第85話 正の記録、負の記録

 武史は基本的に、あまりピッチャーっぽいメンタルを持っていない。

 正確に言うと野球の中では、そういうメンタルを発揮しないと言うべきか。

 それでも三振を取るのは好きである。

 ゴロと違ってカバーに入る必要もないし、面妖なボール回しなども発生しないからだ。

 さっさと自分の力だけで終わらせるのも、個人的な性質には向いている。

 これが中学時代のバスケにおいては、ポイントガードとポイントゲッターの両方をこなしていたのだから、人間の二面性には面白いものがある。


 プレイオフに入ったNBAを、見に行きたいという欲望はある。

 そう思うたびに、MLBのこの日程が、呪わしいものに思えてくる。

 実はMLBとしては、レギュラーシーズンは短縮したい、とずっと前から思っているのだ。

 そしてその代わりに、ポストシーズンの試合を多くする。

 武史にはむしろ馴染み深い、16チームによるトーナメント戦。

 NBAは東と西だが、MLBは普通にア・リーグとナ・リーグに分かれている。

 現在は六チームずつの12チームなので、また選出方法は面倒になりそうだが。


 なぜMLBや、またオーナー側がポストシーズンを増やしたいかと言うと、それは極めて現実的で説得力のある理由が出てくる。

 その方が儲かるのだ。

 現時点でも不人気球団のレギュラーシーズンの試合は、観客動員数が一万人程度かそれを下回ることも少なくない。

 対してポストシーズンは、勝ち残ったチームによる、つまり強い見応えのある同士の対戦となるのだ。

 一試合の勝利の価値が、レギュラーシーズンとは全く異なる。

 それだけに観客も見ようと、押し寄せてくるのだ。


 ポストシーズンに出場できなかったチームは、レギュラーシーズンの試合も減って、さらに収入が減るようにも思える。

 だが実際のところMLBは、選手補強に多くの資金を使ったチームからは、それだけのぜいたく税を取っている。

 これを他の球団にも分配するように、ポストシーズンでの増益分は、ある程度下位の球団にも回るようにする。

 MLB全体が儲かれば、それだけ分配金も増える。

 だが問題がないわけではないし、現場の声も賛否両論だ。


 選手会の代表も含め、選手としてはそれより、スケジュールのタイトさをどうにかしてほしい。

 あとはピッチャーの登板間隔だが、それはかつて中四日のことさえ、MLBのローテーションではあったのだ。

 もしも直史を、19世紀のMLBの世界へ放り込んだらどうなっただろうか。

 さすがにタフさの関係で、長く太い成績は残せなかっただろう。


 またレギュラーシーズンを減らすということは、多くの記録が更新不可能になる可能性が高い。

 ホームランのシーズン記録など、ただでさえ抜かれる可能性が低いのだ。

 かつてベーブ・ルースのホームラン記録が抜かれたときも、参考記録として残すべきではという議論が起こった。

 それはベーブ・ルースがMLBの歴史において、あまりのも偉大な存在であったからだ。

 ただ大介はそういったことにはもうこだわらない。

 なにしろ自分のホームラン記録よりも、フォアボールと敬遠の記録の方が、よほど歴史に残るものだと思っているからだ。




 打撃成績というものは、ピッチャーとバッターの合意があって成り立つ。

 かつては指示を無視して勝負する、などという男らしいこともあったらしい。

 いかにも男らしさの象徴で、しかしながらアメリカ人は、それを好んだだろう。

 また日本人も好んだはずだ。本当の勝負というのは、そういうものだからだ。

 これは男の世界の話である。


 大介を敬遠して、それでもなおホームラン王を取られる。

 この状況を理解しているのか、当の大介はMLB全体を、苦々しく思いながらも見ている。

「いいなあ」

 マウンドの上で躍動する武史は、誰が相手でも申告敬遠をされることがない。

 FMが信じていれば、武史はいくらでも勝負を挑んでいける。

