第三章「降臨」⑦

 ナターシャの参戦によって、こちらの士気と戦力は大幅に向上した。

 ナターシャとオルガの合体技で建った無数の柱が魔物の進行を妨げ、より強固な防衛ラインが確保されることとなり、俺達は何とか息を吹き返すに至った。

 しかし、それでも形勢逆転と呼ぶにはほど遠く、一進一退の膠着状態が五時間ほど続くこととなる。

 敵は飲まず食わずで永遠に戦い続けられる魔物の兵、こちらは血が通った生きている獣人達。長期戦に持ち込まれれば、どちらが不利かは火を見るより明らかだ。

 未だ、俺達の視界いっぱいに拡がる黒い靄の海。

 相手が俺達を本気で制圧するならば、この圧倒的物量で問答無用に押し潰せばいい。

 それをせずこちらの様子を伺うように戦力を小出しにしてくるのは、相手の将――〝放浪王〟ガロードが俺達を弄んでいるからに他ならない。

 アーシャはこの五時間、一瞬たりとも休まず踊り続けている。

 未だ彼女が魔物にやいばを振るわないのは、彼らが元獣人で、死後なおその命を弄ばれている存在だからだ。

 オルガもイーフもロロも獣人の男衆も、一人でも多くの獣人の魂が救済されることを望んでいる。

 だから、アーシャは踊ることをやめない。

 捕らわれた者達を、獣人として弔うために。

 しかし――。


『トートッ‼』


 通信機イヤリング越しに、イーフの悲鳴が耳朶を貫く。

 俺とオルガの前方――防衛ラインの最前線でイーフ率いるアグラ乗り達は敵のアグラ群を止めていた。

 二百頭いたその数は既に百頭を切り、他のアグラ乗りを守るようにして戦っていたイーフとトートのコンビが、敵のアグラ群に飲み込まれていた。

 こちらからは状況がよく分からないが、左前方に傾き動かなくなっているトートに、敵のアグラが群がっている。通信機からは、ぐじゅぐじゅと咀嚼音のような音が聞こえていた。


