第142話 ニーズホッグ分体
村の跡地に辿り着いたリュートは、その有様に絶望した。
邪魔だったのかエルフの匂いがする物を傍においておきたくなかったのか、ハイエルフの里は避難した時よりさらに大きく破壊されていたのだ。
ほぼ全ての住居が破壊されて瓦礫の山になっており、ニーズホッグ分体にとってはハイエルフはかなり目障りだったのが、そこからも理解できる。
まあ、ハイエルフたちもニーズホッグ分体迎撃のために、出撃し、彼に痛手を負わせたので、ハイエルフたちを憎む気持ちも理解できる。
だが、自らの故郷がこのように荒らされて平然とできるほど、彼女たちも大人しい性格はしていない。
歯がみをしながら、ニーズホッグ分体に悟られないようにこっそりと瓦礫に交じりながら、世界樹の根元の大きな穴へと近づいていく。
あの穴は以前にはなかった穴だというのは、はっきりと分かる。
確実に、あの深い穴の中に、ニーズホッグ分体が潜んで世界樹の根を齧っているのだろう。
リュフトヒェンとアーテルたちは、すでに世界樹の上空で待機しながら旋回を行って、ニーズホッグ分体が飛び出してくるのを待ち構えている。
それを見て、リュートたちは頷くと、魔術による空間の歪みから次々と大量の樽を出して、その樽を次々と穴の淵へと置いていく。
その樽は、赤と青に色分けされており、まずは青の樽を次々と穴の中に突き落としていく。
この樽の中には、猛毒入りの塩などが含まれたエレンスゲの肉が入っている。
ニーズホッグ分体にとって、強力な滋養のあるエレンスゲの肉は、まさに傷を癒すご馳走と言っていい。
それが次々と空から降ってくるのだ。ニーズホッグが食いつかないはずはない。
ずずず、べきばきと穴の底で微かな音がしている所を見ると、狙い通り食いついているらしい。
そして、しばらくして、恐らく全て食らいつくした後で、次は赤の樽をハイエルフたちは次々と穴へと叩き込む。
こちらは発酵……いや、腐敗の魔術で半分腐っているエレンスゲの肉であり、今まで樽にかけられた悪臭防止の魔術も解除され、猛烈な悪臭が穴の中に立ち込めているだろう。
間を置かず、その赤い樽全てを穴へと落とした彼女たちは、リュフトヒェンとアーテルたちに知らせるように、上空へと照明弾代わりの閃光を放つ魔力弾を放つと、それを上空へと撃ち出すと、さっさとそこから退避し、ニーズホッグ分体が出てくる前に姿を隠していく。
そして、続いてのその腐敗した肉の匂いに耐えかねたのか、ずずず、と穴のみならず周囲の地面が振動し、ついにその穴から巨大な何かが飛び出してくる。
およそ20mほどの巨体に、漆黒の鱗に覆われた複数の足が存在する、竜と百足が融合したような異形の竜体。
顔はのっぺりとした眼球が存在しない代わりに、巨大な発達した口と鋭い牙をむき出しにしながら咆哮する存在。
それこそが、ハイエルフの里を崩壊させ、世界樹の根に食らいついていたニーズホッグ分体だった。
ニーズホッグ分体は口から涎をまき散らし、咆哮しながら天空へと舞い上がっていく。まずは己の住処に妙な物をまき散らした不届き者を罰するために、一度飛翔し周囲を見渡すニーズホッグ分体。
視界こそ退化しているものの、何らかの方法で潜んでいる不審者を探り出そうと下を見下ろすニーズホッグ分体に対して、上空から雷などの魔術爆撃が降り注ぐ。
ニーズホッグ分体が上を見上げると、そこには、ニーズホッグ分体を挑発するようにさらなる上空を旋回している二頭の竜が存在した。
『ガァアアアア!!』
ただでさえ怒り狂っているニーズホッグ分体は、目障りな上空の竜を排除すべく、翼をはためかせて上空へと疾駆していった。
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