 ぽっかりとホームランを打たれてしまったこともあるが、どんな強打者相手でも、武史は勝負していけている。


 このあたり大介は、やはり野球の主役はピッチャーかな、と思うのだ。

 そんな主役を倒すために、ボコボコに打つと決めたのが幼い日。

 アメリカではむしろ、ピッチャーの方が敵役に回ることがある。

 ホームランを打つことの価値が、日本よりも高い。


 このあたりは本当に、民族性の違いがあるとは思う。

 日本人は基本的に、団体競技は滅私奉公、チームのために勝つのが偉いとなる。

 アメリカ人もチームワークやチームプレイを大切にしないわけではないが、チームのために己を殺すのは違うだろうと考えるものだ。

 自分を鍛えて打つことが、チームが勝つことにつながる。

 それも確かに間違いではなく、一年目の大介はMLBにおいて、それまでで最高の結果を残した。


 二年目以降はなんなのだろうか。

 NPB時代にはもっと、勝負をしていたものだ。

 そして大介も、それによって比較的抑えられていた。

 打率や出塁率はともかく、長打率は今の方がはるかに高い。

 MLBのピッチャーのレベルがNPBより明らかに低いとは思わない。

 無理にボール球でも打っているのは、日本時代と同じだ。

 それなのにどうしてこうも結果が違うのか。


 織田や本田に井口などを見ていると、NPB時代よりは数字を落としている。

 だが大介に直史、そしてポジションこそ違ったが上杉などは、数字を完全に上げている。

 高いステージに刺激されて、より潜在能力を発揮しているのか。

 だがNPBの舞台であっても、大介はそう簡単にポンポンと打っていたわけではない。

 苦労して駆け引きをして、なんとか打っていくこともあった。

 本当にこのあたり、意味が分からない結果になっている。


 そんな大介の前に転がってきた、速いショートゴロ。

 捕球しようとしたボールが、イレギュラーバウンドした。

 咄嗟にグラブをそちらに動かしたが、勢いでグラブは顔を叩いた。

 痛い思いをしながらも、しっかりと一塁に送ってランナーアウト。

「ってえな、あ」

 鼻血が出てきて、タイムがかかる。

 なんともストレスのたまる展開が続いていく。




 武史のボールを捕っていると、普通のスーパーエースはこういうものだよな、と坂本は思う。

 直史のあのコンビネーションは、今考えてもおかしい。

 日本時代に多く組んでいた樋口と組んで、成績が向上するというのは、理屈の上では分かる。

 だがあの成績が、あれ以上に向上するというのが分からない。


 三振を取りまくる武史であるが、それでも直史ほどの安定感はない。

 これは日本時代、樋口とバッテリーを組んでいた時からのことなので、樋口を理由にすることは出来ない。

 いや、直史のあれは、安定というレベルではないのだろうが。

 武史の場合はやはり、小フライが内野の頭を越えて、外野の前にポテンと落ちることが多い。

 かといって時々、それなりの飛距離の外野フライも出るので、外野を前に出せばいい、というわけでもない。


 坂本は思わないが、去年までを知っているメトロズの首脳陣は、カーペンターが抜けたのが痛いな、と考えている。

 外野で一番守備範囲の広い、センターが抜けてしまった。

 マイナーから上がってきた選手が、そのままセンターの座を射止めたわけだが、わずかに守備力は下がっている。

 大介の一番打者というのも、確かにチャンスメイクの役には立っているのだが、大介自身の打席は、勝負を回避される傾向がある。


 センターのポジションはともかく、大介の邪魔にならない足の速さを持つ、一番バッターがいないものか。

 現場としてはそう考えるのだが、もしそこが補強されるにしても、それはもっとトレードデッドラインに近づいてからだろう。

 今年は坂本と武史を取ったため、メトロズのサラリーもかなり上昇しているはずだ。