『やめろ! やめろ! トートを……俺の家族を食うんじゃねぇ‼』


 泣きながら訴えるイーフの声と魔物の咀嚼音が耳に貼り付く。


『頼むよ……オイラの命なら、いくらでもくれてやるから……』


 そう哀願しかけたところで、イーフはぐっと言葉を飲み込んだ。


『命乞いなんて、オイラらしくねぇ。コイツに笑われちまう。……あと頼むわ』


『ダメだ、イーフ!』


『待ってろ、今助けに行……』


『来るんじゃねぇ‼』


 アーシャの声を、イーフは怒声で捻じ伏せた。


『……もうトートは死んじまった。

 ずっとオイラを信じて付き従い、命を捧げてくれた、唯一無二の相棒が死んじまったんだ。オイラだけのうのうと生きてるわけにゃ……いかねぇだろ』


 しゅっ、とマッチを擦る音が響く。


カタキ取って、アイツの元へ行ったらぁ』


 魔物の山から、チリチリと赤い火花を散らした何かがばら撒かれた。

 残りの樽爆弾を全て、イーフが放ったのだ。


『あばよ』


 言ったが早いか、前方で爆音が轟き、いくつもの火柱がトートごと魔物の群を飲み込んだ。

 しかし。

 その炎も瞬く間に黒い靄に飲み込まれ、踏み潰され、何事もなかったかのように魔物共は行軍を続ける。


『ちくしょう……』


 アーシャの掠れた声が漏れる。


『ちくしょぉーーーーーーーーーっ‼』


 咆吼が戦場に木霊した。


『どうしてだ! どうして……みんな仲間だったのに、どうして殺し合わなければいけないんだ‼』


 アーシャの問いに応える者はいない。

 俺を含め、ここにいる全員が戦争を経験しているから。

 安っぽい慰めでこの凄惨な事実を誤魔化す術を、俺達は持ち合わせていない。

 かなめを失ったことで、アグラ乗り達が次々と蹂躙されていく。

 ズタズタに角を刺され、踏み潰され、斬り裂かれ、一騎、また一騎と悲痛な叫びと共に死んでいく。


「やめろぉ‼」


 たまらず俺は火の真言マルナを唱え敵のアグラ群を燃やす。

 しかし、その全てを焼却するには至らず、生き残った魔物が防衛網をすり抜け、後衛へと雪崩れ込んでしまった。

 怒号と鍔迫り合いがまたしても後方で響き始めた。

 男衆が叫ぶその声は、無理矢理自分を奮い立たせるような、折れた心をひた隠しにするような――恐怖に、目を背けるような。


「……どうしてだよ」


 それは、誰が漏らした言葉だったのだろうか。

 なぜかその声は、混沌渦巻く戦場の中で、よく響いた。


「どうして、こんなになっちまったんだよ……父ちゃん」


 変わり果てた家族を憂うその声は、悔し涙と嗚咽に震えている。

 その声だけではない。


 あぁ、どうして……

 お前とは戦いたくない……

 いっしょに焚火を囲んだお前と、どうして戦わなきゃならねんだ……


 すすり泣く声が、剣音の中に沁み込む。

 砂龍狩りのロロまでも、涙を流し、歯を食い縛りながら戦っている。

 どうやら皆には、魔物に変わり果てた者達の、生前の姿が見えているようだった。


 獣人は、旅の中で生き旅を住処とする。

 その旅の中で出会った者と分け隔てなく焚火を囲み、親類や友となる。

 そうして結び合った絆と協力し、助け合い、彼らは生を謳歌する。

 彼らにとって、この砂漠全てが故郷であり家であり、ここに住む全ての者が親類であり友なのだ。

 無くてはならない、心の寄辺よるべなのだ。


 おぉメロウ友よジーナ

 今はしばしの別れロコ アシュタリヤ

 精霊の導きと共に先に行けルルド ア セド アルマ クージア

 時の河を渡りウース ギオ セーラハ

 運命の海の果てクー ロド セ ロー

 来世の大地でまた語り合おうイリシュハ レペゼ コンコーロ ホー

 また語り合おうコンコーロ ホー

 

 おぉメロウ父母よウーヤ

 今はしばしの別れロコ アシュタリヤ

 精霊の導きと共に先に行けルルド ア セド アルマ クージア

 黄昏の風ジド シア フー

 暁の空アパ シア ラー 

 我が子となりてまた愛し合おうマナ セジク ゼペ リリ オーテ カンラー

 また愛し合おうリリ オーテ カンラー


 誰ともなく、男衆達が歌い出した。

 獣人達の間で歌い継がれる弔いの歌。

 親類や友と、輪廻という旅先で再会を願う歌。

 

 歯を食い縛り、顔を顰めて戦う一方で、彼らは涙を流しながら歌う。

 その声に、一縷の願いを乗せて。


 そして――。

 男衆を襲う魔物の動きが、止まった。


 始まりは、たった一体の魔物だった。

 足を取られ転倒する獣人に止めを刺す瞬間、まるでオイルの切れたブリキ人形のようにぎこちなく緩慢な動きとなったかと思いきや、その魔物は武器を取り落とし、そのまま動かなくなった。


