第99話 クーデターを企む老害
とある会議室。そこは旧帝国の中立派たちの一部が集まっており、怒り狂った彼らは憤懣やるせない、とお互い大声でリュフトヒェンに対して文句を言い放っていた。
「あの竜め!調子に乗り追って!この国を自分の物だと思い込んでおる!」
「然り!我ら旧帝国派を舐めておる!何か神聖帝国は非人道的な国~じゃ!
ワシらの事を侮っておるわ!!」
彼らは結局、ただ状況に流されるだけの何もしなかった貴族たちである。
一応名目上はリュフトヒェンに従っているが、心の中では華やかな帝国よもう一度!と心の底から願っているのだ。
旧帝国中立派で完全に切り替えて、リュフトヒェンに従った者たちはおよそ半数。
他の半数はこのように渋々と不満を抱えながらだらだらしている者たちである。
「ところで聞いた所によると……。この土地に旧帝国の王位継承権を持つ者がいるとか。それを抱えてクーデターを起こせば、この国は割れるのではないか?」
「うむ、神聖帝国からもそれを促す打診が我らのところに来ておるしのう。
……とりあえず、その継承権を持つ人物を探し出すか。」
やろう、やろう。そういう事になった。
そして、そんな旧帝国の貴族たちの復権を狙った一部貴族たちの動きは、たちまち元帝国中立派であるシャルロッテの耳にも届いてきた。
「何ふざけた事言ってるのよ老害どもが!!せっかく安定してきたこの国に、また戦火を起こす気なの!?ざけんじゃないってのよ!!」
老害どもを抑えきれない我が身の怒りと、身勝手に自分たちの権力欲を満たすことしか考えていない旧態化した旧中立派に対して、流石の彼女も見放してパージする事しか考える。
そして、執務室でカンカンになって怒っているシャルロッテの傍にいるのは、偶像の一人であるジェーン・ドゥだった。
呆れた目でシャルロッテの怒りを見ているジェーンは、シャルロッテに対して口を開く。
「……で、それが私をここに呼び出した理由?もしかして、私が旧穏健派と協力してクーデター軍を起こさないかって?」
「ええ、そうね。ジェーン・ドゥ……もとい、旧帝国王位継承権第三位、レーラァ・フォン・ホーエンツォレルン様。
貴女の考えによっては、この国が再度ひっくり返される可能性もあるけど……。どうする?」
そう、旧帝国の第三位の王位継承権を持つ存在、側室から生まれたからそれこそが彼女、ジェーン・ドゥである。
シャルロッテは穏健派の重鎮として、彼女を保護し、政治闘争とは比較的無縁な穏やかな生活を送らせたいと願っていたのである。
もっとも、その経験は彼女の精神に多大な悪影響を与えてしまい、全てに虚無的な無気力な女性へと姿を変えてしまったのである。
その頃に比べれば、今の偶像としての彼女は遥かに生き生きとしている。
「やるわけないでしょ。バカバカしい。側室の子である私が今更旧帝国の王位継承権があります~なんて言い出したら面倒くさい事になるでしょうが。
今の私は何もかも捨てたジェーン・ドゥ。それでいいのよ。旧帝国も神聖帝国もクソ食らえだわ。それに、今の偶像の方が遥かに、その、まあ、悪くないし?
私、今のこの生活捨てる気ないわよ?」
そのジェーン・ドゥの言葉にシャルロッテもほっ、と一息をつく。
全てに無気力だった彼女を案じたシャルロッテは、魔術で多少顔をいじり、どこともしれない女性、ジェーン・ドゥとして偶像として(無理矢理)立候補させたのである。王位継承権を持つ女性を堂々と人目のある所に出すのはどうかと思ったのだが、そんな女性が堂々と歌手活動を行っているなど貴族たちの予想を上回っており、未だに全く気づかれた事はない。
今の彼女に足りないのは、共に汗を流すことのできる仲間と目的に対して進む事のできる情熱である。
良い方向に進みつつあることにほっとしたシャルロッテだったが、逆にこの状況で平穏をひっくり返すクーデターを企む老害には燃え盛るほどの怒りを覚える。
「とりあえず……老害どもは叩き潰すしかないわね。大人しくしていれば見逃してやったものを……。やると決めたらやるのがアタシの流儀よ。」
「……ところで、私も偶像としてみんなと一緒に地方回りをしたかったんだけど、私一人だけこうして保護されているのは、そういう訳なの?」
「ええ、貴女のことが漏れて老害どもに確保されては困るのよ。できればここで大人しくしてほしいけど……ダメそうね。」
はあ、とシャルロッテはため息をつくと配下の手配と早馬の手配を行う。
個人的には自分の手元できちんと保護したかったのだが、彼女のメンタルケアなども考えると他の偶像たちと一緒に活動させておいた方がよさそうである、とシャルロッテは判断した。
何せ人数が多い上に地図作りの真似事も行っているので、自然と行軍も遅くなっているはずだ。
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