 それに大介のインセンティブが、当初のフロントの予想より、はるかに膨らんでいるとも聞いている。

 さすがにそれは無理だろうという数字を、大介が記録してしまうからだ。

 それでも一年目のままのインセンティブにしていれば、ひどいことになったと言われている。

 一年目が終わった時点で、契約を見直したのは正解だ。

 3000万ドルにインセンティブが加わっても、大介はまだ安い選手なのだ。


 この試合も武史は、やはりフライ性の当たりからヒットを出してしまった。

 だがそれを惜しいと思っても、内野フライと三振によって、観客を大いに盛り上げてくれる。

 それにパワーピッチャーの割には、ゾーンぎりぎりを狙って、見逃しの三振も取れている。

 さすがに20奪三振は苦しそうだが。


 ベンチはそう見ていたが、武史は最終イニングには加速する。

 ムービング系も含めてスピードボールは、全て103マイル以上。

 今日はナックルカーブは見せ球に、チェンジアップの空振りが効いている。

 やはりあの、スプリットが見せ球として効いている。

 日本でもスプリット系のフォークを、ウイニングショットにするピッチャーは多い。

 武史の同郷の先輩であった吉村も、スプリットを決め球にしていた。


 最終的には九回29人104球で19奪三振。

 打たれたヒットはポテンヒットが二本。

 エラーも一つあったが、それは守備がダブルプレイで消してくれた。




 ここいらでいい加減に、マスコミも気付いてきている。

 奪三振ばかりに注目が浴びせられ、兄とのスタイルの違いには言及される。

 だが武史の、与四球率はいったいなんなのか。

 直史の与四球0というバグを見て、感覚が麻痺しているのだろうか。

 武史は確かに直史の倍ほどの奪三振率である。

 直史も充分に高いのだが、武史が驚異的に高すぎるだけだ。

 ただここまでの四死球を見てみれば、あの退場になった死球を含めても、まだ三つだけ。

 一試合当たり平均して、一つもフォアボールを与えていない計算になる。


 ピッチャーの評価の一つに、三振をどれだけ奪えるか、というものがある。

 そしてもう一つ重視されているのが、フォアボールをどれだけ与えていないか、というものだ。

 かつては軽視されていた出塁率につながる数字。

 それがフォアボールによる出塁である。


 普通のパワーピッチャーで、とにかくスピードがあるのは、それだけ逆にフォアボールも多くコントロールが悪いというのが、昔のテンプレであった。

 だが実際のところ、正しくパワーをボールに伝えられていれば、コントロールも安定するのだ。

 このあたり武史は、中学時代のバスケの感覚が活きている。

 最後のシュートタッチが悪ければ、ボールはリングに入らない。

 ただシュートを放つだけでなく、リングに入れなければ意味がないのだ。


 兄の影響や、高校時代の指導も、その最初から良かったコントロールを、上手くそのままに球速を伸ばしてきた。

 高校一年生の夏、既に150km/hオーバーであったスピード。

 卒業時には余裕で160km/hを超えていた。

 それでも苦戦するあたり、あの時代の大阪光陰は、本当にとんでもなく強かった。

 大学時代にはさらにパワーを増して、165km/hにも達する。

 だがスピードだけに頼らなかったのは、画面の中のプロ野球で、大介が170km/hオーバーの上杉のストレートを、ホームランにしているのを見たからだ。


 コントロールの秘訣は、などと問われると、武史は答える。

「バスケットボールのジャンプシュートの練習をすることかな。最後の指から離れるタッチで、ボールをどこに投げ込むか決めるから」

 武史のストレートの最後にバックスピンをかける感覚は、今でもそういったものだ。

「今でも時間があったらストリートで、バスケに混じってることあるよ」

 いやお前、そんなことしていて怪我したらどうすんだ、という視線があちこちから飛んだ。

 しかし武史は気づかなかった!