 砂塵に紛れてサラサラと黒塵が風に流れ、魔物の姿が元の獣人の亡骸に戻った刹那――……その者の魂が精霊へと還り、一陣の風が戦場を駆け抜けた。

 黄金の精霊を孕んだ風が獣人だった魔物の魂を次々と解放していく。

 それは、奇跡と呼ぶに相応しい光景だった。

 その奇跡を起こしたのは、獣人達の涙か、亡き者の意志か。


 奇跡の風は次々と他の魔物に伝播し拡がっていき、一分と待たずして、防衛線に侵入していた魔物を全て精霊に還した。

 それを見るや、後続に控えていた魔物達も足を止め、後退していく。

 黒い大波が、砂を噛みながら引いていく。


「助かった……のか……?」


 誰かが声を漏らす。


「……何とか、凌げたようだね」


 分身アバターをその身に戻したナターシャが息を吐く。

 刹那、後方からそれまでにない歓声がわぁっと上がった。

 俺も思わず安堵のため息を吐き、その場に座り込んでしまった。


 しかし――。


 いつからだろうか。炎の衣は既に消え失せ、青白い【光翼スパルナ】を西日に晒しながら、アーシャは撤退していく魔物達をじっと見詰めている。

 その背はひどく小さくて、今にも崩れてしまいそうだった。


◆◇◆


「クカカカカカカ! 何だアレは? 面白いモノを見た!」


 アーカードの姿のまま、ガロードは口を三日月のように歪めて笑った。

 この笑い声、いつ聞いても勘に障る。

 あの日のことを、思い出す。


「遊びすぎよガロード。もうこれ以上、兵を減らすわけにはいかないわ」


 苛立ちを押さえ込んで、私はガロードに忠告した。

 今、私達は獣人共が最後の砦とする隊商都市キャラバンタウンアーレンから七キール(㎞)ほど離れた地点に野営地を張り、そこから戦況を眺めていた。

 ここにいるのは、私とガロードと、私の部下が40人ほど。戦地に連れてきてない魔物は、全て大市場マーケットに待機させている。

 もう間もなく、戦場へ赴いた魔物共も戻ってくるだろう。


「別に遊んでいたわけではないぞ、イリス」


 私の顔を覗き込むようにして、ガロードは笑う。

 その笑いはあの魔物の浄化現象を見たからなのか、それとも、私の心根を見透かしてのものなのか。


「どうだか」


「嘘ではない。あの日言っただろう、『協力する』と」


 アジトにしていた商館で交わした言葉だ。

 私達に課せられた任務は3つ。

 一つ、ガルドア帝国のムーラン侵略を援助すること。

 二つ、身体能力の高い獣人の魔物を、兵力としてできるだけ多く確保すること。

 そして三つ、〝砂漠の女神〟を魔人に〝裏孵うらがえ〟すこと。

 特に三つ目は、組織の中でも成功例が少ない重要任務だった。

 そして、私が真名マーズに昇格してから初めて請け負った任務でもある。


彼奴あやつは〝裏孵〟るぞ。もう少し、追い詰めてやればなぁ」


 ガロードの眼差しが私の瞳を捕らえる。

 薄ら笑いを浮かべた軽い表情とは違い、その瞳には核心を射貫く力が宿っていた。


「どうして貴方にそんなことが分かるの?」


