第96話 わがままを言う社会的幼女
さて、ここで順調に大辺境開拓の準備を整えていたリュフトヒェンたちだったが、一つの問題を抱える事になった、それはチョロ竜……もとい、アーテルだった。
「やだ。妾行かないもん。」
ぷいっと、頬を膨らませながらそっぽを向くアーテル。
とはいうものの、彼女の領地も本格的に開拓を行っていくのだから、肝心要の彼女がいないと困ってしまう。
彼女の縄張りということは、どこに何があるか、危険物はどこにあるがも大よそ把握しているだろうし、何か怪物が出てきたとしても、その地域の支配者であるアーテルが出ていけばたちまち逃げ出してしまう事は間違いない。
彼女が行かなくては、大辺境の開拓に大きな支障が出てしまうのだ。
さて、何故彼女が帰りたくないのかというと……。
「嫌じゃ~!妾美味しい食料を作ってくれるところじゃなきゃ嫌じゃ~!!
もう生肉丸かじりとか妾耐えられんのじゃ!妾この竜都にずっと住む!!」
そう、それは彼女の舌が肥えてしまったという事だ。
野生での食べ物しか味わった事のなかった竜にとって、人間の作り出す食事、美食というものは、竜にとってのまさにカルチャーショックだった。
その味にすっかり夢中になってしまったアーテルが、沢山の料理店の並ぶ竜都から離れたがらないのも当然だった。
王宮の柱にがっつりとしがみついて離さない、と言わんばかりの彼女の状況を見て、リュフトヒェンも幼女、アリアもお互いに目を合わせて、どないしよ……。という顔になるが、アリアは意を決して話しかける。
「逆に考えて下さいアーテル様。アーテル様の縄張りに大きな温泉があると聞きました。つまりそこを温泉宿として成功させれば、何もせずに税収でウハウハ!
温泉地で料理人を雇って働かせれば、いつでも地元で美味しい物が食べれる!
しかも、大辺境は新鮮な食べ物の宝庫と聞きます。つまり新鮮で美味しい物が!大量に!食べれる!という事です!
ですから、温泉地と成功させて、腕のいい料理人を雇って、人を大量に集めれば、アーテル様にも皆も三方全てよし!ということです。
どうですか?これでもまだやる気になりませんか?」
そのアリアの言葉に、今まで柱にしがみついていたアーテルは、ぱっと手を放してキラキラした瞳でアリアの顔を見る。
「な、何という事だ……。お主天才か……?いや、そこまで完璧なプランを作れるとは、やはり天才か!うむ!妾の縄張りをそうできるとは、やる気がめっちゃ出てきたぞ!目指せお金一杯食べ歩き生活じゃ!!」
はっはっは!と腰に手を当てながら哄笑するアーテルを他所に、リュフトヒェンはアリアにこっそりと問いかける。
『ところで、その計画ランニングコストやら初期投資やらの話は?」
「いえ?特に聞かれませんでしたし?まあ、銀行からの投資とアーテル様の資金力なら問題ないでしょう。
それにあの人はああいう風に年がら年中乗せておいた方が手玉に取りやすい……もとい、コントロールしやすいのが分かってきましたから。」
そのアリアの言葉に、この幼女……恐ろしい子!と言わんばかりに白目を向いてしまうリュフトヒェンだった。
「ところで、そちらの方は開拓準備は進んでおられるのですか?
よろしければ、どのようにするかお聞かせ下さい。」
『うん、まずは、ウチの村を拠点として、外周の村を後方の補給基地として活用する。いきなり大人数で開拓をするために乗り出しても、それだけの人数が住まえる住居がないからね。』
いきなりマンパワーだけ投入しても、それを受け入れられるだけの住居やら食料やら何やらが準備できていなければ開拓はできない。
まずはきちんとした村を拠点地として、そこからさらに奥へ奥へと開拓を進めていく方が効率的であり、合理的である。
それは、リュフトヒェンが自分自身で開拓村を開いた実体験からなるものである。
その言葉に、アリアは頷いた。
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