 インタビューの後半には、冗談のような質問も飛んでいく。

「MLBでのモチベーションが低下したら、NBAに挑戦してみたいとか思いますか?」

「それはないかな」

 マイケル・ジョーダンの逆である。

 武史は今でも、バネ型の体格をしており、バスケ向きの体ではある。

 守備も重視していると、クイックネスが持続するのだ。

 今からNBAに挑戦し、どれだけのことが出来るか。

 ストリートでもそれなりに上手い選手が、ごろごろしているのがアメリカという国だ。

 それに何より、武史は身長が足りなかった。

「高卒でアメリカの大学に入って、そこで野球とバスケをやって、バスケでも通用しそうだったら、NBAに行ったかもしれないけど」

 だがそんな未来を、選ぶ余地は結局なかった。


 武史は今でも普通に、見るのもやるのもバスケの方が好きと答える。

 野球は仕事であって、単に好きだからでやるようなものではないと思っているのだ。

 それに野球が楽しいのは、やはり仲間がいてこそのものだ。

 バスケであっても、それは同じことかもしれないが。


 顔見知りがいなければ、武史はアメリカに、MLBに来ていなかっただろう。 

 その意味で、大介や直史が先に来ていたことには、ありがたいと思う。

 恵美理の理解もあったことだし。


 やたらとあっけらかんと答えるものだから、悪意をもって解釈することが難しい。

 本当に次男気質というか、直史のように自分の言動に、注意しなくても炎上しないのが武史である。

 実際に炎上するほどのことは言わないし、行動も軽率なものは少ないが。

「しかし兄弟でどうしてこう、才能に違いが出たと思いますか?」

「才能の種類が違っただけじゃないかな」

 咄嗟に答えて、そしておそらくはそれが合っている。

 才能などと言ってもそれは、フィジカルであったりメンタルであったりする。

 そしてフィジカルにしても、色々な要素があるだろう。


 大介はホームランをガンガンと打っているが、160km/hを投げられるわけではない。

 武史はNPB時代はそこそこ、ピッチャーの割にはホームランを打っていた。

 ただ守備や走塁に関して、大介に及ぶとは思えない。

 それにあの打率は、間違いなく才能に研鑽が加わったものだ。


 才能を、センス、フィジカル、メンタルなどと分けていくと、直史が持っているのは、メンタルとインテリジェンスになるだろう。

 自分の素質に適した、ピッチングスタイルを模索して、それに向いたトレーニングをする。

 なんだかんだ言って武史に、全く違ったタイプのトレーニングをさせたのは、セイバーやジン、そして直史である。

 フィジカルの中で、筋肉の瞬発力なら、武史は上回っていると思う。

 だがピッチングを組み立てて、器用に変化球を投げ分けて、変化量まで細かくコントロールすることは出来ない。

 ダイナマイトとライフル、用途が違うようなものだ。




 武史に完全に抑え込まれたサンフランシスコであるが、次の試合への影響はあまりなかった。

 むしろ武史のスピードの後では、ジュニアのボールは遅く感じたものである。

 チェンジアップにツーシームと、球種が同系統なのもまずかった。

 武史とジュニアのローテは、少し離した方がいいだろう。

 ジュニアも100マイルを投げるが、武史の方がコントロールなどもいい。

 そのあたり武史も、努力が努力と見えない、罪な男ではある。


 序盤から大量点を取られたわけではないが、六回までに四失点。

 クオリティスタートに失敗した。

 ホームゲームで先取点を取られたというのも、運が悪かったのだと言うべきだろう。

 惜しくも追いつけず、5-6で敗北。

 アナハイムも少しは負けているが、勝率の差が縮まらない。


 試合の消化数は違うが、同じ日において、この二つのチームの勝敗は次のようなものになっている。

 アナハイム 32勝4敗。

 メトロズ 28章7敗。

 メトロズの勝率は分かりやすく80%丁度であり、これは117勝した去年の72%を上回っている。

 つまりメトロズは去年より、比較して強くなっているはずなのだ。

 それなのにアナハイムは、さらにその先を行く。

 一時期90%となった勝率は、この時点でも88.89%と圧倒的。

 これは本当にMLBの勝率なのか、と言いたくなるほどのものである。


