第252話 空中地雷

《がぁあああああ!畜生!体を寄越せ!体を返せ!》


《ノーボディ》は怒り狂っていた。

 実験体の失敗作として封印・睡眠処置を施されていたのが、いきなり封印から解放。

 何らかの痛みを癒す処置でも取られるのか、と思っていたらそのまま兵器として洗浄に投入。これで怒り狂わないはずがない。

 彼にとって敵も味方もない。すべての存在を粉微塵に粉砕しないと気が済まないのだ。

 まともな人間を食い散らすだけで体の痛みが少しだけ和らぐ。

 だったら、もう邪魔な竜機も帝都の人間も全て食い散らかしてやろう、と意気込んできたのに邪魔物だ。

 ならば、あの邪魔物を排除した後で全て食い散らかす、とリュフトヒェンとアーテルたちに襲い掛かる。


《来たぞ!しばらく妾が引き受ける!お主はしばらく『下準備』を行え!!》


 大口を叩いておきながら、リュフトヒェンとアーテルたちの攻撃は逃げの一手だ。

 ただでさえイライラしているのに、ああいう逃げのスタンスで挑発されるとさらに怒り回る。


《がぁあああああ!!ふざけるな!!まともに戦えぇえええ!!》


 ただでさえ冷静さを欠けているのに、さらに怒り狂った彼は竜語魔術を使うことなく、リュフトヒェンとアーテルに超絶機動で彼らへと掴みかかろうとする。

 遠距離攻撃ではなく噛み砕く事によって彼の体の痛みが和らぐらしい。

 だが、そんな彼に対して、いきなりとある空間を通ると、その部分が爆発してノーボディに対してダメージを与える。


《!?》


 いきなり空間が爆発したことに、ノーボディは驚きを隠せない。

 そう、リュフトヒェンは空を飛び回りつつ、この空域一面のあちこちに魔術で作り上げた爆発の魔術式を作り上げて設置していたのである。

 それは、まさしく空での透明な地雷そのものだ。

 遥か以前にアーテルと敵対したときに用いた方法ではあるが、こういった暴れまわる獣に対しては有効である、と彼は踏んだのである。

 確かに、リュフトヒェンたちも飛ぶルートは制限されて好き勝手には飛べなくなるが、きちんと設置した場所はリュフトヒェンの頭の中に入っている。


《妾に対してもデータ送っておけよ!気づかずにドガン!は勘弁じゃからな!!》


そのアーテルの声に答えるように、彼女へと魔術式を配置した空域の場所を脳内で図式化して転送した。これで彼女は問題ないはずである。

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