ロリコンは止まらない

 一通り体を拭き終わった。髪を乾かしたいが、ドライヤーが見当たらない。後で聞いてみよう。その前に、


「ヴァレリーさん、私が着られる服はありますか?」

「そうだ、エマの着れる服が無かったね。よし、今から作ろうか」

「え? 作る?」

「うーん、これでいいかな」


 ヴァレリーさんの手が淡く光る。その光が収まるとその手には猫耳のついたパーカーとショートパンツ、下着が握られていた。


「え? ど、どこから? それに、なんで猫耳?」

「アタシは魔女だ。魔法や錬金術、何でもできるのさ。 この服はアタシの趣味だ!」


 今聞いたことを信じるならば、私の世界では物語の中にしかなかったものをこの世界では実際に使えるらしい。しかも実際目の前で起きているのだ、信じるしかないだろう。なんでも出来るってすごいな、この世界の人は皆そうなのだろうか。


「それって私にもできるのですか?」

「興味があるのか? じゃあこれもその内教えてやる。それより今はこれを着るんだ。アタシに萌えというものを見せてみろっ!」


そう言いながら私にパーカーを着せてくる。少し恥ずかしかったので抵抗したが、抵抗空しくあっという間に着せられてしまった。


「は、恥ずかし、でもこれしかないし。萌えなんて言葉、どこで知ったの……」

「アタシは異世界の書物を読んだことがある。萌えというものも、幼女の素晴らしさもその書物から学んだのさ。 ああ、抑えきれないほど愛おしい、これが萌えか♪」

「なんでそんなものあるの、ピンポイントすぎるでしょ! まあいいです。それより、ドライヤーはありますか?」

「ドライヤー? 何だいそれは?」

「温かい風で髪を乾かす道具です」

「ふむ、それなら魔法で再現できるな ほら」


 ヴァレリーさんは手から温風を出して私の髪を乾かしてくれる。その間も、もう片方の手で髪の毛や頬を執拗に触られた。私はもう諦めた。一応こちらの話は聞いてくれるのであまり反発して追い出される方がまずい。


 髪を乾かしてもらった後、私はあの猫耳パーカーを着てヴァレリーさんと夕食を食べた。ヴァレリーさんの手作りのステーキだ、お米が食べたかったがパンしか無かった。

 ヴァレリーさんの家のテーブルは私の身長では椅子に乗っても顔しか出ないくらい高かったので、私はヴァレリーさんに抱えられて膝の上でステーキを食べさせられていた。


「ふーっ、ふーっ、はいエマ、あーん」


 焼きたてのステーキは熱かったので、冷ましてから食べさせてくれる。肉は柔らかくて、美味しかった。


「ああ、本当に可愛いねえ。ゆっくりでいいから、よく噛んで食べるんだよ」


 私がヴァレリーさんに好きにされることを諦めた事に気づいてからはぐいぐいくるようになった。この人も可愛がりたいだけのようなので大人しく受け入れる。

 散々可愛がられた後、お腹いっぱいになって少し眠くなった私はあくびをする。


「眠くなったのかい? もう寝るかい?」

「いえ、まだヴァレリーさんの話を聞いていないので、寝るのはそれからです」

「そうだったね。でもいつ寝てもいいようにベッドに行ってから話をしようか、どうせベッドは一つしかないし一緒に寝ることになるからね」


 ヴァレリーさんはそう言ってさらっと私を抱き上げて、寝室に向かう。少しは抵抗した方がいいのだろうか。多分無駄だろうな。


「ほら、ここだ。それじゃあ、寝るまでアタシの話をしよう」


 ヴァレリーさんは私を抱いたままベッドに入る。どうやら放す気は無いらしい。なんとなく分かっていたことなので、そのまま話を聞くことにする。こんな森の中で一人暮らしをしているのだ、私には想像もつかない人生を経験してきたのだろう。


 ヴァレリーさんの家計は、代々とある王国で一番優秀な政務官を輩出していた家系の生まれらしい。ヴァレリーさんはその家の第一子に生まれたため幼いころから政務官になるため、厳しい教育をうけていたそうだ。


「アタシが生まれたウォルスス家は貴族との癒着があってね、幼いころのアタシは先生から正義を学ぶと同時に自分の親がその正義に反することをしているのを見ていたからだいぶ混乱したもんさ」

「ウォルスス家? ヴァレリーさんはレアンドルと名乗ってませんでしたか?」

「レアンドルはアタシに錬金術や魔法を教えてくれた人のものだ。アタシを救ってくれた人の名前でもある。まぁ、続きを聞きな」


 そう言ってヴァレリーさんは話を続ける。

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