第55話 人材登用と模擬戦

 国費の問題はこれである程度解決したが、次なる問題が彼らに対して襲い掛かってきた。それは人材不足という大きな問題である。


「あとは~とりあえず人材が足りませんわね~。帝国過激派が減って人材が減った上に~。穏健派も本心でこちらに協力してくれる可能性は少ないですから~。」


 辺境伯軍の侵攻により、急激に領地を切り取ることができたのはいいが、問題はそれらを治める事のできる人材が足りないということだ。

 目が行き届かなければ、山賊やら何やら暴れまわり治安の悪化、住民の流民化などとロクでもない事にしかならない。


『うーん。足場固めをしっかりしないといけない、という事か……。それじゃ、こちらに敵対的な帝国過激派と帝国穏健派の貴族をリストアップして、こちらに従わない貴族たちは排除していこう。』


「足場固めはいいのですが~。人が足らないって言ってんでしょうが~。

 これ以上少なくするとか頭おかしいのですか~?」


 ビキビキとルクレツィアの額に血管が浮かぶのが目に見えて分かる。

 人が足りない、と言っているのに人を減らす相談をされたら誰だって切れるのは間違いない。だが、リュフトヒェンも何も考えなしでそうした事を言い出したわけではない。


『うん、だから限定的な求賢令、唯才令を発動する。

 法衣貴族や貴族の三男や四男たちで、試験に合格してこちらに忠誠を誓えば、きちんとした貴族として独立させる、といえば大喜びで飛びついてくるだろう。

 貴族たちのスペアとして教育されてる彼らなら読み書きもできるし、こちらに対して忠誠を誓ってくれるなら、潜在的な反乱分子は排除できるはずだ。』


『さらに、そこいら辺にいる有名な傭兵団にも話を流して、優秀な才能を持っていて、こちらに忠誠を誓うのなら正式な騎士にする、と言ってやればいい。

 そうすれば、大喜びでこちらに来てくれるはずだろう。』


 傭兵団のトップは、大抵青い血崩れの貴族の三男や四男だ。

 そしてそういうスペアのスペアである彼らは、大抵正式な独立した貴族に憧れている。そして、その中には、即戦力となる優秀な人材も多く存在しているはずである。

 こちらに忠誠を誓ってくれて、優れた戦力となるのなら多少のあれこれは目を瞑るつもりではある。

 今の状況で完全な唯才令を発動させると、犯罪者や山賊たちも大量に流れ込んでくる可能性もあるので、治安の悪化を恐れて限定的に発動させて様子を見る予定である。


『内政にしても騎士団にしても、潜在的な反乱分子である帝国派を排除して、こちらに忠誠を誓う貴族や騎士たちを増やしていく。これでドヤ!!』


 ドヤァ……!とドヤ顔を見せるリュフトヒェン。確かに考え自体は悪くない。

 穏健派と言えど、帝国派である事には代わりない。再クーデターを起こして、旧帝都を新生帝国に売り渡し、再び帝国を復活させる目論見を持っていても不思議ではない。それらの不穏分子を排除して、こちらに忠誠を誓う勢力を増やして地盤を固めていくというのは悪くない案である。


「しかし~帝国穏健派を全て敵に回すのも厄介でして~。とりあえず内偵を入れて、こちらに忠誠を誓う者たちは取り込むべきかと~。

 まずは、こちらに敵対心を持つ者たちを炙り出すべきですね~。」


しかし、わざわざ帝国穏健派を内偵するには時間がかかる。

とりあえず、貴族の次男、三男をスカウトする手段は一旦見合わせにしておいた方がいいだろう。

だが、傭兵団を騎士にしてこちらの戦力にする、という案は今すぐにでも結構すべし、というのがルクレツィアの考えである。


「まあ、傭兵たちを取り込むのは今すぐやってもよろしいかと~。切り取った領地に対して、それを守る兵士の数が少ないので、帝国から逆侵攻を受けかねません~。」


『しかし、傭兵の強さなんてそれこそてんでバラバラだろう?どうやって実戦経験のある強い傭兵を取り込めばいいんだ?』


「はいはいッ!妾!妾にいい考えがある!聞いてくれ!!」


 その勢いよく手を上げて発言を求めるアーテルの姿を見て、思わずリュフトヒェンは猛烈に嫌な予感を覚えた。


「炎の妖精よ!私に加護を!!」


『うおおおお!!』


 それからしばらく後、傭兵団の隊長たちと片っ端から模擬戦を行っているリュフトヒェンの姿があった。刃を落とした剣ではあるが、相手の傭兵、妖精騎士と呼ばれる異能持ちの戦士は、刃に炎を纏わせてリュフトヒェンに攻撃を仕掛ける。

その刃を、リュフトヒェンは自らの爪で、次々と必死になって弾き返す。

炎の妖精の加護で、戦闘力をブーストさせた妖精騎士は、竜とも戦えるほどの力を秘めているのだ。




 何故こうなったかというと、アーテルの発言に端を発する。つまり、傭兵たちの実力が分からないのなら腕試しに模擬戦を行ってみればいい、という至極シンプルな考えである。

 では何故国王であるリュフトヒェンが直々に傭兵たちと模擬戦を行っているのかといえば「ちょうどいい機会だ!貴様もこれで対人戦の修行を積むがいい!傭兵たちの腕も確かめることができて、貴様は対人戦のノウハウも積める!一石二鳥じゃな!!」という余計な口出しによるものである。


 そして傭兵団たちと戦ってみればこれがまぁ強い強い。ガチの実力者ばかりである。

 偽物や自信のない者たちは「ドラゴンと一対一で模擬戦しろ」なんて言われたら皆揃って逃げ出すのが普通である。

 それでも戦って本物の騎士になりたい、という性根の座った者たちしか挑むことはできないだろう。


 しかも、彼らはただの戦士ではなく、いわゆる異能を所有する戦士たちも多数存在していた。例えば、今リュフトヒェンと戦っている妖精の加護を得て戦う事の出来る妖精騎士、あるいは祖先の血が覚醒して獣人にへと変身できるライカンスロープなどなどである。


 彼らは皆、元は貴族の騎士階級として生まれた者たちではあるが、人類至上主義を重んじる帝国では、そういった祖先返りや生まれながらの異能の持ち主は迫害され、例え長男であっても家を継ぐことはできず、飼い殺しか追放になる。

(もちろん、次男以下などもっての他)


 そう言った生まれついての異能持ちが追放されたあげくに、傭兵団の頭となって戦いに食うために戦いに身を投じる事になるのである。

そんな妖精騎士やライカンスロープやらやたら強い人間の騎士やらと数合渡り合って実力を確かめたリュフトヒェンは思わず叫んだ。


『あーもう採用採用!皆採用です!こんな異能持ちや戦いに熟練した戦士たちを放置しているなんてもったいなすぎるわ。というわけで、ここにいる皆、我の権限で騎士や兵士として採用します。』


その彼の言葉に、傭兵団の皆から一斉に歓声が上がった。





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