第41話 様子が変わった!?

 古井さんとの朝の散歩が終わってから少し経ち、朝食の時間を迎えた。

 俺は適当に席に着き、両隣がいなくて寂しいが、一人静かに食べ始める。

 朝の散歩の後は男子部屋に戻り、朝食まで静かにしているつもりだったが、クラスの男子達から質問攻めされ、結構気力を持ってかれてしまった。


『昨日はどこ行ってたの?』

『何してたの?』

『何で今戻って来たの?』


 こんな感じで、とにかく夜何をしていたのか、その詳細を求められた。

 早朝だし寝ているだろうと思ったのだが、どうやらオールしていたらしい。

 俺は何とか適当に誤魔化し、危機回避をすることに成功した。

 本当に誤魔化せているのかどうかは分からんが、一応納得してくれた。


「はぁー。朝も朝で結構疲れたな……」


 早朝からの散歩と質問攻めの影響で、ちょっとばかり体が重い。

 元気を出そうと、パンを引きちぎって口にどんどん運ぶ。

 だが次第にその手は止まっていった。


「色んなことがありすぎて、別の意味で一生忘れられない思い出になりそうだ」


 昔遊んだ女の子が実は友里だったこと。

 女子部屋に不可抗力で泊まることになってしまったこと。

 そしてひなみに好きな人ができたこと。

 色々ありすぎて、既にお腹いっぱいだ。こりゃ生涯忘れないだろうし、食欲も湧かない。


「俺の青春は何でこんなにイベント続きなんだよ」


 一人ボソッと呟いた時だ。


「おっ! そこにいるのは涼じゃないですか~」


 背後から声が聞こえたので振り向いてみると、朝から満面の笑みを浮かべる友里の姿が見えた。その後ろにひなみと古井さんもいる。


「おはよう。よく眠れたか?」


「もっちろん! そういう涼こそちゃんと寝れたのかな~? 古井ちゃんから聞いたよ?朝早くに部屋に戻ったんだってね~。ずっといれば良かったのに」


「あのままいる所を見られたら、どうするんだよ」


「そう言ってるけど本当はちょっと嬉しかったでしょ? あ、もしかして、寝ている間にエッチないたずらをしていたりして~?」


「す、する訳ないだろっ! 普通に寝たわ!」


「えぇ~本当かな~?」


 友里はニヤニヤしながら、俺のすぐそばまで寄って来る。そしてそのまま背後から俺の耳元にグッと近づき、こう囁いてきた。


「ま、涼だったら私は気にしないけどね」


「……え?」


 さすがにビックリし過ぎて固まってしまった。

 女子からこんなことを言われて無反応でいられるはずがない。

 冗談……なのか?

 それとも本音か?

 衝撃の発言で思わず頭が真っ白になりつつも、俺はすぐさま聞き返した。


「ゆ、友里……、それどこまで本気?」


 そう問う俺に対し、友里は先ほどと同様にニヤニヤしながら、こう答えた。


「さあねぇ~? どこまでが本気なのか、自分で考えてみてねぇ~」


「い、いや分かる訳ねぇだろ!」


「涼は鈍感ですな~。あ、そうだ。私ちょっと部活の子に用があるから、先食べてて。じゃっ!」


 最後にウィンクをすると、友里は席から離れ他クラスが座っている方へと向かって行った。

 な、何なんだ友里の奴。

 あの言葉はそのまま真に受けて良いのか?

 いや、お調子者の友里のことだし、俺のことをからかっている可能性も……。

 でも、もしかしたら冗談ではないかも……。

 あー! 分からん! 全く分かんねぇ!

 肝試し大会を機に、すげぇ友里が変わった気がする。なんか凄い距離を詰めて来ている様な。

 俺の考えすぎか?

 それとも俺のこと……。

 いやいやいや!

 やっぱ俺の考えすぎだ! 友里は天邪鬼なだけだ。あまり深く考えないでおこう。


「涼君、隣座っても良いかな?」


 友里のことで考え込んでいると、ひなみがすぐそばまで寄って来ていた。近づいていたことにすら、全く気が付かなかった。


「おう。いいよ、ひなみ」


 ひなみはそのまま隣の席に座り、一方古井さんは俺の向かいの席に座った。

 朝食を食べながら俺達は会話を始める。


「涼君、肝試し大会が終わってから凄く友里と仲良くなったよね。昨日部屋でトランプをしていた時も、ずっとべったりくっ付いていたし。何かあったの?」


「い、いや。ま、まあ色々あってだな。話すと長くなる」


「も、もしかして……つ、付き合ってたりして?」


「え? 俺と友里が?」


「う、うん」


「んな訳あるか。付き合ってないぞ」


「そっか……。ちょっと安心」


「え? 安心? 何で?」


「い、いや何でもないよ! き、気にしないで! わ、わー。このパン凄く美味しいー」


 何故か顔を真っ赤にしながら、ひなみはパンをせっせっと口に運んだ。

 俺はひなみの不思議な行動に疑問を抱いていると、向かいの席に座る古井さんが何故か不気味に笑っていることに気が付いた。

 え、何この人。何でちょっとだけ口角上げてるの?

 怖い、怖い。


「古井さん、何故俺を見ながら笑う?」


「別に。ただ面白くなりそうだなって」


「え? どゆこと⁉」


「自分で考えてみたら?」


 何この意味深な発言は。マジで怖いんですけど。

 まあどうせ聞いたって、ドSの古井さんが正直に教えてくれるはずもない。


「古井さんも友里と同じことを言うのかよ……」


 俺は愚痴をこぼしつつ、朝食に食らいついた。

 肝試し大会や女子部屋に泊まったことを気に、友里とひなみは変わった。

 友里は過去のトラウマを克服し、ひなみは思い悩んでいたことから解放され、全力で恋をしている。

 心を縛っていた物がなくなり前を見ている気がする。全力で今を楽しもうとしている。

 俺としては友達を助けることができて嬉しい。しかし妙なことが一点。

 何故か二人共、俺との距離が以前よりさらに縮まっている気がする。



 朝からこんな調子のまま、二日目の林間学校のプログラムを行った。

 宿を出発するのは、昼食後。それまでの間林業体験学習を行った。

 林業関係者や現地の人と一緒に林業について学んだり、実際に体験活動を行った。

 勿論班行動でだ。

 朝と同じく俺をからかい、距離をグッと詰めて来る友里。

 対してひなみも俺の傍を離れず、ずっと近くに。

 そしてそれを面白そうに見る古井さん。

 妙な三角関係のまま林業体験を終え後、腹一杯昼飯を食った。

 夜更かしをしてさらに林業体験で体を動かしたため、ほとんど体力が残っていない。

 だから美味しいご飯を食べた後は、睡魔に襲われ、帰りのバスでは思い切り熟睡してしまった。

 後から華先生から聞いたが、帰りのバスでは生徒の八割が寝ていたらしい。

 帰りのバスでやることは、寝るに限るよな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る