第10話
「うー…うぅ」
「……パパちゃんとなでてあげて」
「あ…あはは…」
「ニ…ニナ、ほら、グレイさん…ね?」
俺の膝の上でニナが力いっぱい抱きついて、頭をぐりぐり押し付けてくる。 涙と鼻水で俺の服が大変なことになっているが…まあ、それはしょうがない。
困った顔をするイスカとフィオに、おろおろするだけのアリアメルと、始めての俺への言葉が「パパ」だったステラ。
知らない内に二人目まで…子沢山だな俺…。
ニナの頭を撫でながら背中を優しく叩く。
……何故こんな状況に。
―――――
馬車でバストークへ戻ったのは明け方のまだ早い時間だったので一旦宿へと戻り、ニナの人形を針と糸で修繕することにした。
ちくちくちく…
うーん、人形に使われてる生地そのものが傷んでるからまた直ぐに破れそうだな。
どうしたものか、傷んだ生地を元の状態に戻す魔法とかないかな。
……あ
もしかして錬金術ならなんとかなるかも。
俺は知り合いの錬金術師の顔を思い浮かべながらそう思った。
もし駄目だったら
……ならなかったらどうしよう。
俺は準備をして宿屋をでることにした。
部屋から出て階段を下ると、宿屋の親父がカウンターで暇そうにしていた。
「んー? どうしたんだ、お前帰ったばっかりなのにまた出掛けるのか」
「…べつ」
俺が別にいいだろ、と言う前に何かを閃いた顔をする親父。
「ははーん、あれか、女だな? 依頼から帰って直ぐなんて元気だねぇ…俺も若いころは…」
「おーいリナ、お前の親父また何か言ってるぞ」
俺がそう言うと、二階の部屋の掃除をしていたセミロングの金髪を後ろで纏めた美少女が階段から降りてくる。
「もう!おとうさんまた!」
困った時の
「やっ…ちがっ…てめ、リナを呼ぶなんて卑怯だぞ! 男だったら正々堂々と猥談に付き合いやがれ!」
意味不明である。
「後は任せる」
「あ、うん任せといて! 行ってらっしゃいグレイさん」
「おう行ってこい、気をつけてな」
「……ああ、行ってくる」
部屋も綺麗だし、食事も旨い…何よりああして行き帰りには挨拶してくれる。良い宿なんだがな。
あんまり繁盛してないのはあの親父のせいだなきっと。
「…ぼったくりやがって」
あれから錬金術師の自宅兼工房へ行き、いつも眠そうな顔をしたルークスという錬金術師に人形を見せて傷んだ生地が直せないか訊いたら。
「おや、どうしたんだいその人形。 普通に似合わないもの持ってきて…ん? 当然直せるよ。 当然対価は頂くけどね。 幾らだって? いやいや、実は今欲しい素材があってさぁ、エルダーオークの…分かるだろう? 首じゃねぇよしまえ、何でそのまま持ってるんだよ。 なんで知ってるのかって…企業秘密だよ」
で、結局玉を一つ持っていかれた訳だ。
他の奴に頼んだらどうかって? ルークスはああ見えてまだ無理難題を吹っ掛けてこないだけマシな方なんだよ…。
それにこういう時に良くしとけば、アイツは色々融通してくれるしな。
手持ちのキュアポーションも
「普通のクスリ…失敗作だね、あげるよそれ」
ってタダでくれたものだ。 買うと普通に高い。
それにだ。
綺麗になった人形を眺める。ニナが喜んでくれるなら別にいいか。
―――――
なんて思っていたんだがな…。
食料を買ってイスカ達の小屋へ向かった俺に待っていたのは、おとーしゃんが居なくなったとアリアメルに抱き付いて泣くニナと
「大丈夫、パパはきっと帰ってくる」
と、それを慰めるステラの姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます