21.苦労人の気質(4)
敵3人の居場所をじっくりと観察しながら、脳内で打開の算段を立てる。
中距離で魔法を撃ってきているエルフは仕方ないから後回しだ。あまり魔法を撃って来ないので魔力切れも期待できないし、そもそもエルフは種族柄魔力が多い。待つのは建設的とは言えないだろう。
であれば前衛2枚の獣人かヒューマンを先に落とす事になるが――正直、これに関してはどちらからでも構わない。猫如きの腕力に負ける事は無いし、ヒューマンは言わずもがな。
次、先に斬りかかってきた方を狙う。
次いで、ジモンは自身の魔力残量を顧みる。
《通信》に多くのリソースを割いてはいるが、獣人にしては魔力が多い方なので持っている魔石のどれか一つはきちんと使用できる程度にはまだ魔力がある。
しかし、ここで全力を使ってしまうと潜伏している相手のリーダーと、逃げて行った鬼人が生き残った時に相当苦しいのは請け合い。そもそも、魔力を使い切ると《通信》での連絡手段が使えなくなる。
「あー、お嬢。もうここで魔力を使い切るので以降の連絡は他の連中にお願いします」
よく考えたら目の前の3人を討ち取った上で、他もどうにかしろなどと言われても困るので魔力はここで使い切るとしよう。
そもそも魔力を使い切った程度で全く戦闘が出来なくなる訳ではない。何なら獣人の魔法などオマケ程度である。
鬼人と交戦中だし返事はないかなと思っていたが、今どういう状況なのかまるで読み取れない抑揚のない声で返事があった。
『分かった』
――本当に交戦中か、お嬢? どういう状況なのかまるで分からん。
首を傾げながらも、ジモンはじりじりと隙を伺う3人組に向き直る。それと同時に、やはり獣人が先陣を切って飛び出した。
ここまではずっと繰り返しているのと同じように、斧で受けた。それと同時に《防壁》を起動。
軽やかに離れていく獣人を逃がす為に放たれた、中衛からの魔法攻撃をあっさりと防いだ。耐久戦を仕掛けられているのは分かっていたので、《防壁》1枚程度であっさり身を守る事ができたという訳だ。
止まる必要が無くなったので獣人を追撃する。
後ろから隙を伺っていたヒューマンは、走り出しが常に遅いので前へ前へ進むジモンには追い付けない。そもそも脚が違う。
「――まず一人」
走りながら大きく振り上げた大斧を獣人の頭に振り下ろす。
恐怖で真っ青になり、引き攣った表情が思いの外はっきりと見えた。追い詰めた獲物の表情など、誰であってもいつであっても同じだ。
頭を叩き割り、絶命を確認。
少しだけ斧を持ち上げたジモンは、そのまま遠心力を利用して刃を地面からおよそ水平に振り払った。
「二人。……連携の限界ってところか」
背後から追い付いてきたヒューマンの胴を真っ二つにする。それだけ足音を立てて近づいてくれば、自分とどのくらいの距離関係にあるのかすぐに分かった。
やはりどことなく反応が遅いのか、今更になって飛来した中衛の火球を躱す。彼の撃つ魔法はとかく、真っ直ぐにしか飛ばない。固定砲台か何かかと思うくらいには同じ高さ、同じ速度で淡々と撃ち出してくるのは逆に凄いのでは?
お返しに斧をフルスイングで投げつけた。
こういった動きはグロリアがよくやるのだが、彼女の投擲能力には舌を巻く。試してみたが自分はヘタクソらしいな、とジモンは内心でがっかりしたように溜息を吐いた。
投げつけた得物は対象を少し逸れ、左足を撥ね飛ばしただけだ。《投影》に痛みは無いが、こういった失敗は獲物を苦しませる。あまりスマートとは言えないと自省した。
魔法を急に撃って来ないか警戒しつつ、地面に倒れ込んだエルフに近付く。すっかり戦意喪失していたが、今回は模擬戦なので放置する訳にもいかず、拾った斧を振るって《投影》から退場させた。
「敵パーティのリーダーに、お嬢が交戦中の鬼人。エルヴィラがどうなったのか分からねえが、あいつと交戦していた前衛のヒューマン……あと3人か? ベリルさんはどこへ……」
否、ベリルはもう完全に放置で良い。例え所在不明のヒューマン前衛が唐突に現れたとして自分でどうにかする。万が一、相手が信じられない強敵であったとしても《通信》でグロリアに一報を入れるくらいするはずだ。
そしてエルヴィラはどうなった? ずっと交戦中なのか、全然会話に入って来ないので生存しているかも怪しい。狙撃手に《マーキング》成功した、という連絡が最後だ。
「……俺達の方こそ、連携を見直す必要がありそうだな」
しかしな、と足を動かしながら内心で頭を抱える。
連携の類に関してはベリルも前向きではないし、グロリアも深く考えていないようなのでそれを意識させる事から始まる。が、身分的に偉そうな話が出来ないのでここ2人の無関心事に関心を持たせるのは至難の業と言う他ない。
エルヴィラを上手く誘導して、グロリアに意見させるのが一番の近道なのだろうか。そういう駆け引きみたいなの、出来ない訳ではないがあまり好ましくないのだが。
盛大に溜息を吐いたジモンは、痛むはずのない胃が悲鳴を上げているような気がして腹の辺りを摩った。
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