"裏孵り"の方法は、組織の中でも未だ確定されたものがない。

 辛うじて「外法チートによってルグを失った精霊を大量に注ぎ込む」という方法が最も有効であるらしいと判明している程度だ。


「さぁ、どうしてだろうな」


 そう口にしたときには、ガロードの眼差しはいつもの軽薄なものへと戻っていた。

 こうなってしまったら、もうこのゴブリンはこちらをおちょくることしかしない。


「……私が出るわ」


「ほう、〝殲滅の謳姫〟おん自らご出陣か」


「せっかく造った兵力を、貴方に無駄遣いされたから」


 茶化すガロードに、私も作り笑いで返す。


「彼奴にとって、思い入れのある奴を甚振いたぶれ。ぎょしきれぬ大きな感情の揺れが〝裏孵り〟を加速させる」


「……」


 伝説の魔王――〝放浪王〟ガロード。

 こいつは、どこまでこの世界が見えているのか。


 私は踵を返し、野営地を後にした。

 奴の存在が薄らぐと、今度は十年ぶりに再会した弟の姿が脳裏をよぎる。

 懸命に、ボロボロになりながら戦う弟の姿。

 手を抜いていたとはいえ、あの強襲を耐えるほどの力が彼らにあるとは思っていなかった。

 追い詰めれば、諦めて逃げてくれると思っていたのに。


 ごめんね、ロア。


 私には、やらなければいけないことがある。

 世界にどれだけ恨まれようと、私には……私達にはやり遂げなければいけないことがある。

 あの御方を、一人にはさせない。

「あの御方の剣になる」。そう、私は決めたのだから。


◆◇◆  


 戦乱が治まり、再び砂漠に静寂が訪れた。

 つい先ほどまで歓声を上げて湧いていた獣人達であったが、今では憔悴しきった表情で、黙々とこの戦いで死んでいった者達の亡骸を回収している。


 周囲には、無惨な死が転げ落ちていた。

 次に敵が攻めてきたときは、自分もこうなる。

 誰もがそう思わずにはいられないほどに。


『……本当に何ともないのか、ナターシャ?』


 通信機イヤリングから、アーシャの声が漏れた。

 見やれば、彼女はナターシャとオルガの三人で手を動かしながら話していた。


『あぁ。よく分からないけど、今は何ともないよ。

 心配掛けて、本当に済まなかったね』


 何かをひた隠すように無理矢理明るく振る舞うナターシャの声には、明らかな憔悴が伺えた。それは、俺が彼女の身に起こった事情を知っているからこそ感じ取ったものなのかもしれないが。


『十日間の昏睡から目覚めたばかりなんだ。無理はするな。

 アーシャ、お前もな。休めるときに、しっかりと休め』


 俺と同じく事情を知っているオルガが静かに告げる。

 彼は、今どんな思いでナターシャにその言葉をかけているのだろうか。


 姉の――イリスの言葉が確かなら、ナターシャは既に死んでいて、その体には既に核石が埋め込まれているはず。

 イリスが嘘を吐いている可能性も否定しきれないが、魔導師にとって、嘘は精霊を遠ざけ自分の能力を低下させる要因となるものだ。よっぽどのことがない限り、イリスがそんなつまらない嘘を俺に吐くとは思えない。

