第98話 貨幣統一と地図作り

 ドラゴン揺れる~♪と某ド〇〇ナの歌を歌いたい気分で始まった行幸だったが、早速の問題が起こった。

 それは、リュフトヒェンは空の飛行は強いが、馬車の揺れには弱い、という事である。そもそも、竜としての存在そのものが、馬車に乗る、という事に対して適していないともいえるだろう。


『ぐぇ~。やっぱり馬車の振動は苦手だなぁ。』


「大丈夫ですか?ご主人様。私の膝の上にどうぞ。」


 そういいながら。セレスティーナはリュフトヒェンは自分の膝の上に乗せる。

 いつものようにリュフトヒェンを抱きしめモードに入ると、彼女の胸で固定されてしまう形になってしまう。

 非常に柔らかい感覚と香水からなるいい匂い、そして最小限の振動にリュフトヒェンも思わず彼女の胸に落ち着いてしまう。


 ちなみに、開拓のための人数や器具を詰め込んだ馬車だけでなく、それについてぞろぞろと徒歩の一般民たちや商人たちなどもついてきているのでどうしても遅くなってしまうのは仕方ない。

 治安が悪いこの時代、一人旅など危険極まりない。

 そのため、皆旅をするときには、こうした旅団と一緒になって護衛を頼りにして旅をするのである。


 他のジェーン・ドゥを除く二人の偶像たちも他の馬車に乗っている。

これはついでなので地方巡業を行って各地の村々で踊って偶像たちの評判を高めようという思惑である。やはりアイドル活動といえばドサ周りは基本だろう。

(他二人はジェーン・ドゥがついてこないのを不思議がっていたが)

 リュフトヒェンの目的はそれだけではなく、各地の村を回って金をばらまいて自分に対する忠誠を集めるという目的がある。

 略奪など行って金を集めるのではなく、逆に金をばらまいて地方や村々を活性化させて、自分への忠誠を誓わせる。(もちろん領主も)

 未だこの国の王が竜である事も知らない人々が多数いる中、そうして信仰やら知名度を集める事によってさらに自分の力を高めようとする目的もある。

 


『はあ、アーテルみたいに空でひとっ飛びすれば楽になのに、わざわざ馬車で陸路を行くなんて面倒くさいなぁ……。今からでも飛んでいっちゃダメ?』


「ダメです。ご主人様は空を自在に飛翔することができますが、地に足をつけた人間の営みは疎い面もあります。こうしてじっくりと国内の問題点を見て回りましょう。

 それが、富国強兵の一番の近道になります。」


 そんなもんかねぇ……。と思いながらまずは竜都から辺境伯の大都市にまで旅を続けている間にリュフトヒェンは気づくことは多かった。


 まずは、貨幣の不統一である。現状、帝国での経済政策により、様々な貨幣が乱立しており、錬金術師たちが作り出した粗悪な貨幣(当然犯罪である)も出回っていることすら見受けられた。

 この辺を一刀両断にし、新貨幣を作り出して、粗悪な貨幣を排除しなくてはならない。シャルロッテやルクレツィアにも意見を聞いて、新貨幣を作り出すための準備をするべく、そのアイデアをしたためた紙を竜都へと送る。


 さらに次に気になったのは、畑の大きさ、どれくらいのヘクタールを所有しているか調べる、いわゆる検地だった。

 検地は税収集の基本であり、当然嫌われたりごまかされたりする事も多かったが、これなくしては税は集められない。

  だが、それは各貴族に存在している査定免除特権を没収しなければならない。

つまり、それを行えるだけの中央集権国家にしなければならないという実に長い話になってしまう。

 とりあえず、彼らは道すがらの地図を作る作業を始めた。

地図は極めて軍事的に有効であり、地形の把握は戦場において最重要である。

それを調べられる貴族たちは面白くないだろうが、国家としては必要なのだから仕方ない。


『でも、封建制のこの世界で検地なんてしたら領主がマジ切れするだろうしなぁ。

どないしよ。』


「臣下の臣下は臣下でない」と中世ヨーロッパではよく言われる。

あくまで主従関係によって繋がっており、例えば辺境伯配下の領主は名義上はリュフトヒェンの部下ではあるが、恐らく彼らは命令をしてもすんなりとそれを受けられないだろう。

あくまで、彼ら彼女たちは契約による主従関係と、それによる報酬によって繋がっている。つまり、御恩と奉公の関係である。

こんな状況で他領主たちの検地を行って彼らの懐に手を突っ込む真似をしたら、確実に反感を買って反逆されるのがオチである。


つまり、封建制から中央集権国家へとこの国を変化させていきたい。

それがリュフトヒェンの狙いではあるが、そんな事を簡単に地方領主たちが許すはずもない。


『やっぱり我が直接全国を検地とか無理だよなぁ。

早くやっても何も言われない強力な中央集権国家を作りたい。

というか、地図つくりも彼らに文句言われそうな予感。』


『ふーむ、なるほど……。空から見たらこんな感じだったが、馬車から見るとまた違っているんだなぁ……。とりあえずしっかりと地図に書き込んでおいてね。』


「はい、ご主人様。」


検地の代替えとして、彼らは道すがらの地図を作っていく。

 以前、リュフトヒェンはここら近辺の上空を飛行した際に大まかな地形だけは覚えて地図にしていたのだが、やはり実際に地上から見てみるとかなり違った形になっていく。

 馬車から出て空から地上を観測してさらに地上から馬車からみた地形などを書き加えていく。本当は様々な測量機械を使って測定を行いたかったのだが、さすがに治安の問題などもあるため、そこまでは出来なかった。



「その時はその時です。この程度でこちらに危害を見せるような貴族たちは、もうすでに竜皇様に逆らおうとしている存在。滅ぼしていいと思います。」


まし崩し的にこちらに従っているだけで、リュフトヒェンの事をよく思っていない旧帝国穏健派はまだそれなりに存在する。

この巡行も、地図作りも、それらこちらに危害を与える旧帝国穏健派の貴族たちをおびき寄せて、それを倒して、竜皇国の力を安定化させる事を狙っているのだ。













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