第103話 対マンティコア戦

「ご主人様。どうか御武運を……。」


 オドントティラヌスに立ち向かっていくリュフトヒェンを見上げながら、セレスティーナは小さく呟く。

 そして、彼女たちは自らの役目を果たすべく、左の魔法陣に転送されてきたマンティコアに対してセレスティーナと神官兵士たちを引き付けれて立ち向かっていく。


「いいか!貴方たちはご主人様のために生き、ご主人様のために死ぬ肉盾である!

 ご主人様のために死ぬ事以外、その命を無駄にする事は許されない!

 私のことは考えず、自分が生き延びる事だけ考えなさい!以上です!!」


「「「了解ッ!!」」」


 セレスティーナは新しく与えられた竜骨杖を振りかざしながら、神官兵士たちに指示を出す。もっとも、神官兵士たちもまだまだ新入りたちであり戦闘経験不足である。

 ならば、最も戦闘経験があるセレスティーナが前に出てマンティコアと戦うしかない。神官兵士たちは、マンティコアの棘用に大盾を持ってセレスティーナの盾(文字通りの)として前線に立つ予定である。


 ライオンのような胴体、老人のように歪んだ顔、そして、鋭い爪にサソリのような尾、矢のように飛び散る24本の棘が存在しているマンティコアは、にんまりとセレスティーナたちに邪悪な笑みを浮かべる。

 そして、木々に隠れながら飛んでくるのは広範囲呪文である”麻痺の雲”

 体を麻痺させて、意識のあるまま体を貪り食らうのがマンティコアの最近の流行である。だが、その”麻痺の雲”は神官戦士たちとセレスティーナ、そして兵士たちは、皆レジストして無効化する。


 それは、予めそれを予期してセレスティーナがレジスト強化の呪文を皆にかけていたからである。


「テストゥド陣形!かかれ!!」


 セレスティーナの声と共に、巨大な長方形の盾を手にした兵士たちは前に大盾をずらりと揃えて、さらに自らの上部も大盾で防御を行う。

 これは、簡単に言うと古代ローマの陣形、テストゥドと呼ばれる防御陣形である。

 そして、そのさらに後部にはマンティコアが突っ込んでこないように、ウォーワゴンが旅団の人々を守護するための盾となり、そこから弓やクロスボウ、銃などが構えられている。


 木々に隠れ、高速で木々を盾にして走り回り、尾の毒針を射撃武器としてこちらに射出するマンティコアに対する防御形態の布陣である。

 数で劣るが、圧倒的な戦力を誇るマンティコアは、木々に隠れながら尾の毒針を射出してテストゥド陣形を取っている兵士や神官戦士へと攻撃を仕掛ける。

 だが、神官戦士やセレスティーナの魔術により強化が施されている大盾は、毒針を見事に防ぎきる。

 その間に、後部のウォーワゴンからの弓矢の攻撃や、デストゥドの大盾の隙間からのマスケット銃の攻撃がマンティコアへと襲い掛かる。

 だが、その攻撃をマンティコアは華麗に回避して、木々に逃げ込み、さらなる毒針攻撃をこちらに仕掛けてくる。


 こちらには残弾の火薬や予備の矢は存在してはいるが、向こうは24本しか存在していない。それを打ち尽くしたのなら、戦法を変えてくるはずだ。


 大地を硬質化させて槍として突き出して相手を串刺しにする”大地の槍”の術式をかけているが、俊敏なマンティコアはその俊敏性を生かして中々ひっかかってくれない。


 そのうち、毒棘もなくなって痺れを切らしたマンティコアは、咆哮を上げながら真っすぐこちらへと突撃してきた。

 テストゥドは、高い防御力を誇るが、「密集しすぎているので、通常の白兵戦が困難」「迅速に移動できない」「盾の防御力を上回る攻撃力には対応できない」という欠点がある。

 そのため、マンティコアは、自らの肉体を弾丸として、突っ込んでテストゥド陣形を粉砕しようというのだ。


 だが、そのまっすぐ突っ込んでくるのは、セレスティーナにとっては好機であった。


「『大地の槍 エールデ・シュペーア』!並びに『冥界の劫火ウンターヴェルト・ヘルファイア』!」


 大地から上に向かって噴き上って炸裂する冥界の炎柱。

 そして、同様に大地から上に向かって鋭く突き上がる硬質状の土槍。

 その面制圧とも言える広範囲攻撃を回避しきれず、マンティコアの前足、後ろ足が大地から生えた槍に貫かれ、身動きが取れなくなる。

その瞬間を狙って、大盾が左右に動き、そこからセレスティーナが飛び出してくる。


彼女は、手にした竜骨杖に魔力の刃を展開しながら疾走し、身動きの取れなくなったマンティコアの顔面を、魔力の刃で叩き切り、両断する。

両断された顔面から多量の出血を撒き散らしながら、なおも暴れまわるマンティコアに対して、セレスティーナは冥界の炎柱を召喚して、マンティコアを焼き付くす。


いかに生命力が強い魔獣といえど、ここまでされてはもうどうしようもない。

体液を撒き散らしながら、マンティコアは息絶えたのだった。



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