 となれば、何がナターシャを魔物化から守っているのだろうか。

 迷宮覇者にも選ばれたナターシャの強い意志力か、それとも……。


 とっぷりと日が暮れ、砂漠に冷たい風が吹きすさぶ。

 亡骸の回収を終えた俺達が隊商都市アーレンへと戻ろうとした、その時だった。


「La――――…………」


 夜気を更に鋭くさせるような冷たい声が響き渡り、俺の背筋を突き刺した。

 他の者にもその声は聞こえているようで、皆その場で立ち止まり、一様に声の出所を探っている。


 冷たく研ぎ澄まされた、美しい歌声。

 俺の姉――イリスの声だ。


 膨大な数の紅い精霊が夜の闇に渦巻き、アーレンごと俺達を取り囲む。

 いくつもの修羅場をくぐり抜けて来た俺の直感が「逃げろ」と警笛を鳴らす。

 しかし、もう逃げる場所などどこにもない。


「Falazi falazi falazi iger lon thie torl indi far la du ……」


 イリスの声が、聞いたこともない詠唱を奏で始めた。

 真言マルナ真詩マルエナよりも歌に近い――いや、ほとんど精霊が奏でる発語と同じうただった。


 刹那、紅い精霊が炎の壁となって砂漠の夜を照らし、俺達を包囲する。


「うわぁ! うわぁあああああああああ‼」


 突然、男衆の一人が発火した。

 それを皮切りに次々と他の獣人達も燃え上がり、わけも分からないうちに俺達は阿鼻叫喚の炎獄に陥った。

 一人、また一人と紅い精霊がその全身にたかって、獣人達を火達磨にしていく。


「みんな、私の近くに!」


 アーシャが【光翼スパルナ】を顕現させ、皆を集めた。

 獣人達に纏わり付いた精霊を【光翼】が吸収し、発火を防いでいく。


「「《ファラズ》《拡散スプレイド》!」」


 俺とオルガも暴れ狂う精霊を鎮めようと真言を唱えるが、この炎獄の中にいる紅い精霊は、俺達の言葉に耳を傾けてはくれなかった。

 オルガの外法チートすら、紅い精霊達を服従させることができない。


「《ウラヴ》《放出ディヂャーロ》!」


 この中にいる未だ紅く染まっていない精霊に真言を送るが、紅い精霊に対してその数は少ない。こんな力では、この炎獄を鎮火させることなど到底不可能だ。

 俺達の身を守る術は、アーシャの【光翼】と、威力がだいぶ制限された魔法のみ。


 どこかで歌うイリスの詠唱が、この空間を支配し続ける。

 歌は、鳴り止まない。


「Falazi falazi falazi egir inp corda dose indi far la du ……」


 さらに歌が響くと、燃やされていた獣人達の死体がぐらりと立ち上がり、俺達に襲いかかってきた。

 まるでその身を包む炎が、死体を操っているようだ。


「くそっ!」


 つい先ほどまで共に命を懸けて戦った仲間の亡骸と、俺達は戦うしかなかった。

 そうして戦っている間にも、生き残った男衆がどんどん燃やされ、燃える傀儡となって俺達に襲いかかる。


「やめてくれ……」


 胃腑で渦巻くどす黒い悲しみを堪えきれず、俺は叫んだ。


「もうやめてくれよ、姉さん‼」


 炎の中で、俺の叫びは虚空を彷徨うだけだった。

 そして、とうとう、


「ぐぅううううううううう――‼」


 オルガの体に炎が侵蝕した。

 寸でのところで真言を唱て敵の炎を自分の炎で堰き止めてはいるが、その全身が飲み込まれるのも時間の問題だ。


「オルガ‼」


 ナターシャがオルガの元に駆け寄る。


「ナターシャ、逃げろ。生き残った皆を連れて、どこか、遠くに……」


 ジリジリと白毛を燃やす炎に耐えながら、オルガが告げる。


「俺が、この場をたせる。だから、どうか……頼む」


「バカなこと言ってんじゃないよ! みんなで逃げるんだ! もう誰も、殺させやしない」


 そう言って、ナターシャは燃えるオルガの体を抱きしめた。


「……愛している。ナターシャ」


「やめろバカ。こんなところで、そんなセリフを吐くな」


 虚ろな目でポツリと囁くオルガに、ナターシャは涙を浮かべて叱責した。

 山のように大きなその体が、力なく頽れていく。

 そっとオルガを横たわらせ、ナターシャは静かに立ち上がった。


「……ガルドアァーーーーーーーーーーーッ‼‼」


 凄まじい怒気を孕んだ咆吼が、炎獄の中で木霊する。

 怒髪天にその赤髪を振り乱し、形振り構わず、ナターシャは吠え続けた。


「いったいあたし達が、何をしたっていうんだ‼

 どうしてあたし達から、大切なものを奪う⁉

 お前達は、絶対に許さない‼ 絶対に、絶対に、絶対に……‼‼」


 ナターシャの胸から、どす黒い影が間歇泉かんけつせんのように噴出した。


「絶対に、殺してやる‼‼」


 影がナターシャの体を飲み込み、美しい黄金の瞳が虚ろな紅い光に茫と変わる。

 代わって、額に現れた紅く禍々しい第三の眼。

 ナターシャを中心に黒い風が吹き荒れ、亡骸を包む炎をことごとく消し去った。

 燃やされた獣人達の遺体が灰となり、風に消える。

 彼らと取って代わるように、じわりと空間が滲み、そこから漆黒の分身アバターが次々と顕現した。

 炎獄の中を、無数のナターシャの影が埋め尽くしていく。

 影は見境なく俺達へと襲いかかり、その闇の爪であらゆる物を斬り裂いた。

 

 揺らめく炎と喧噪の中で虚ろに佇むナターシャだったモノ――その姿を形容するなら、まさしく『魔人』であった。

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