 この理由はなんなのか、と単純に得点と失点を見れば、相変わらずメトロズは打力のチームで、アナハイムは防御力のチームとなる。

 メトロズはさらに得点力がアップして、失点が大幅に改善している。

 そしてアナハイムは失点がさらに改善し、得点力が大きくアップしている。

 得点と失点の差を見れば、むしろメトロズの方が、その差は大きい。

 つまるところアナハイムの方が、効率よく得点しているということだろうか。

 勝利から逆算し、必要な点を取り、失点を想定内に抑える。

 こういう野球をするのは樋口だ。


 ピッチャーが完全に攻撃から排除されてしまったMLBにおいて、攻撃と守備の両方に、最も大きな影響力を持つのがキャッチャーだ。

 性質の悪いことに樋口は、勝敗の見えた試合にはあまり打撃にこだわらず、自分の数字を落とすところがある。

 そうやって油断させたところに、ホームランを打ってくるのだ。武史は味方側で、大介は敵側で、たくさんその様子を見てきた。

「なちゅう性悪やがか」

 坂本は策士であるが、気分屋ではあっても、あえて打たないという選択まではしない。

 ただそうやって打つのを抑えていても、首位打者やトリプルスリーを達成するあたり、樋口の悪辣さはさらにとんでもないのだが。


 そんな樋口の分析を、日本人三人が揃って行う。

 それ以前の問題として、もうすぐアナハイムとの直接対決が迫っている。

 勝率で追いつこうと思うなら、ここでなんとか勝ち越しておきたい。

 さすがに全勝というのは、メトロズにとって都合が良すぎるだろう。


 先発の対戦相手は、既におおよその見当がついている。

 第一戦はウィッツとレナード、第二戦はオットーとマクダイス、そして第三戦が武史と直史。

 先発の力を見るに、第二戦はおそらく取れるし、第一戦もややメトロズの有利だろう。

 問題は第三戦である。

 武史は、負けない自信はそこそこある。

 だが勝てる自信は、全て他人に頼るしかない。

 あと問題になるのは、アナハイムにも樋口という、武史を良く知るキャッチャーがいることだ。

 紅白戦を行った時、樋口は武史からヒットは打ったことがあるが、長打はほとんど打っていない。

 だがそのバッティングが、チームのエースに配慮した、接待バッティングであった可能性は高い。

 あれはそういう男なのだ。


 大介から見ても、アレクという厄介な一番に、樋口という面倒な二番。

 これを無失点で抑えるのは、かなり難しいと思う。

「狙いを絞ってナオから打つしかないがか」

 坂本は大介の一発を期待する。

 一点取ってくれれば、それで勝負が決まる可能性は高い。

 逆に一点でも取られれば、それでも勝負が決まる可能性は高いが。


 昨年のワールドシリーズ最終戦。

 結局最初に点を取っていた、アナハイムが勝利した。

 直史が三試合に投げて、一点も取られなかったから、アナハイムは優勝できたのだ。

「とりあえずスプリット、投げられるようになった方がいいかな?」

「「無理はするな」」

 大介と坂本の声がハモってしまった。


 最終的な目標は、あくまでワールドシリーズで勝つことだ。

 そのために必要なのは、四勝すること。

 かつて直史がやった、日本シリーズでの連投を含む四勝。

 さすがにあんな無茶をメトロズ相手に、いや、大介相手にしてくることはないだろう。

 去年も直史の他に、ヴィエラが一つしっかりと勝っていたのだ。


 まずは三連戦で、他の二試合を確実に勝つこと。

 レナードとマクダイスは共にローテのピッチャーであるため、ここで散々に打ち砕いておけば、しばらく調子を落とすかもしれない。

 その間に勝率で逆転できれば、しめたものである。

 一点もやらず、一点を取る。

 なんだかピッチャーにばかり、負担が激しい要求のような気もする。

「な~んか延長になって、球数制限で俺が交代になる気がするんだけど」

「いや、そういうこと言うなよ」

 武史の言葉を咎めながらも、否定しようとはしない大介であった。

 MLBの試合に引き分けは、基本ないのだから。

 いや本当に、そういうことを言ってはいけない。

 NPB時代にはそれを上杉相手にやって、降板後にレックスは勝っているのであるから。

 物事は繰り返すものなのである。

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