第177話 体勢建て直し

何とか軍隊蟻人たちを撃退して撤退を開始しているアーテルとハイエルフたち。

だが、このままでは再度軍隊を纏めて攻撃されてしまう可能性がある。

それを知っているアーテルは、超低空で森の上空を飛行しながら新しい作戦を考える。


『ふぅーむ。しかしやはりあの蟻人ども、自分たちの匂いで攻撃目標などを決めておるようじゃな。それならそれでやりようはあるか。

 おい、リュフトヒェン……というか配下の女魔術師にあの蟻人たちが使う匂いの開発を行えと言っておけ。』


 それをハイエルフたちに言うとアーテルは、蟻人たちのいるであろうおおまかな位置だけを把握して、上空を飛行してそこに先ほど行ったように魔力のこもった雨を降らせる事によって、蟻人たちのフェロモンを洗い流していく。

 あとは、彼らのフェロモンがこちらでも開発できれば、彼女たちを誘導することも可能なはずだ。


 視力があまり良くない蟻人たちにとっては、匂いのフェロモンこそが文字通りの命綱である。それを失った以上、個体としての戦闘はできるものの、群体としての戦闘は不可能と言ってもいい。


 これで少なくともしばらくは群れで襲い掛かることはできないはずである。

 再びフェロモンで道を作って攻撃を仕掛けてくるかもしれないが、それまでの時間稼ぎはできたはずだ。

 さらに、ハイエルフたちは森に方向感覚が狂う迷いの結界などを再度張り巡らせて、蟻人族が再度襲撃してくるのを少しでも減らそうとする。

 そうして、少しでも時間稼ぎのための準備が終わった後で、彼女たちは速やかに撤退を行っていった。


『しっかし、それにしてもあの蟻人ども何が狙いで侵攻してるんじゃ?

 このまま絶滅戦争とかマジで勘弁じゃぞ?損ばかりで旨味がまるでないではないか。

 あいつらチキチキ言うばかりでまるで話にならんからのぅ。』


「恐らく、世界樹を狙っているとは思うのですが……確かに相手の狙いが分からないのは気になりますね。しかも会話も通じないとなると、交渉も戦いの落としどころも全くなくなりますから……。」


 結界などを張り終わって退避にかかるハイエルフたちもアーテルの言葉に賛同した。

 彼女たちによると、たまに襲ってくる事はあったが、こう何度も本格的侵攻を行ってきたことはなかったらしい。

 しかも、以前は多少はコミュニケーションが取れていたのだが、今回は全く話もせずに襲い掛かってきているので困惑しているのだとか。


『ううむ、困ったのぅ。一番困るのがあやつらは地下深くに巣を作っている事じゃ。

 妾たちお得意の魔術爆撃も地下深くに籠っては通用せんしのう……。

 地下に籠ったまま散発的なゲリラ戦闘とか仕掛けられたらかなり厄介じゃぞ。』


 そう、彼女たち竜族にとって一番厄介なのはそれである。

 これが通常の城などならば、上空から無数の魔術爆撃をすればいいだけの話ではあるが、相手が地中深くに存在する巨大なアリの巣となれば話は違ってくる。

 いくら地表を爆撃しても、地中深くに存在するアリの巣には全く通用しない。

 しかも、竜はその巨体から地下のダンジョンのような彼女たちの巣に入ることができない。非常に厄介な存在なのである。


『しかも、もし万が一こことか世界樹とかを迂回して妾たちの領地まで攻め入られたり、地下の巣が伸びてきたら厄介じゃからのう……。まあ、とりあえずリュフトヒェンに相談してみるしかないか……。』

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