持たないかもしれない。
その後俺達はダンジョンの4階に上がって1日でダンジョンから帰還する。
皆のレベル上げ、物資、そしてみんなの魅力。
様々な要因と闘い、合宿は終わった。
ダンジョンから出ると朝日が昇り、丸7日経っている事が分かった。
俺達は大量の魔石で大量の物資を買いこみ、うさぎ亭に戻る。
分散して移動すると誘拐されるリスクがあった為まとまって行動した。
うさぎ亭に戻ると、日が上に昇っていた。
「ファルナ、やっぱり新兵はきつそうか?」
「そう、ですわね。恐らく、うさぎ亭に戻ると、気が抜けて熱を出す者が出ますわ」
「もう一回ダンジョンに行く事は出来ないか?」
「そうすれば、精神に異常をきたす者が出てきますわ。一旦気を抜いてもらい、熱を出して貰いますわ」
心と体を休ませなければ、オーバーヒートしてしまう、か。
過労で寝込んだ俺は、ファルナの言っている事がよく分かった。
だが、それは見せかけの平和だ。
スティンガーが倒されていればいいが、そうで無ければ英雄騎士団に狙われ続ける。
【王国歴999年冬の月79日】
昼になり、俺達はうさぎ亭に帰還する。
不安を感じるハヤトだったが、ファルナ兵は急速に英雄騎士団に対する対抗力を身に着けていた。
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