第178話 シロアリ人ターマイト

「あーっはっはっは!!ざまぁみろ!!」


 軍隊蟻人とアーテルたちの戦いを遠目で見ながら、水晶玉を持った一人の蟻人種族の少女が哄笑していた。

 彼女は軍隊蟻人ではなく、通常の蟻人でもない。

 頑丈な外骨格にも覆われておらず、白い柔らかい外骨格に覆われた彼女は、軍隊蟻人たちに食料扱いされ、人族からも忌み嫌われるシロアリ族の一人だった。

 シロアリは蟻という名前こそついているが、正確には蟻ではなく、ゴキブリに近い種族であり人族からも蟻族からも忌み嫌われる差別を受けている種族だった。

 そのため、通常は彼女たちは自分たちの蟻塚に籠って外界に興味を示さないのが普通である。

 せいぜい働きアリたちや兵隊アリたちが外界に出て狩りを行う程度のものである。


「いやぁ愉快愉快。まさかこれほど上手くいくとは。

 これなら、私をゴキブリと馬鹿にした人族どもにも、脳筋の軍隊蟻人たちどもにも、高慢なエルフ族どもにも一泡吹かすことができそうだわ!!」


 その中でも、彼女、ターマイトは異端だった。

 副女王の立場でありながら外界に積極的に関わり……そして、その差別に散々辛苦を味わった存在である。

 そのため、彼女は様々な多種族に対して復讐をすることを決断したのだ。

 そんな彼女に接触してきたのは、神聖帝国から来たというとあるフードをすっぽりと頭から被った魔術師だった。


 魔術師は、彼女に魔術で改造された菌類を渡し、それに侵されたものを制御できる水晶玉を手渡した。

 半信半疑の彼女ではあったが、彼女たちの天敵である軍隊蟻人を自由に操られるのを見て、彼女は成功を確信した。

 軍隊蟻人は、白蟻人にとって天敵でありいつも食料扱いされ、蟻塚を襲撃され食料として貪り食われている。そんな天敵を自由自在に操れる快感は、何物にも代えがたいものだった。


「ええ!貴方から借りたええと、菌類だっけ?

 その胞子をあいつらに振りまいただけで、まさかこれほど私の言いなりになるとは思わなかったわ!

 まずは世界樹に向けられた先遣隊が私の言いなりになったけど、今度はこいつらにこの菌を大量に持たせて巣に持ち帰らせるわ!

 そうなれば、軍隊蟻人たちが丸ごと私の言いなりになるってわけ!!」


 これは所謂「ソンビアリ菌」と言われる冬虫夏草菌の一種である。

 このゾンビアリ菌は、蟻人たちに寄生し、体表に付着した胞子は急速に成長し、脳内へと侵食していく。そして、その菌が脳を囲み、脳内へと干渉して、術者の言いなりへと変貌していくのだ。

 その彼女の言葉に、魔術師は大きく頷いた。


「それは結構。これは我ら神聖帝国の有効な研究データになるからね。

 アリに巣くう菌を蟻人用に改造して洗脳術式を作り上げた甲斐があるというものだ。

 蟻人たちの巣を菌で浸食させたいのなら、菌に侵された蟻人たちを巣へと帰らせるだけでいい。時間がたてば、彼女たちの体内から大量の胞子が周囲に放たされて他の蟻人たちを侵食していくはずだ。」


「そんなに楽でいいのね!!あーっはっはっは!!これはもう勝ったも同然ね!

 これで軍隊蟻人全てを私の奴隷に変えてやるわ!

 そして!他の人族や亜人どもやエルフ族、そして私の同胞である白蟻人どもに目にもの見せてやるのよー!!もう二度と!私をゴキブリなんて言えなくしてやるわー!!」


「そのあとで、世界樹に同胞である白蟻人たちを大量に移住させてやるのよ!!

 世界樹こそ私たちの理想の住居!この私が!同胞たちを約束された理想の地へと導いてあげるのよ!そうなれば、今までバカにされてた私も神のように崇拝されるに決まっているわ!待ってなさい!!」


 びしっと世界樹の方面を指さして堂々と答える彼女。確かにそれが叶えば副女王から女王になる事も不可能ではないだろう。

 だが、そんなに上手くいくかな?と魔術師は心の中で呟いた。


「ともあれ!この菌に侵された軍隊蟻人を二つに分けましょう。一つは軍隊蟻人の巣に帰して他の軍隊蟻人たちを胞子で侵食させる役。

 もう一つは、私と一緒に蟻塚に帰って見せ物にするのよ!!今まで天敵だった軍隊蟻人を私の下僕に変えたと知られれば!皆からの羨望間違いなしよー!!」


 あーっはっは!と彼女は胸を反り返して高笑いを響かせる。

 だが、それに対して魔術師はフードの中でほくそ笑んでいた。

 何故この菌類がターマイトに対して通じないのか。

 そして、それは本当に他のシロアリ人族に通用しないのか、彼女はもっとそこを考えるべきだったのである。


(汚らわしいゴキブリどもが。こんな害虫に力を与えるなど不愉快だが、さっさと軍隊蟻人共々滅んでしまえばいい。欲を言えばあの竜の勢力に打撃を与えてほしいが、そこまでは望みすぎか……。まあいい、ゴキブリ滅ぶべし、だ。)


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