第29話


「勇者に聖女ねぇ…」


 家のソファーに座りながら小さく呟く。

 ニナ達はアリアメルに付き添われながらお昼寝中。イスカとフィオは俺の向かいに座り勉強中だ。


「……? グレイさん今何か言いました?」


「いいや。……なあイスカ、お前”勇者”や”聖女”についてどう思う?」


「え、勇者に聖女…ですか? うーん…特に何も。どうしてそんなことを?」


 不思議そうな顔をするイスカ。


「いや…フィオはどうだ?」


「私も特に…。世界を救う人ってイメージですけどスケールが大きすぎて、それこそ本の中のお話みたいだな…ぐらいです」


「そうか…」


 反応を見る限りだと二人供本当に興味なさそうだ。


 主人公のイスカや多分ヒロインのフィオには、何か特別な血筋みたいなものもあるかもしれないと思ったが…今の様子を見る限りだとそういったものも無さそうだな。


 本人は知らないってのも普通にありそうだが。……アリアメルやニナ、ラッツにステラは……昼寝から起きてきたら一応聞いてみるか。


「グレイさんどうしたんだろ? 何か考えこんでるけど」


「…さあ?」






 昨日、冒険者ギルドへ依頼の達成報告をしに行く途中で真剣な顔をしたエミリアに捕まり、半ば強引に『戦乙女』の現パーティハウスへと連れていかれた。


「おい何なんだ一体…」


「すまない、今は黙ってついてきてほしい」


 応接室のような場所に案内され、中へと入ると椅子に座り何かを話してたカーシャとハルサリアがこちらへ視線を向ける。


「…いらっしゃいグレイ。いきなりごめんなさい…少しだけ話を聞いて」


 申し訳なさそうな顔のカーシャが頭を下げる。


「ギルドじゃ話せないことか?」


「ええ、あそこじゃ人の目が多すぎる。…取り敢えず座って、今お茶を用意するわ」


「いや、大丈夫だ。それより用件を教えてくれ」


 カーシャ、ハルサリアと向かい合う型で椅子に座るとエミリアが俺の隣に座る。


「勇者の話、聞いたでしょ? 」


 ハルサリアが話し始める。


「ああ…神託で選ばれたってやつか」


 一体どんな奴なんだろう? エミリア達をパーティに誘ったってのも、本人の意思が絡んでるかはわからないし。


「そうそれ。その勇者が隣国のストリアからこっちへ向かってきてる」


 …うん?


「何でそんなことがわかるんだ?」


「何故か街道を通らずに森の中を移動してる。だから仲の良い精霊が教えてくれた」


「精霊…」


 森の民であるエルフは精霊と話せると聞いたことはあるが…精霊って適性がないと存在を感じることもできないらしいし。俺もよく知らないんだよな…。

 精霊魔法ってのもあるが使える奴を見たことない。


「なんでそれが勇者だとわかったんだ?」


わかった」


「勇者だから?」


「そう、神託に選ばれた勇者は精霊にとっても特別な存在なんだって。だからその精霊の領域テリトリーに入ってくるとわかるって」


 プライベートないのか…。


「勇者は一人でバストークココへ?」


「一人じゃないらしいけど人数までは」


 イスカ達のこともあるし、態々街道を避けてるって時点で怪しい…警戒するべきだな。


「わかった…でも何故俺にそれを?」


「この前エミーがグレイには話しちゃったでしょ? 勇者のパーティに誘われたけど断ったこと」


 それまで黙っていたカーシャが話し始める。


「勇者の目的はわからないけど、警戒をしとこうと思うの。…この街の領主も今はちょっと信用できないしね」


「それで何かあった時の為、事情を知るグレイに協力をしてもらおうと思ってな」


「事情を勝手に話したのも、協力者にグレイをやたら推してきたのもエミーだけどね」


 カーシャの突っ込みに言葉を詰まらせるエミリア。


 別に断る理由はないか…現在パーティを組んでる訳じゃないが今でもエミリア達のことを仲間だと思ってるし。


 それにこちらとしても、この件にイスカ達が無関係かどうか分からないからな。


「わかった、具体的には――」




 こうして『戦乙女』と協力することになった。俺は少しの間依頼を受けるのを控えて子供達の傍にいることにした。

 街の外へは出ない方がいいだろうしな。




 決して深い意味は無いんだが、勇者って首を刎ねたら死ぬのかな?



 ――――――――――


 すいませんワクチンで動けませんでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る