第131話

 三代魔獣の討伐のニュースは瞬く間に広がる。



 アルスが英雄と呼ばれ始めたのもアジダハーカの討伐を果たしたことが大きな要因の一つである。



 最近は色々と苦労をしていた王国民はそんな吉報に大きく喜んだ。



 だが、それをマイナスにするかのようなビッグニュースも飛び出る。



『アーサーペンドラゴ死去』



 アーサーの人柄の良さを考えれば、人々に人気であることは自明の理であろう。



 アーサーの葬式は盛大に行われた。



 戦いに重きを置くペンドラゴの人間は、いつ死んでもいいように遺書を残している。



 その中の一つにアーサーは自身の葬式は盛大にお祭りのようにやってくれという言葉が記されていた。



『死んだ俺を悲しむ人間がいるということは、それだけ俺は愛されていたということだ。それなら俺は人生に悔いなんてない。だが、死んだ後に悲しむお前らを見続けるのは後悔になってしまう。俺のことがそんなに好きなら、最期の俺の願いを叶えくれねぇか』



 遺書を読み進めるアーサーの右腕。



『祭りがいいな。終わった後にみんなでこう言うんだ。「悲しかったけど楽しかった」と。俺のことを忘れるなんてことはさせねぇからな。死んだ人間の思いは残り続ける、それは大切なことなんだ。だから思い出して欲しい。俺からもらったもんは悲しいだけじゃないだろってな』



 正直途中から何言ってるか分からんかった。



 みんな泣き出してるから聞き取れねぇんだよ。



『次にペンドラゴの奴らに言っておく。後継はもちろんユーリだ。異論があるやつは前に出ろ。そして戦え。勝者だけがルールだ。敗者の俺のことは笑え。弱かったからまけたんだと。鍛錬が足りなかったから守れなかったんだと。そして誓え、お前らは敗者にならないと』



 脳筋集団は単純だからこそ、こう言ったスピーチに惹かれる。



 やはりあいつも当主だったんだな。



『最後に俺の最愛の娘、ユーリにだ。悪いがここから先はユーリにだけ見て欲しい』



 そこで遺書は畳まれた。



 ここからは俺らの侵入すべき領域じゃない。



 そう



「場違いだろどう考えても!!」

「主役が騒ぐな。皆の気持ちも察してくれアクト」

「俺様の気持ちも察せよな!!」



 俺は何故かペンドラゴの集会に参加させられていた。



 アーサーの遺書を皆に伝えるという重大な集まりだ。



 その中に何故か参加させられた俺。



 朝起きたらいつの間にかここに眠らされていたわけだ。



 どうせリアが勝手に上げて運ばせたのだろう。



 ユーリと仲良いし、てか以前までうちに住んでたし



「それで、何故俺様を誘拐した」

「人聞きが悪いなアクト。これはあれだよ、えっと……人攫いだ」

「ニュアンス変えただけじゃねぇか」

「た、確かにそうかもしれないが、まぁ些細な問題だ」

「ペンドラゴが犯罪を些細と言うなや」

「気にするな」

「気にするわ!!」



 俺が鼻息を荒くすると、ユーリはクスクスと笑い出した。



「何笑ってんだ」

「いや、すまない。何だか楽しくてな」

「キレてる人間を見て笑うってのは趣味としてどうなんだ?」

「人間……か。別に大したことじゃない。好きな人の言葉一つで一喜一憂してしまうだけの話だ」

「は!?す、好き!?」

「ん?あぁ、そうか。気付かないフリをしているのだったな」



 な、何だ急に!!



 冗談か?



 冗談だよな……



「そう警戒しないでくれ。アクトを呼んだのはただこの手紙を一緒に読んで欲しいからだ」

「何故だ?これはお前宛のものだろう」

「お父様は昔から言っていることがあるんだ。一人ではつまらない世界も二人でなら楽しめる。一人では抱えきれない重さも二人なら支えられる。そんな相手が見つけろとな」

「……」

「大切なものだ。一緒に、見てくれないだろうか」

「……分かった」



 断ることは出来なかった。



 ーーーー



 始まりをなんて書こうか迷ったんだ。


 やっぱり父親としてカッコよく決めるべきか?


 それともいつもみたいにふざけてみるか?


