第219話 バアル神とアスタロトとの密会

 その頃、猫の姿をしたバアル神は集落を練り歩き、辺境伯の領地にまで顔を出すようになっていた。

 この世界では山賊や強盗が出るため、通常人は旅を行うためには護衛を雇うか軍の動きに一緒になってついていくのが普通である。

 だが、わざわざ猫に対してちょっかいをかけてくる物好きなどいるはずもない。

 英雄神の権能は失われてはいるが、悪魔バエルの力を引き出せば、山賊どもなど瞬時に殲滅できる。

(その分、魂の属性が悪魔に多少戻ってしまう欠点もあるが)


 ともあれ、農作物の繁栄をもたらすバアル神は、大地母神の神殿とは相容れない形ではあるが農民たちからの指示と信仰を集めつつあった。

 そんな村々を回っている彼の前に一匹の白蛇がにょろにょろと姿を姿を現す。


『ん?アスタロトの分身にゃ?何か用か?』


 その魔力波長はアスタロトの使い魔、分身だろうと判断したバアル神は、白蛇に対して話しかける。

 それに対して、アスタロトの分身の白蛇も、口を開いて会話を行う。


『うむ、端的に言うとウチのレジスタンスにもっと支援をくれ、という話だ。

 地脈の件もあるが、土地の作物の育ちが悪くなっている上に、重税に住民たちも喘いでいてな。レジスタンスたちも分け与えるだけの食糧がない。そこでそちらに支援を求めようというのだ。』


 その言葉を聞いて、肩を竦めようとしたバアル神だったが、猫の四足歩行の状態では難しいと悟り、そのまま皮肉げに言葉を返す。


『要はそっちもこちらにタカりたいって事にゃ。まー、伝えるだけは伝えるけど、我に決定権ないから知らんけどにゃ。それでそっちはどうなっているかにゃ?』


『ダメだな。上層部は酒池肉林で悪魔信仰に乗っ取られている。そしてその酒池肉林を行うために重税を行って民衆の支持が離れると。お約束の亡国ルートまっしぐらだな。』


 それを聞いて、思わずバアル神は眉をしかめながら、気分を落ち着けるために自分の体をクルーミングを始める。


『我らが言うのも何だけど……言いたくないけど……教皇庁何してるんだにゃ?悪魔信仰に乗っ取られた国とか放置するとかあり得ないにゃ?』


『まあ、そこは君も同じだけどね。』


『我は神霊だからノーカウントにゃ!もう悪魔とは縁を切ったにゃ!(切ったとは言っていない。)』


 現在、悪魔バエルとバアル神の関係は、未だに悪魔バエルの方が本体であり、バアル神は分身が神霊化した状況だ。

 だが、バエル自身もバアルが本体以上の力をつけたのなら、そちらが本体になってもいいと言っている。それこそが彼らの悲願なのだ。


『ともあれ……そちらに教皇庁の犬がいただろ?そこから教皇庁に神聖帝国の危険性を再度伝えておいてくれない?あそこに関わるのはこちらもそちらも嫌だろうから、あの犬に報告させよう。それで動かないほどの無能でないと信じたい。』


『我らが教皇庁の有能さを祈らなければならないとは……皮肉極まりないにゃあ。』


バアル神はそう言うと深々とため息をついた?


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