第304話 シェオールの本気

 ティフォーネの攻撃を受けたサマエルはその肉体を再生しつつ、高速でこの空域から離脱していく。

 一見、それはティフォーネたちから逃げ出しているようにも見えるが、それだけではない。サマエルは自分の体の下部から無数の竜の首を伸ばして、地上のあらゆる物を食らいつくしていく。

 肉体の再生のためには、それだけのエネルギーが必要となる。そのエネルギーを補充するためにあらゆる物を食らいつくして自分のエネルギーに変えようとするのだ。

 大量の木々や動き回るあらゆる動物たち、終いには土すら貪り食うほどである。


《ふむ、何だかよくわからんが、あの肉塊のせいでこんなことになっておるのか。よし、儂の不満はあやつで晴らしてもらおう。》


 シェオールが口を開くと、そこに重力場が形成され、その重力場を収束させることにより、漆黒の魔力球が展開される。

 そして、次の瞬間、そこから漆黒の重力波の奔流が解き放たれ、サマエルへと突き刺さる。強力な重力波の一撃はあらゆる存在を粉砕し、捻じ曲げて押しつぶす。

 その重力波を食らったサマエルの肉体は、再生したばかりでまた大きな穴が開いたが、その程度でどうこうなるサマエルではない。

 肉塊の表面に浮かんだ数千もの人間の顔が無念の絶叫を行い、怨嗟の念から発生する怨嗟結界を展開し、重力波を捻じ曲げて防御していく。

 さらに怨嗟を原動力とする怨嗟魔術を竜たちに叩きつけていく。

 それは、サマエルが今受けているダメージを相手へと返すという原初的な呪術である。核爆発などで受けた分のダメージが魔力光となって二頭の竜へと襲い掛かっていく。


《むっ、小賢しい。歪曲空間障壁展開!》


《重力障壁展開!!》


サマエルのその呪術に対して、ティフォーネは時空自体を歪めて歪曲空間を作り上げることによって防御し、シェオールは重力場による結界を展開することによってはじき返していく。


《むう、これは儂が本気出してしばき倒す必要がありそうじゃな。空帝、周囲にできるだけ被害がでないように広域結界を頼む》


《まあ、仕方ないですねぇ。》


 

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