第266話 無限食糧タングリスニ
―――神聖帝国内部。
竜皇国が危惧している神聖帝国の兵士たち。だが、彼らの士気も兵站も何もかもがすでにズタボロだった。
「お、お願いします!もう村には食料も何もないんです!捧げられる女性は全て捧げました!もう何もないんです!」
「うるさい!こっちだって何もないんだ!飢えて死ぬか強奪するかの瀬戸際なんだよ!軍だって飢えてしまっては戦えない!あいつらはそれを分かっていないんだ!!」
そこにいたのは、もはや野賊になりつつあった軍の一部隊だった。
重税を課し、ありとあらゆる食料は全て上層部の酒池肉林に使われる。
地脈の力が弱まっている以上、農作物の収穫さえ落ちているのに、さらなる重税に苦しんでいる農民たち。
そして、それに対して、神聖帝国の上層部は何もしようとしない。
まともな人間は、全て悪魔に取り込まれて洗脳されつつあったのだ。
そんな彼らの元にベキベキ、バキバキと木々を倒す音がしながら何かが近づいてくる。兵士たちや農民たちが何だ、と身構えると、そこからおよそ5メルーにも渡る肉の塊が飛び出してくる。
下部に生えている無数の人の足で何とかヨタヨタと歩いているその肉塊は、無数の人間の上半身が生えてのたうち回っていた。
「な、何だ!怪物か!?」
思わず逃げようとする農民たちと兵士たち。それに対して、その肉塊は案ずることはない、と無数の人間の声帯を使って彼らを停止させる。
「「おやおやおや。君たちは食料に困っているのかい?案ずることはない。我らは食料に困った人々のために作り出された『無限食糧タングリスニ』だよ。君たち困ってる下級市民たちに食べ物をもってきてあげたんだ。」」
そういうと、その肉塊は自分の体から生えている人間の上半身を数体引きちぎり、それを農民や兵士たちの前に放り投げる。
引きちぎられても生きている……活動しているその人間の上半身は、痛みを感じないようにゲタゲタ笑っているが、それに対して肉塊、無限食糧タングリスニが炎を放ち、あっという間にそれをミディアムへと変化させる。
そして最も恐ろしい事はその焼かれた肉から「美味しそうな香り」がしてくるということだ。
それに思わず嘔吐してしまう農民たちや兵士たち。いかに腹が減っているとはいえ、しばらくは肉は食えないだろう。
「「おやおや。焼きたてだよ。おいしいよ。どうしたのかな?食べないのかな?
それは残念。食べたら君たちも無限食糧タングリスニに変貌できたのに。」」
ゲタゲタゲタ、とその肉塊は彼らをせせら笑う。
これは、エキドナの落とし子の細胞と人間の細胞を融合させて作られた異形の怪物である。エキドナの落とし子の再生力を持っているため、多少食べられたところでその再生力ですぐに再生でき、食肉として活用できる。
だが、何度でも食べていく内に体がエキドナの落とし子の細胞に蝕まれ、その人間も無限食糧タングリスニへと変貌していく。
そうしてどんどん倍々ゲームで増殖していくのだ。まさしく文字通りの無限食糧という訳である。
「「まあいいや、いいよ。君たちには特別僕たちの肉を大量に食べさせてあげる。お腹いっぱいになってその後ほかの人の食糧になれるんだ。うれしいだろう?」」
無限食糧タングリスニはそう彼らをせせら笑った。
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