第16話 三女は可愛いサイキッカー⑧


「勇治、その剣はいったい……?」


 僕の手の中に現れた聖剣を見て、風夏が瞳を大きく見開いた。


「まあ、説明は後だ。とりあえず……アイツを滅殺するから待ってろよ」


 風夏を安心させるように微笑みながら、呼び出した聖剣をキング・アーサーに向ける。


 勇者として異世界に召喚された僕には、大きく3つの力がある。

 1つ目は常人離れした身体能力。

 2つ目は修行や経験によって身に着けたスキル。

 そして……最後が『女神の加護』。勇者になった際に女神から与えられた、僕だけの特別な力。いわゆるチート能力である。

『七つの美徳』あるいは『七元徳』と呼ばれる概念をモチーフに生み出された力であり、7つの武器の形として与えられていた。


「色々と使いづらい武器ではあるけれど……この変態ロリコンが『神の敵』で助かったよ」


 ここまで『女神の加護』を使わなかったのは、別に出し惜しみをしていたわけではない。『七つの美徳』に対応した7つの武器は使う敵や状況を選ぶのだ。

 例えば、今回取り出した『正義の剣モード・ミカエル』は『世界の敵』あるいは『人類の敵』を討ち滅ぼす剣であり、人類の生存を脅かそうとしている相手に対してしか使うことができなかった。


「理由や背景は不明だけど……お前の目的が人類滅亡だというのなら、話は早い。神の怒りをその身に受けろよ。ド変態野郎!」


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』


 キング・アーサーが雄叫びを上げながら拳を振りかざす。

 今度は左腕の肘から先が無数に枝分かれして、刃や槍のような形状に変化していく。

 数百の刃。恐ろしいほどの手数である。無数の武器はとてもではないが躱しきれるものではないが……僕の頭に恐怖はない。


「うっさい、消えろ」


 迫りくる無数の刃に向けて、聖剣を一閃させる。

 聖剣から白い光が放たれたかと思ったら、僕達を貫こうと迫ってきていた刃が残らず消し飛んだ。

 風夏の力のように跡形もなくというわけではなかったが、キング・アーサーの左手が原子レベルまで分解される。


『なあっ!? 馬鹿な、ボクの力が打ち消されただって!?』


 キング・アーサーの身体から天童の愕然とした叫びが漏れてくる。

 よほどキング・アーサーの力を過信していたのだろうが……『正義の聖剣』を抜いた僕には通用しない。


「もう夕方6時、晩ご飯の時間だ。そろそろ帰らないと華音姉さんに叱られてしまうことだし、サクッと終わらせるよ」


『飛行』スキルを使ってキング・アーサーに接近して、聖剣で斬り裂く。

 金属っぽい質感のキング・アーサーの胴体部分がバターのように容易に両断される。

 銀色の巨体、その胴体部分が分解されて頭だけになった。頭部分が変形して耳から翼を生やして、辛うじて崩壊を免れている。


『アアアアアアアアアアアアアアッ!? 何故だ、何故、ボクが追い詰められているんだ!? ボクは選ばれた力の持ち主、旧人類を滅ぼして新世界を創り出す神だぞ!?』


「知らないって。旧人類がどうとか、新世界がどうとか……僕には欠片も興味はない。そんなことよりも、早く帰って晩御飯を食べることの方が大事なんだよ」


 早く帰らなくては、華音姉さんの手料理が冷めてしまう。

 僕にとっては世界の危機よりも一家だんらんのほうが遥かに大事。変態ロリコンイケメン野郎の相手など、している場合ではないのだ。


「そういうわけで……さっさと消えろ。もう門限だ」


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』


 首だけになった『巨人』が空を飛んで逃げようとするも、僕はそんな銀色の頭に向けて聖剣を振るった。

 聖剣から放たれた白銀の閃光が真っすぐに向かっていき、一切の抵抗を許すことなくその身体を破壊する。


 女神から授かった加護――『正義の聖剣』

 その能力は『世界の敵』に対して特攻を得ること。

 人類を脅かす敵を認識して、聖剣を召喚する……これによってその敵を確実に撃ち滅ぼすことができる『特攻』が付与された剣を呼び出すことができる加護だった。

 いうなれば、必勝の後出しジャンケンである。相手の能力や弱点の有無に関わらず、確実に敵を討滅することができるのだ。


『アアアアアアアアア……』


 キング・アーサーの頭部が、中にいるであろう天童時彦もろとも粉々に打ち砕かれた。

 空に汚ねえ花火が上がって……粉々になった残骸が風に溶けるようにして消えていく。


「はい、世界救済完了。さっさと家に帰ろうか」


「…………うん」


 穏やかな笑みと共に腕の中にいる風夏に言うと、呆然とした少女が夢でも見ているような表情でコクリと頷いたのである。


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