19.苦労人の気質(2)
ジモンはもう数回見た敵の顔ぶれを再確認する。
人数は合計で4人。
鬼人でありメインアタッカーと思われる男、白浪。
猫獣人の女。名前はバーサだとか呼ばれていたような気もするが、よく覚えていない。
先程からずっと中距離で魔法を投げてくるエルフの男。
近距離アタッカーと思わしき、ヒューマン男。
「――ベリルさん。もういい加減、見慣れてきたので伝えておきます。鬼人が恐らく、このパーティのメインアタッカーです」
「アタッカーにメインもクソもねぇだろ、どういう事だよ」
「……いやあの、今そういうのは良いので。あるんです、他所にはそういう感じのが」
「へえ」
少し考える素振りを見せたベリルが手の中で細身の剣を弄びながら、作戦とは言い難い何かを口にする。
「――どこか一人消すか。近距離対応3枚に、横から魔法を撃ってくる中距離がいるな。正直、俺はあの程度の魔法を何発撃たれようが《防壁》で対処できるが、お前はそうじゃねえ。しかもちょっと見てない間にそれなりに怪我してるし……」
「いえ、すんません。不注意でした」
「連携が取れてるな。《相談所》には無いようなタイプだ。こういった手合いは、少し離れた所に指示役がいる。そいつを叩いたら終わりのような気もするが……潜伏されてるのか、《サーチ》に映らねえ」
「つまり?」
「前衛のどれか1人をまずは消す。エルヴィラは後回しだな。少し遊び過ぎた」
「了解」
「前衛が1欠けしたら、空いてる方が中衛を片付ける事にするか。打ち合わせ面倒くせえな……」
「そもそも俺達がかち合った時、さっさとこうして一瞬でも打ち合わせしてりゃ良かったですね」
「……まあ、そうだな」
人のせいにはしない。どころか、恐らくエルヴィラという弱者が加わった事により、声の掛け合いがいかに重要か今一度思い出せたとも言える。ジモン自身も或いはベリルも弱者合流を進めていて、役割が被っていた。
決めたら早いベリルがさっさと身を翻す。
剣を持っているのとは逆の右手、いつの間にかその手の中にシンプルな意匠のナイフを持っているのがちらっと見えた。
ジモンの経験上、グロリアやベリルが手の中に隠せる小さな武器を持っている時は危険だ。次に何をしてくるか行動の直前まで読めない。本人たちも用途を都度変更するので、これまた合わせづらい。つくづく敵に回したくない連中だとそう思う。
既に一度敵に回った後が今なのだけれど。
ベリルが前衛3人と距離を詰めようとしているのを見て、最初に動いたのはやはり猫獣人。反射速度はヒューマンと鬼人をあっさり置き去りにする。
彼女等が好む武器はクローだ。固い手甲に刃が付いているタイプのそれである。
例に漏れず彼女もそうなのでぐっと身を屈めてベリル迎撃の姿勢を取った。力関係を整理すると、いくら優秀な竜人のスペックと言えど正面から獣人に力で勝つ事は出来ないだろう。
加えて小程度の《防壁》ではクローの一撃を受けられない。当然、それらの知識をベリルも持っている。
「はは!」
獰猛に嗤ったベリルが右手に持っていたナイフを走りながら投擲した。
獣人は《防壁》を維持管理する程の魔力を持たない。必然、反射神経に優れた猫獣人は右手の甲でナイフを跳ねのけた。
瞬間、二投目。いつの間にか取り出した2本目のナイフを、割って入ろうとした鬼人に投げつける。
あまり魔法を使いたがらない鬼人もまた、咄嗟の《防壁》はない。ので、その場に一瞬だけ止まって刀の峰で事も無げにそれを弾いた。
「バーサちゃん!」
ここで唯一フリーでありながらも出だしの遅さでもたついていたヒューマンの前衛が駆け付ける。主にベリルからマークされている猫獣人を庇う為にだ。
――ああ、ここだな。
飛び出してきたヒューマンの男へとジモンは狙いを定め、即座に振り上げた大斧を振り下ろした。前に出て来るタイミングがあまりにもピッタリで、これも全てベリルの計算だったのかもしれないと考えるとぞっとした。
「まず一人――」
「ああもう、聞いてた話と違うね。向こうも結構、連携するみたいだし」
凪いだような声が聞こえた。それはこの場にいる誰かにではなく、その場にいない誰か――恐らくは遠巻きに指示を出しているリッキーへの報告じみた言葉だ。
ベリルにナイフを投げつけられ、一瞬だけ立ち止まっていた鬼人が追いついてきた。
大斧の、その重さ故、ジモンは急には止まれない。
振り下ろした刃がヒューマンの張っていた《防壁》により、僅かに逸れる。結果として男の左腕を切り落とす事にのみ成功した。が、横合いから鬼人が飛び出してくる。
「団体戦だからな。お前もちょっとぬるくなったか、ジモン?」
呆れたような声を発しながら、ベリルが飛び出してきた鬼人に向かって刃を振るった。彼の剣技も独特の緩急があるせいか、躱し損ねた鬼人の左腕を深々と切り裂く。が、致命傷には至らない。
「ありがとうございます。……ベリルさん」
「メインアタッカーね、成程。理解したぜ。戦闘能力や経験にバラつきがあるんだな、こいつ等」
「ええ、まあ。ギルドではそういうのは珍しくありませんから」
「指示役もだが、あの鬼人を落とせば――」
実質勝ちだとそう言いたかったらしいベリルだったがしかし、ここで件の鬼人が思いもよらぬ行動を取った。
あっさりと踵を返し、背を向けて駆け出したのだ。
「……数の利か。いいぜ、俺が追うわ。ジモン、お前は――まあ、どうにかできるだろ」
「ええ。任せてください」
「口だけじゃないといいが」
ジモンの腕の傷と、残った敵3人の状態を見たベリルがそう決断を下す。考えた上でそう言っている様子だったので、ジモンは大人しくその命令に従った。
グロリアとエルヴィラが放置されている以上、そこに戦闘民族と名高い鬼人を放す訳にはいかない。必ずどちらかが追う必要があるのを逆手に取られたようだ。
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