日本人だから

 具靴人形のエマ

 いつの間にか私の名はこの形で広まってしまっていた。この名前は私を恐れる人たちのを中心に広まっている。私の試験を見ていた人から無限に人形を生み出す怪物として恐れられている。入学早々怪物と呼ばれているのは不本意だけど、そのおかげで私は恩恵を受けている部分もある。

 現在私は試験の中で好成績を得たものだけが得られる権利を得ている。それぞれの学年の上位3名には専用の食事スペースが与えられたり、一般生徒が参加禁止の集会に参加し学園の方針を決める権利を得たりしている。さらに、それぞれ専用の部屋を寝泊りする場所とは別に与えられて、自由に使うことができる。現在私はアレクシアと一緒に専用スペースで昼食を食べるために食堂に向かっていた。


「そんな奴いるわけないだろう。僕はそんな噂信じないぞ」

「いるんだよほんとにこの目で見たんだ! ほら、あいつだよ」


 食堂に入ったらそんな話声が聞こえてきた。私の顔まで広まっていく。ちょっと嫌だ。


「え? ちょ、そんなことより」

「どうしたんだよ」

「隣にいる人って聖女じゃないか?」


 今、聖女って言ったのは聞き間違いだろうか。隣……隣にいるのはアレクシアとシュラだけど、シュラは今猫だから人じゃないし、アレクシアの事だろうか。


「アレクシア、聖女って呼ばれてるの?」

「あはは、ボクも知らないうちにそう言われているみたい」


 聖女、聖女かぁ。私と随分違っていい呼ばれ方してるなあ。私はどちらかと言うと恐れられているのにアレクシアはあがめられているかのようでこの差にちょっと悲しくなる。アレクシアの魔法は綺麗だから聖女に見えるのも分かるけど私の人形はそんなに怖いかな。可愛く作った人形が動くだけだと思うけれど、夜に見たら私も怖いかも。


「そんなことより、ご飯何食べる?」

「そんなことね。今日は日替わりでいいかな」


 この食堂、なんと日替わりの定食がある。久々に日本らしいものを見た。海外にも日替わり定食みたいなことあるのかな。良くは知らないけれど、これを見るだけでも懐かしくなるくらいもう日本にいたのは昔のことになっている。


「今日の日替わりは何かな?」

「生姜焼き定食だって。生姜焼きって何かな?」

「しょうが……焼き?」


 聞き間違いではないよね。生姜焼きと言うことは、あれもあるんだろうか。私がこの世界に来てからずっと探し求めてきたものの、今日まで色々調べたり作ろうとしたりしたけど結局手に入れることができなかったもの。日本人だとしたら定期的に食べないと落ち着かないあれがッ


「あった! お米!」

「米って、エマがよく食べたいって言っていたもの?」


 私がずっと食べたかったものが、お米がこんなところにあるとは。今日は運のいい日だ。もう無理かもしれないと諦めかけていた、私の大好きな食べ物が、今ここにある。


「アレクシアも生姜焼き食べようよ」

「うん、そうする」


 アレクシアも一緒に日替わり定食にしてテーブルに着く。シュラとメアリーはここだと姿を解けないから後でグレースが買ってきたご飯を食べることになっている。二人ともアディリアンという人が作ったアディリアン・パイにはまっているようだ。二人は三食パイになりかけている。栄養バランスとかは完全に無視だ。


「久々のお米、幸せぇ」

「エマ? これ味しないよ?」


 私が久々に食べるお米を堪能しているとアレクシアはお米を食べて困惑していた。私はお米について詳しくは教えてなかったから少し勘違いをしているみたいだ。


「よく噛めば味はするよ。私にとってのお米はアレクシア達にとってのパンみたいなものだよ」

「主食なんだ。パンとは違うけどボクも嫌いじゃないな。慣れたら好きになると思う」


 良かった、アレクシアも好きになってくれそうだ。お米があるなら私の料理のレパートリーが増える。お米を手に入れる方法を機会があるときに聞いておこう。


「これ、材料があれエマも作れるの?」

「うん、できるよ」

「じゃあ今度作って!」


 アレクシアのリクエストももらったし、出来るだけはやくお米を手に入れよう。他にもオムライスとか作ってあげたいな。


「ごちそうさま。美味しかったね」

「ごちそうさま。私はもっと美味しいの作るから楽しみにしていて」


 絶対に負けない。アレクシアの胃袋をつかむのは私だけだ、絶対に他の人になんかあげない。


「エマ?」

「わっ」


 びっくりした。考え込み過ぎていたからアレクシアが私の目の前に回り込んでいたのに気が付かなかった。


「ぼーっとしてどうしたの?」

「大丈夫だよ、行こ」

「うん、あの部屋だよね」


 私達は今から、ちょっと嫌な部屋に行かなければならない。

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