第235話 簡易的焼夷弾

「チッ……!肝心要の所で壊れるとは……!やはり試作品、信用ならねぇですわ~!!」


 結界すら貫通する高射砲のおかげで二機の《ノーム・ニクス》は大破状態になったものの、最後の一機はまだ健在である。

 ノーム・ニクスは、陣地防衛用の逆茂木を平然と四つ足で踏みつぶし、蹴散らしながら陣地内へとさらに進行していく。

 少なくとも、あの結界を何とかしなければこの状況を打破することはできない。

 いっそのこと、《ノーム・エルフリーデ》の時のように、自らが単騎で突っ込んでいって首を刈るべきか?とも考える。

 確かに彼女ならばそれも可能だろうが、あの散々部下に泣きつかれて二度とやらないと言った傍から突撃するのは我ながらどうか、と思ってしまう。

 そこで、ノーム・ニクスの背中などにしがみついている兵士たちを見て、ルクレツィアは邪悪な笑みを浮かべた。


「砲撃中止!竜騎士部隊に緊急連絡ですわ~!!指示した物を持って上空を飛行してくださいまし~!」


 そのルクレツィアの指示により、すぐさまノーム・ニクスの上空を竜騎士部隊のワイバーンが飛行する。

 ワイバーンには、とある壺のような物が括り付けられており、それを抱えながら何とか上空を飛行をする。


「投下!!」


 そして、ノーム・ニクスの上空から、竜騎士部隊はその括り付けられた壺を次々と投下する。無論、誘導装置もない、無誘導な壺が中々地上の目標には当たらないのは承知の上だ。

 だが、ノーム・ニクスは念のため結界を張ってそれを防御する。

 そして、落下する中で壺内部に入っているとある液体がまき散らされ、傘上の結界一面に降り注ぐ。

 さらに、上空から竜騎士たちは炎の魔術をその液体に落下させた瞬間、猛烈な勢いで燃え盛る。

 そう、この液体は油そのものである。つまり簡易的な弾を作り出したのである。

 今は結界によって油と炎は防がれているが、結界を消したらその炎と油は下にいるノーム・ニクスの上に乗っている兵士たちに降り注ぐ。

 兵士たちの事を思えば、ずっと結界を展開している他ない。

つまり、兵士たちを人質にして結界発生装置に負荷をかけようというのである。

兵士たちが逃げられないように、次は一旦竜騎士が油補給に向かっている間に支援砲撃を叩き込み、次に支援砲撃を中断している間に竜騎士が再度油と炎を叩き込む。


ノーム・ニクスも何とかその場から離脱しようとするが、竜騎士の探知と弾着観測用の使い魔の目からは逃れられない。

ついに結界発生装置が負荷に耐えられず壊れた瞬間、ノーム・ニクスの最後の一機が砲撃の雨霰を受けて粉砕されていった。

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