第61話、ムーン鉱山

 パーティーの翌日、アジトにて。

 俺、アピアは、ムーン公爵からの依頼についてレイたちに話す。

 レイはセバスチャンさんが淹れた紅茶を啜り、ニヤッとする。


「最高じゃない!! オリハルコン鉱山……確か、クロスガルドにしかない希少な鉱山ね」

「さようでございます。王国が管理する鉱山以外では、ムーン公爵家所有の鉱山しかありません」


 答えたのはセバスチャンさん。レイはこの中で一番博識そうなセバスチャンさんに聞いたのだ。

 レノは、クッキーをボリボリ咀嚼する。


「オレも知ってる。オリハルコンって、一つまみでも他の金属と混ぜれば、絶対破壊不可能な装備になるっていう伝説の鉱石だよな」

「ぼくが聞いたのは、王家や公爵家所有の鉱山でも、僅かしか採取できないってことかな」


 サリオが首を傾げる。

 レイは、クッキーに手を伸ばし一口齧った。


「魔獣退治、そしてオリハルコン採取。さらに公爵家の依頼……おいしいことだらけ。リュウキ、アピア、やるじゃん!!」

「ふふ、よかったです」

「だな。そういや、鉱山の話ばかりでパーティーのこと全然覚えてないわ」


 俺もクッキーに手を伸ばす。

 ちなみに、この紅茶もクッキーも、このアジトを管理しているセバスチャンさんお手製だ。クッキーはチョコとか果実が混ざってるし味もいろいろで美味い。紅茶も絶品だ。

 すると、サリオが言う。


「問題は、住み着いた魔獣だよね……ぼくらで討伐できる?」

「問題ねぇだろ。リュウキの変身もあるし」

「待った。それじゃあたしたちのスキルレベルが上がらないわ。リュウキ、変身は最後の手段ね。まずはみんなで戦うから」

「わかった」


 俺一人で倒すのは余裕かもしれないけど、それじゃみんながいる意味ないしな。

 というわけで、出発は三日後。学園が二連休になる日に合わせて向かうことに。

 レイはクロスガルド周辺の地図を広げる。


「えっと、鉱山は……」

「ムーン公爵家所有の『ムーン鉱山』はここですな」


 セバスチャンさんが指を差した場所は、王都から馬車で半日ほどの距離だ。

 レイは地図にマークする。


「明日の放課後、兄さんの店で冒険の準備ね。あたしは学園に二日間の休みを申請するから」


 依頼を受ける際、どうしても学園を休まなければいけない場合、申請すれば休める。でも、その場合学園からら休んだ分の課題が出るけどな。

 レノは「うへ」と嫌そうにするが、サリオが「まぁまぁ」と宥めた。

 というわけで、話は終わった。門限の前に学園に戻ることに。


「ではセバスチャン、あとはお願いね」

「はい、お嬢様。道中、お気を付けて」


 セバスチャンさんに見送られ、俺たちは学園に戻った。


 ◇◇◇◇◇


 学園に戻り解散。レイとサリオはショッピングモールへ飲み物を買いに、俺は一人で寮に戻る。

 すると……Aクラスの生徒だけが使える寮へ行く道の前に、キルトと数人のチームメイトがいた。

 俺を見るなり、ニヤニヤしながら近づいてくる。


「よぉ、腰抜け」

「……俺のことか?」

「敵前逃亡した腰抜け以外、誰がいるんだよ?」


 キルトは俺の肩に手を載せようとしたのでスッと避ける。

 すると、チームメイト数人がギロッと睨んだ。

 キルトは手で制する。


「こんな遅くまで、どこ行ってたんだ?」

「アジトで依頼の確認だ」

「アジトぉ? は、チンケな小屋でも買ったか? ま、オレのアジトと比べたらどんな物件も山小屋だろうけどよ」

「……お前もアジト買ったのか?」

「ああ。母上が用意してくれたんだ。王都の一等地にある豪邸をな」

「……ふぅん」


 おかしいな。

 イザベラ、そんな大金をどこから? 王都の一等地って言ったら、白金貨百枚以上は必要なはず。ドラグレード公爵家に、そんな余裕あっただろうか。

 キルトも見栄を張っているようには見えないし。


「ああ、兄貴に報告しておく。オレ、冒険者チームを作ったんだ。オレの等級はA級……兄貴は確か、E級だったよなぁ? くくっ、臆病者にはピッタリだぜ」

「…………」

「兄貴、オレのチームに入れてやろうか? あの男二人は便所掃除係、女二人はオレらの相手とかどうよ? ああ、兄貴は庭の草むしり係とか? ぎゃはははっ」

「…………」


 キルト……こいつ、めちゃくちゃ調子に乗ってるな。

 俺はため息を吐き、寮へ戻ろうとする。


「おい、無視すんなよ。ところで、依頼受けるんだって?」

「ああ。ムーン公爵家から依頼を受けてな。オリハルコン鉱山に住み着いた魔獣退治だ」

「…………は?」


 キルトはポカンとする。

 そして、噴き出した。


「あーっはっはっはっ!! ムーン公爵家ぇ? 嘘つくならもっとマシな噓を付けよ」

「……ま、そうだな。じゃ、おやすみ」

「ああ、チームの女に伝えておけよ。いつでも相手するってな。ククク、身体だけはいいし、可愛がってやるよ」

「…………」


 俺は立ち止まる。

 そして、キルトを睨んだ。


「あ? なんだよその眼」


 すると、俺の首に背後から剣が付きつけられる。

 チームの女子が、剣を抜いてそっと首に当てていた。


「キルト、一つだけ言っておく」


 そして───俺は手に闘気を集め、突き付けられていた剣を素手で掴み、引き抜いた。

 剣の刀身を掴み、そのまま口に入れ……刀身を噛み砕く。

 ボリボリと咀嚼し、飲み込む。全ての刀身を噛み砕き飲み込む……キルトたちは、愕然としていた。


「俺の仲間に妙なことしてみろ───喰い殺すぞ」

「っ」


 俺は、ほんの一瞬だけ『口の中』だけを変身。牙を見せつけた。腹の中は変身した状態なので、安物の剣じゃ内臓に傷なんかつかないから問題ない。

 柄を投げ捨て、そのまま寮へ戻った。

 ちょっとやりすぎたかな……と、そんなことを想いつつ。

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