 長年の疑問は尽きないな。


 あ、でも俺もう死んでるんだったな。



 ーーーー



「お父様……」

「結局ふざけてるじゃねぇか」



 ーーーー



 いや悪いな、こんな父親でよ。


 本当に情けない限りだ。


 こうやって笑い話を混ぜるのは、これを書いてる何十年後に、ユーリと、彼女と、そしてユーリの大切な人とこの手紙を見て、笑うために書いたものだからだ。



 ーーーー



「幸せそうに逝ったくせに随分な態度だな」

「あの人らしいね」



 ーーーー



 まず最初に言うべきと思うのは、ユーリは俺の本当の子供じゃないということだ。


 どうにか自分の口で言いたいものだが、俺にそんな度胸がついてるかどうかだな。


 ユーリには俺の血はない。


 そもそも髪色や顔の形も似てないからバレないかと冷や冷やしてたぜ全く。


 ーーーー


「なんでこいつちょっとテンション上がってるんだ」

「珍しいね。お父様が緊張してるのは」

「……なぁユーリ。お前は」

「待って。まずはこれを先に読んでから話そう」

「……分かった」


 ーーーー


 ユーリの母親、名前はヘスティア、でも彼女はティアと呼んでくれといつも言う。


 その名前は捨てたからだと。


 俺としては今の彼女も、昔の彼女も、きっと変わらないんだと思うんだけどな。


 だって、俺は今も、昔も、未来の彼女も愛し続けるに決まってるのだから。



 ーーーー



「急に惚気てきたな」

「お父様の話はいつもお母様の話になるんだよ」

「居た堪れねぇな」

「そう?私は好きだったよ。だってその瞬間のお父様はいつも楽しそうだったから」

「……そか。そりゃよかったな」

「うん」



 ーーーー



 そしてユーリはティアの子供だ。


 俺は難しいことは分からんが、どうやらユーリには彼女と俺の願いから作られたらしい。


 だから本当の子供じゃないと言っても、俺と彼女から生まれたのは確かだ。


 だけど血や性格は全て彼女の気質に寄ってしまうらしい。


 まぁ、だからといって俺がユーリを愛することに変わりはないし、話さなくてもいいのではないかと思ってたんだ。


 でも、やっぱ違うなと思ってここに書いてる。


 ずっと話してやれず、すまなかった。



 ーーーー



「ホントに馬鹿だな。最初から自分の口で話しとけよ」

「お父……様……」


 ユーリの目が少しずつ涙ぐむ。


「休憩するか?」

「……ううん。続けよう」

「分かった」



 ーーーー



 急にこんなこと言われてもビックリするだろう。


 だけど信じてくれ。


 俺がユーリを愛していたことを。


 やっぱ文章だと難しいな。


 俺はやっぱり直接話す方が得意だ。


 とりあえず、ユーリ、ここから先は俺の個人的な思いだけを書き連ねる。


 覚悟せず、ただバカが叫んでるとでも思ってくれ。



 ーーーー



「ラストだ」

「最期の、お父様の言葉だね」



 ーーーー



 楽しめ!!


 思う存分楽しめ!!


 俺なんか忘れるくらいぶっ飛んじまえ!!


 いややっぱ忘れられたら悲しいな。


 だが分かって欲しい。


 それ以上にユーリの幸せこそが、俺達の幸せなのだと。


 俺は後悔のない人生を送ってきたつもりだ。


 だがそれでも思うことは生まれちまう。


 その中の一つに、子供を残して逝っちまうことだ。


 ユーリはなんというか……人付き合いが苦手だからな。


 友達いないし、男の気配一つないし、少し父親としては心配なんだ。



 ーーーー



「……」

「顔真っ赤だぞ」



 ーーーー



 これをユーリが一人で読んでいるのなら、俺は本当に最悪な野郎だ。


 その時は俺は悪魔になってでもここに戻ってきちまうのかもしれない。


 そしてユーリはそんな俺の姿を見て喜ぶのだろう。


 だが、それは多分間違った生き方だ。


 俺は死んでまで後悔したくねぇ。


 死ぬ時は安らかにが俺の心情なんだ。


 だからもし、この手紙をユーリが誰かと読んでいるのなら、俺の人生に意味はあった。


 俺は絶対に楽しく生きれたと断言できる。


 幸せだった。


 悔いはない。


 だから悲しまないでくれ。


 俺は最高の人生だったんだ。


 そして今、隣には彼女がいる。


 本当に幸せだ。


 だから安心して、今を楽しんでくれ。


 じゃあな、愛しい我が子よ。


 ずっと、見守ってるぜ。



 ◇◆◇◆



「アクト君、そろそろ泣き止んだら?」

「泣いてねぇよ!!どこか泣いてるように見えんだ!!」

「手紙ぐしゃぐしゃになっちゃってるもん」

「魔法でどうにでもなんだろうが馬鹿野郎!!」

「私野郎じゃないけど」



 クッソ!!



 なんで泣いてんだ俺!!



 てか



「なんでお前は泣いてねぇんだよ」

「え?だって悲しむなって書いてたし」

「そういう問題じゃねぇだろ!!」

「ううん。そういう問題だよ。お父様は幸せだった。なら、私は嬉しいな。私の分はあの時もう全部出した。だからもう泣く必要はないの」

「お前……強いな……」

「当たり前だよ。だって、私はお父様の子供だよ?」

「確かに……そうだな」

「うん。そうなの」



 なんだ



 騒いでたのは俺だけだったのか



「急に羞恥が襲ってくる感じが最高に気持ち悪いな」

「アクト君も泣くんだね」

「俺様だって人なんだよ」

「人……ね」

「……そうだ人だ。俺も、お前も人なんだよ」

「そうだね」

「そうだ」

「……そっか」

「……でもお前さっき泣きそうだっただろ」

「そういうのは言わない約束だよアクト君」



 時計の針がカチカチと進む。



「私は人間なんだよね」

「あ?そんなの当たり前だろ」

「そっか」



 ユーリは手でピストルの形を作り



「バキューン」



 何かを打った。



「当たったぞ」

「どうしたルシフェル急に」



 ルシフェルが驚愕の顔を見せる。



「これでも同じことが言えるかな?」

「さっきから何を言って」

「アクト。味付けバーガーのことを覚えてるか?」

「もしかしてだがアジダハーカのことか?」

「うむ。そうとも言うな。あの時のように、あのデカい生き物復活していた」

「何!!」



 殺せてなかったと!!



「まずい!!今すぐ」

「そして今、消滅したぞ」

「はぁ!?さっきから一体……まさか……」

「うむ」

「そういうことだよアクト君」



 ユーリは指先から出ている謎の煙に息をかけ



「私、半分神になっちゃった」


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