第91話 大地母神神殿との協力関係
「で、一応聞いておきますが~彼女はどうしますか~?このまま処分するという手もありますが~。」
彼女と話をした後、ルクレツィアはリュフトヒェンへと報告を行っていた。
ぺたんぺたんと書類にサイン代わりの手形をつけながら、リュフトヒェンは彼女の言葉に顔を顰める。
『えっ、普通に嫌ですが?せっかくの教皇庁との貴重な繋がりですし、何よりせっかくデビューさせた偶像を処分するとかプロデューサーの風上にも置けない所業!!我は絶対に許しませんよそんなの!』
ふんすふんす、と鼻息荒くリュフトヒェンは、辺境伯の言葉を否定する。
ぷろでゅーさーって何だろう?と辺境伯は首を傾げるが、そのリュフトヒェンの答えはルクレツィアの満足する答えだった。
満足そうに頷くルクレツィアを見ながら、リュフトヒェンは彼女に疑問を投げかける。
『とりあえず聖戦発動を防ぐために、教皇庁に献金するのはいいけど、それだけだといい金蔓にされて、都合が悪くなったら切り捨てられそうな気がする……。他にいいアイデアない?』
こういった政治的駆け引きといった事は、専門家であるルクレツィアにアドバイザーとして意見を聞くに限る。
そして、彼女はすぐさまこの状態で最善の答えを出した。
今自分たちが恐れている事は、聖戦を発動されて周囲の国からフルボッコにされてしまう事である。
ならば、それを防ぐためには、教皇庁に働きかけられるほどの強力な宗教組織と手を組むのが一番である。
「それならば~大地母神信仰と手を結ぶのがよろしいかと~。というよりは、向こうから熱心なラブコールが何回も来ているので、手を結ぶとなれば向こうも大喜びでしょうね~。」
そこで、ルクレツィアは後ろにいる神官服を身に纏った女性に対して、ちらりと視線を送る。
そこにいたのは、この竜都に存在する大地母神の神官長だった。
以前の戦いで炊き出しを行ったのをきっかけにして、他の神の神官たちよりは遥かにリュフトヒェンやセレスティーナたちと親しい彼女は、ふむ、と頷きながら言葉を続ける。
「で、私がここにいるという訳ね。まあ、実際、大地母神の中枢部の大神殿からは竜様をこちらに引き入れろという指令はひっきりなしに来てるし、私の手柄になるからいいけど……。その分、不作や天候不順の時に地脈操作や天候操作お願いするわね。ここで大神殿の要望を聞いて上手くそちらを取りれれば私の地位と立場も向上!お互いにウィンウィンってやつよね!」
何故大地母神の中枢部がそれほどリュフトヒェンを味方に引き入れたがっているか。
それは彼の力である地脈操作や天候操作に大きく目をつけたからである。
大地母神信仰は、その特性上農民からの信仰が非常に大きい割合を占める。
普通の農民なら、誰しもが大地母神信仰であるほどである。それは、彼女がもっている大地の豊穣の権能に縋る農民が多いからだ。
しかし、いかな大地母神の神官たちといえど、自然界のもたらす不作や天候不順に勝つ事はできない。
だが、天候神であるティフォーネの息子である彼ならば、大規模な天候操作の魔術も比較的、楽に行う事ができる。
しかも、地脈操作により、農作物を養う活力を失った大地にある程度力を取り戻せるというのなら、彼らがリュフトヒェンとの協力関係を作りたがるのも当然だ。
元々、自然を崇める大地母神信仰と、ある意味自然そのものである竜とは、親和性が高く、ここまで親和性が高いとがっつり手を結んで協力関係になるか、利益が被るとお互いを滅ぼすまで戦うしかない。そして、彼らは前者を選んだのである。
「ウチの信者は豊穣を求める農民たちがほとんどだもの。そして、農業に必要なものは大地の力と穏やかな天候。両方をある程度解決できる竜様をウチの神殿が逃すはずないわ。多分上層部が教皇庁に働きかけてくれるでしょうね。これで向こうもそうそう聖戦を宣言することはできなくなるはずよ。」
『とはいうものの、それだけじゃなくて周辺の国とも何らかの協力体制を作っておく必要があるよな……。周辺の国にも色々特使を送ったりして現状のそれぞれの国の状況とかも調べておいてくれない?』
その言葉に、二人とも頷いた。
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