第66話、エルフという種族

 翌日。王都へ戻り、真っすぐムーン公爵家へ。

 本来なら、俺たちみたいなただの学生、冒険者が行けるところでも会えるような人でもないんだが……アピアが屋敷の門兵に声をかけると、すぐに屋敷に通された。

 ここに初めて来るレノ、サリオは緊張と興奮だった。


「ままま、マジか……き、きき、貴族の屋敷。しかもクロスガルド二大公爵家の、ムーン公爵家……ききき、緊張して吐きそう。うっぷ」

「見て、この絨毯の刺繍いいなぁ。あ、あっちの絵画も……いいなぁ」


 応接間で、レイは出された紅茶に口を付ける。


「ん、おいしい。さすがムーン公爵家」

「お前は緊張しないのか?」

「別に? 貴族の依頼を受けたこともあるし、それに公爵なんて言っても、あたしと同じ人間で、赤い血が流れてるのよ? 緊張なんてしないわ」

「お前、大物だな……それ、公爵様の前で絶対言うなよ」

「はいはい」


 そして、アキューレ。

 アキューレは澄ました顔で紅茶を飲み、ルルカさんは静かにアキューレの後ろに立っていた。うーん……なんだろう、どこかで見たような気がする。

 すると、応接間のドアが開かれ、フリードリヒ・ムーン公爵様が笑顔でやってきた。


「やぁやぁ、無事に戻ったようで何よりだ。ロックワーム、大変だったろう?」

「「「「「「「…………」」」」」」」


 俺たちは全員黙り込む。というか、ロックワームて。

 すると、アピアが言う。


「公爵様。ご報告がございます」

「ん? なんだい?」

「ムーン鉱山にいたのは確かにロックワームでした。それと、鉱山に無断で侵入した『ギガントマキア』の構成員と遭遇、そのうちの一名が所持していたスキル『マスターテイム』により操られた、『大罪魔獣』の一体と交戦、なんとか討伐しました」

「……なんだって?」


 ムーン公爵の笑顔が消えた。

 ソファに座り、真面目な顔で言う。


「続きを聞こう。それと、そちらのお嬢さんたちのこともね」


 公爵様の目は、エルフのアキューレたちに向いていた。


 ◇◇◇◇◇


「───……なるほどねぇ」

「というわけで、彼女たちの保護、故郷へ帰るお手伝いを「いいよ」……え」


 アピアが言い終わる前に、公爵様は頷いた。


「エルフ族は世界の宝だしね。始祖の一族を無事に送る手伝い、喜んでするよ」

「ありがとうございます」


 アピアが頭を下げ、俺たちも全員頭を下げた。

 公爵様の砕けた態度や口調に親近感を覚えたのか、レノが小声で「始祖、宝……?」と呟き、公爵様がニコッと笑う。


「エメラルドグリーンの髪、瞳。彼女たちはエルフの始祖、エルダーエルフだ。ヒトの祖先であり、東方にある『聖樹アダム』と『聖樹イブ』の管理を神から一任された、この世界で最も高貴なる一族だね。あなた方は……東方にある亜人の国『フリーデン』の王族ですね?」

「……驚きました。ヒトが我々のことを、ここまで詳しく知っているとは」

 

 ルルカさんが一礼した。

 高貴なふるまいというか、洗練された一礼だ。

 アキューレが小さく頷くと、ルルカさんが言う。


「こちらの方は、森林王国フリーデンの姫君。アキューレ・シシリカ・ロッテンマイア・フリーデン様……フリーデン王国の正式なる後継者でございます」

「「「「「「え」」」」」」

「ああ、やっぱりね。フリーデン王国最強の精霊使いと噂される、フリーデン王国の『精霊姫』、アキューレ様だったか」

「えっへん」


 アキューレは胸を張る……というか、子供っぽいのにデカいな。ルルカさんなんてほとんどないのに。

 それとようやくわかった。アキューレとルルカさんの立ち位置、アピアとセバスチャンさんと同じなんだ。

 俺は思わず言う。


「エルフの国のお姫様が、なんであんなところに? というか、最強の精霊使いって」

「……中央諸国に来てみたかったの。それで、お忍びで旅行していたら、あの人たちにつかまっちゃった……戦おうと思ったけど……あの鉱山には精霊がぜんぜんいないし、契約した精霊を呼ぶ暇もなかったの」

「そ、そうだったのか。悪い……あ、も、申し訳ございません。姫君と知らず、無礼な口調と態度で」

「いい。リュウキは、助けてくれた。あのドラゴンみたいな姿、かっこよかった」

「あ」

「……ドラゴン?」


 しまった。公爵様が反応した。

 

「そういえば、大罪魔獣の一体……ミドガルズオルムをどうやって退治したんだい?」

「…………」


 下手に隠し事をすればまずい。貴族を敵に回したくない。

 俺はレイたちを見る。レイたちは小さく頷いた。

 そして、俺は闘気でティーカップを作る。


「俺は『獣化』スキル……ドラゴンに変身できる能力を持っています。それで倒しました」

「…………へぇ」


 公爵様は、面白そうなものを見る目で笑っていた。

 さすがに、エンシェントドラゴンのことは言わなかった。


 ◇◇◇◇◇


 さて、話は終わった。

 俺たちの役目は終わり。あとは公爵様に任せよう。

 立ち上がると、俺の袖をくいッと引っ張るアキューレ。


「行っちゃうの……?」

「……姫様」

「そう呼ばないで。アキューレって呼んで」

「……アキューレ」


 不安に揺れる瞳だった。

 そうだよな……盗賊に攫われ、売られかけたんだ。まだ怖いのかもしれない。

 俺は、アキューレの手をそっと握る。


「大丈夫。公爵様なら安全に故郷まで送ってくれる。夏の長期休暇になったら、みんなでフリーデン王国まで遊びに行くからさ、その時みんなで遊ぼう」

「……リュウキ」

「昨日も言ったけど、両親に元気な姿を見せて安心させてやれ。それが一番のお礼になるからさ」

「…………うん」

「それじゃ、元気で」


 アキューレから手を放し、俺たちは屋敷を出た。

 出るなり、レノは俺の背中を小突く。


「お前、マジで女殺しだな。お姫様、お前にメロメロじゃん」

「そんなんじゃないって。助けたのが俺だから気になってるだけだ。俺じゃなくてお前が助けたらお前にメロメロだったぞ」

「マジか!! くぅ~惜しいことしたぜ」

「そこの二人、兄さんの店行くわよ。あとリュウキ、いつまでもデレデレしない!!」

「し、してないっての」

「むー……私は、レイちゃんと同じです。リュウキくん、アキューレさんに優しすぎました」

「あ、アピアまで」

「あはは。リュウキくん、大変だねぇ」

 

 サリオ……そう思うなら、変わってくれ。

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