第157話 魔術砲台試射(なお実戦)

 金塊を大量に乗せた川船は川の流れに従って下流へと下っていく。

 しかし、とは言ってもただ大自然を満喫するのんびりとした川下りではない。

 大辺境自体が前人未踏なのもあって、この川も比較的大きいが、初めて川下りをおこなっている以上、未知の浅瀬や危険な流れなど山ほどある。

 そのため、リザートマンたちが水中を先に派遣して確認しながら誘導を行っている。


 水中を自在に動けるリザートマンたちは船の誘導人や先遣隊としては非常に優秀であり、その有効性はこの船旅でも有効に生かされていた。

 大辺境が前人未踏とはいっても、山賊などはすでに入り込んでおり、金の詰まった船を奪おうと襲い掛かってくる危険性もある。

 十分に周囲を注意しながら彼らは川を下っていく。そんな中、一人のリザードマンが船へと近づいてきて、水中から頭を出して話しかけてくる。


「巫女様。これより下流はしばらく穏やかな流れになります。船も安定して進めることができるかと。」


 爬虫人そのものの顔を見ると、慣れていない人たちは極端に恐れるだろうが、もう慣れつつあるセレスティーナは、船上から水中にいるリザートマンに話しかける。


「ありがとう。礼を言います。貴方たちも無理はしないように。」


 その言葉に頷くと、彼らは水中へと消えていった。

 船員たちも、大分彼らの異形の姿に慣れたのか、水中で船を警護している彼らを見ながら親しげに会話を行っていく。


「いやぁ。始め見たときはびびったけど、話も通じるし悪くない奴らだな。」


「ああ、いきなり生肉を食べ始めた時はどうかと思ったが、まあ元が人間離れした種族だもんな。そういう種族だと割り切って考えればまぁ。」


 エルフやドワーフたちのように、人間に近い種族ではなく、異形の爬虫人の種族の彼らは、セレスティーナが新しく開いた神竜信仰ではなく、太古からの竜信仰、源竜信仰を維持しており、やがて竜になるために、あえて文明から離れ、傍からみたら野蛮に見える生活を送っている。

 だが、人と程遠い姿をしているからこそ、源竜信仰を野蛮と罵るのではなく。「そういう種族だ」と割り切って考える人たちが多くなっているのだろう。


「それよりも、周囲を警戒してください。最近は大辺境でも山賊が出るらしいですから。金を運んでくるなどと言ったら、絶対に襲い掛かってくるでしょうから。」


 こんな前人未踏の場所に山賊や盗賊なんて出てくるはずがない。

 しかも、川を渡っている船を襲ってくるはずがない。

 そんな油断をしている彼らをせせら笑うように、川向こうから数本の矢が風を切ってこちらに襲い掛かってくる。

 いきなりの攻撃に、慌てた船員たちはパニックになりかかるが、セレスティーナは彼らに対して的確な指示を飛ばす。


「一般の船員たちは退避を!護衛班はクロスボウ、並びに砲台の準備をしてください!」


 襲い掛かってくる矢に対して、セレスティーナは船に矢返しの呪文をかけると、こちらに襲い掛かってきた矢は矢逸らしの呪文で次々と逸らしていく。

 見たところ、山賊ではなく、ゴブリン集団がこちらに矢での攻撃を仕掛けているらしい。なるほど。ゴブリンならば街道沿いでないこのような場所にも出現するのは納得いく。


 クロスボウで応戦する兵士たちと共に、セレスティーナは使い魔の鳩を飛ばし、上空から大体の向こう岸のゴブリンの位置を把握する。

 そして、上空から把握した位置を、船の魔術砲台の砲手へと通達する。


「敵ゴブリンの場所は大体あそこらへんです!距離はおよそ五百!

 敵数は上空から確認できる数は二十!ぶっぱなして下さい!!」


 そのセレスティーナの声と共に、魔術砲台の砲手は魔術カードリッジを叩き込み、砲台の先を指定された方向へと向ける。

 魔術弾は通常の砲弾とは異なり、質量が存在しないので、曲射を行うためには特別な魔術式を組み込まなくてはならない。

 ならば、直接叩き込んで吹き飛ばそうというのである。

 指定された場所に砲口を向けると、砲手である魔術師は狙いを定めて叫んだ。


「撃てー!」



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