第307話 死霊吸収

『おぉおおおお!憎い!憎い!憎い!痛い!痛い!憎悪よ!苦しみよ!我が元へ集え!!』


 村と森を食らいつくしたサマエルは、再び浮上すると同時に、残っている竜の首と下部の巨大な口を広げ、戦いによって死亡した人間たちの霊を次々と吸収して飲み込んでいく。

 それはこの近くだけでなく、さらに広範囲の死霊や怨念たちの霊を無理矢理吸収して貪り食らっているのだ。

 その力により、マイクロボラックホールによって消失した己の肉体再生だけでなく、憎悪と怨念の力を魔力に転化し、それを増幅・収束させてティフォーネやシュオールへと撃ち込んでいく。


 強力な憎悪の念でも、彼女たちの肉体を破壊するのは難しい。ましてや彼女たちは強力な結界を張っているのだ。

 だが、その憎悪の奔流は結界によって弾き返されても、完全な消滅はできない。

 彼女たちの周囲はどんどん憎悪の魔力によって汚染されていった。


《ええい、うっとうしいですね……。ほら、貴女は冥府の神としての力もあるんでしょうが。痛みにのたうち回っていないで何とかしなさい。》


《うごごご……。痛みにのたうち回っている儂に対して非常冷徹な一言……。人の心とかないんか?》


《エンシェントドラゴンロードである私たちに人の心なんてあるはずもないでしょう。ほら早くしなさい。》


 痛みに耐えかねているシュオールは、渋々ながら冥界への門を開くと、そこに憎悪の念を吸い込ませて冥界へと押し流していく。

 開かれた冥界の門の力によって、さらにここ一帯、というよりは神聖帝国一帯の怨霊や死霊たちもその吸引力に引き込まれて冥界へと流れ込んでいく……はずだった。

だが、その死霊たちは次々と濁流のようにサマエルに飲み込まれていき、力を回復させていく。

 冥界の門より遥かに強い吸引力で死霊を吸収しているこの状況は、ただ敵の力を回復させているだけだ、とシェオールは冥界の門を閉じる。

だが、その力の回復はサマエルにとっては不愉快極まれりという状況だったらしい。


『ああああああああああ!何故だ!何故私は静かな世界で過ごしたいだけなのにさらに騒がしくなる!五月蠅い五月蠅い五月蠅い!!どいつもこいつもうるさい!私にまとわりついてくるな!全世界何もかもがうるさすぎる!滅ぼすしかない。全世界を滅ぼして全ての生命体を殲滅して静かにさせるしかないんだ!!』


それに対して、今まで状況をうかがっていたリュフト》ェンが言葉を放つ。


《———いや、アンタはそれでは救われない。さらに苦しむだけだ。》

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