第158話 水蛇ペルーダ

 砲手である魔術師が、砲台に魔力カードリッジを装填し、取っ手に手をかけて軽く魔力を流すと安全装置が解放され、魔術砲台の砲口の周囲に魔法陣が浮かび、そこから光弾に見える魔力弾が直射で発射される。

 無論、一発で当たるはずもないが、川などに着弾している魔力弾を少しづつ微調整して、ゴブリンたちのいる場所へと近づけていく。

 今回は試作品のため、安全装置として取っ手に魔力を流さないと撃てない仕組みになっているが、今回の実戦結果を持って帰って、一般人でも撃てるように改造する予定である。魔術師としては階位が低い熱心者(ジェレーター)でも撃てる程度の物であるが、やはり魔術の素養がない一般人でも安全に打てるようにならなくてはいけない。


「今度は散弾モードにしてみて下さい。そろそろ命中するでしょう。」


 セレスティーナのいう通り、散弾モードになった魔力弾がコブリンたちの潜んでいる川の向こう岸に着弾すると同時に、爆発した魔力弾は散弾となってその周囲にいるゴブリンたちへと襲い掛かる。

 さらに、容赦なしに次々と砲手は魔力弾をその箇所へと叩き込んでいく。

 着弾すると同時に、光弾は破裂し、細かい光の散弾が四方八方自然問わずゴブリン問わず全てを切り裂き、吹き飛ばしていく。

 塹壕にこもっているならともかく、ゴブリンたちは自然の木々の中に隠れているだけだ。この状況では、光の散弾や衝撃波も防げるはずもない。

 さすがに弓矢しかないこの状況では不利と思ったのか、ゴブリンたちはその爆音と散弾の中を慌てて森の中へと逃げ込んでいった。


「よし、それでは撃ち方辞めで。しばらく置いて冷えた後で試射の結果を調べてみましょう。」


 魔力カードリッジに魔力を補給した後で、セレスティーナは超音波で魔術砲台の砲身の痛みを調べるが、やはり数発程度では何ら支障はないようである。

 後は実戦での運用で何か問題がないか調べてみるしかないだろう。


 ゴブリンたちを撃退した彼らは、そのまま順調な川の旅を楽しみ予定……だったのだが、そうはいかないのが世の中の常である。

 ゴブリンたちを蹴散らしている中でも、周囲を水中で警戒していたリザートマンたちが、慌てた声で船上にいるセレスティーナたちに注意を促す。


「大変だ!怪物だ!水蛇ペルーダがこちらに向かってくるぞ!!」


 その声と共に、大きな津波が襲い掛かり、セレスティーナたちが乗っている川船を大きく揺らす。重い金を積んでいるために何とか転覆を免れた形である。

 セレスティーナたちはめいめいに船のあちこちに捕まり、何とか水中に転落するのを避ける。


 そして、川の中から水面を割りつつ、一体の巨大な竜……いや、蛇が姿を現す。

 蛇頭蛇尾で、丸い胴体に緑色の長い体毛が生え、その中には有毒の刺がいくつも生えているおよそ10メルーほどの巨大な蛇。

 それこそ、リザートマンたちが恐れている水蛇ペルーダと呼ばれる存在だった。

 伝説によると、ペルーダは口から炎を吐き、洪水を起こして飢饉を起こし、人々を貪り食らったという。

 今までセレスティーナたちと出会わなかったのは、純粋に生活圏自体が離れていたからだろう。


『グァアアアア!!』


天に向かって大きく咆哮した後、ペルーダはこちらに向かってついに襲いかかってきた。





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