第50話 日下部さん家の四姉妹⑦


「やっ……これって勇治の……!?」


「んんっ……弟くんとの間で強いつながりを感じちゃうっ!」


「変な声を出さないでもらえるかな!? 別にエッチなことはしてないからね!」


『智慧の王冠』を発動させると、姉妹がピクピクと身体を震わせて頬を赤く染める。

 まるでエッチな悪戯でもされているような甘い表情に、こっちの方が恥ずかしくなってしまう。


 この加護の能力は自分と信頼しあう人間との間に『リンク』を構成して、心と魂をつなげるというもの。

 少なくとも3人以上の仲間がいなければ使えない能力なのだが……異世界でこの力を使う機会は少なかった。


「5年間も異世界にいたのに、信頼できる仲間と戦ったこと……ほとんどないんだよな」


 異世界で出会った人達は、勇者である僕に従ってくれたり手伝ってくれたりはしたものの、心からの信頼関係を築けた人間は少ない。

 仲間はいた。いたのだが……誰も彼も変わった奴ら。心から信頼できるかどうかわからないような変人奇人ばかりだった。まともな奴もいるにはいたのだが……常識的に見える奴にかぎって僕を勇者として利用したがっている人間だったりして、背中を預けるに値しなかった。

 異世界で『智慧の王冠』を使ったのはほんの数回。せっかく『仲間がいればいい』というわりと制約が軽い能力なのに、宝の持ち腐れにも程がある。


「ユウ? すっごいヘコんでるのが伝わってきてるんだけど? これってすごい変な感じ……」


「お兄様……元気を出してくださいませ。美月がおりますよ?」


「……うん。ありがとう、みんな。色々と言いたいことはあるけど……そろそろ来るぞ!」


 時間経過によって『節制の巨鎧』が解除される。

 絶対防御のバリアーが消えた途端、金色の刃が殺到してきた。


『みんな、避けて』


「ッ……!」


 僕が心に念じると、すぐに四姉妹が動いた。

『智慧』の副次効果による高速演算――そこから攻撃の軌道を算出。殺到する無数の刃の間を縫うようにして姉妹を誘導し、見事に回避させる。


『なんだと!? あの攻撃を躱した!?』


 悪魔王から驚愕の声が漏れる。

『智慧の王冠』によってリンクがつながったことにより、会話をすることなく一瞬で四姉妹に意思を伝えることになる。

 もちろん、効果はそれだけではない。


『華音姉さん、術を使って風夏のサポートを』


「わかったわー、花弁よ舞い散れ――式神『花宴』」


「消えなさい……『破壊』」


 華音姉さんの手から桜吹雪のように無数の花弁が放たれた。

 その術は本来であれば、敵の目を晦ませるだけの攻撃力のない術のはずだったが……舞い散る花びらに触れた敵の攻撃が跡形もなく消滅する。

 僕と姉妹に向けられた攻撃は『消滅の花びら』によって破壊され、僕らを傷つけることは叶わない。


『飛鳥姉、美月ちゃん、合わせて!』


「わかったわ、マ・ジ・カ・ル・サンダアアアアアアアアアアッ♪」


「お兄様の御心のまま……突進せよ、爆炎の山羊よ!」


 飛鳥姉と美月ちゃんが同時に敵を攻撃する。

 飛鳥姉のマジカルステッキから放たれた雷撃が、美月ちゃんの手から放たれた炎の山羊が、合わさって1つの攻撃に変わる。

 圧倒的な攻撃力を持った魔力と邪力の一撃が、一瞬で空に浮かんでいた無数の悪魔を消し去った。


『馬鹿な! 人間ごときがどうしてこんな威力の攻撃を……!?』


「家族の絆ってやつだよ。美月ちゃんと違って、血も涙もない悪魔には理解できないかな?」


 愕然とした悪魔王を嘲り、僕は顔に浮かんだ笑みを深めた。

 これが『智慧の王冠』の力。信頼しあう人間同士の力をかけ合わせることで、本来の能力以上の力を発揮することができる。

 華音姉さんの『陰陽術』は技の効果範囲が広くて汎用性が高い代わりに威力が弱い。そこに一撃必殺でありながら攻撃範囲に乏しい風夏の『超能力』をかけ合わせることで、お互いの弱点を補うような技に変わった。

 飛鳥姉と美月ちゃんはいずれも間接攻撃を得意とするアタッカー。2人の攻撃力をかけ合わせ、互いの長所をさらに引き立てることにより、破壊力と攻撃範囲を爆発的に上昇させたのだ。


「1人1人は弱くても、お互いが力を合わせることで大きな力を発揮することができる。それが人間の強さなんだ。家族のために強くなれる。家族がいるから強くれる。悪魔や妖怪変化、異世界の魔王には決して得られない人間の力だ」


『下等生物が……調子に乗るなアアアアアアアアアッ!!』


 創造の力で生み出した刃を消され、裏世界から呼び出した大勢の悪魔を消し飛ばされ、悪魔王が怒りの方向を上げて4本の腕を振るった。

 黄金の剣が、槍が、斧が……僕達に向けて襲いかかってくる。


『みんな、力を貸してくれ!』


「もちろん! 頑張って、弟くん!」


「やっちゃいなさい、ユウ!」


「負けたら承知しないわよ、勇治!」


「お兄様! 愛してます、抱いてくださいませ!」


 一部、おかしなところがあったが……四姉妹の声援を受けて、僕は悪魔王に向かって飛びかかった。

 スキルにより身体能力の向上。それ以上に、日下部家の四姉妹が持っているさまざまな力が僕に流れ込んでくる。


「式神――『若紫』」


 華音姉さんの力を借りて生み出したのは紫色の剣。陰陽術によって生み出された、武器の形をした式神である。


「『マジカルサンダー』そんでもって『爆炎の山羊』」


 雷光を身に纏い、炎の山羊に跨って……まっすぐに悪魔王に向かって突き進む。

 振り下ろされた黄金の武器を雷撃で弾き飛ばして、爆炎で吹き飛ばす。そんな生半可な攻撃では今の僕を止めることはできない。


『このおおオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 下等な人間がアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


「ああ、下等な人間だよ。下等で弱くてちっぽけで……そんなただの家族だよ」


 敵の攻撃をかいくぐい、刀剣の式神である『若紫』を悪魔王の身体に叩きつけた。瞬間、風夏の超能力である『破壊』の力を上乗せする。

 先ほどのように仕留め損なうような間抜けなミスは侵さない。一撃で金色に輝く相手の身体を、その奥深くにある魂までもを斬り裂き、確実に消滅させる。


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ……』


 地獄の底から響いてくるような絶叫を上げながら、悪魔王が消滅していく。

 悪魔の頂点に君臨する王であるはずの男が、誰にも看取られることすらなく孤独に消えていった。


 彼らはこの世界に、表世界に侵略なんてするべきではなかったのだろう。

『家族の絆』という人間の最大の武器を知らないくせに、僕達に挑んでくるべきではなかったのだ。


 黄金の巨人は欠片すらも残さずに消滅していき……後には、破壊された公園と僕ら家族だけが残されたのであった。






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