第18話 元カノとの会話
「―ねえ。今朝さ、槇村くんと何話してたの?」
部室に行くと、伊色は三日下先生の手伝いで留守にしているらしく、部室内には依代だけが残っていた。
そんな俺に依代は手芸用の本に目を向けながら何気ない風を装って尋ねて来る。……お前、いくらなんでも分かりやすすぎるだろ。
「……何も」
「ふ~ん? スドってあまり他のクラスメイトと仲良くしてないっぽいし、珍しいよね」
「なんだ、そのぼっちみたいな言い方」
「え? 違うの?」
「俺は一匹狼なんだよ」
「……スド、言ってて寂しくない?」
なんかすげぇ哀れみのこもった目で見られたんだが。うるせぇ、余計なお世話だよ。
「それで?」
「……だから何が?」
「さっきの話。なんか私らが入って来た時に見てたじゃん」
「目薬必要だよなって話」
「いや、絶対噓だよね!? 全然そんな話じゃないでしょ!?」
「少なくとも目の話はしてたな」
あいつを眼科に勧めるという意味だが。
「そ、そうなんだ?」
「男の話なんざ、9.9割が筋肉の話だと思った方が良い。これマメな」
「そこまで!? ってかそれ、絶対噓じゃん! 私の目を見て離さないし!」
「それな」
「流された!?」
俺は適当なことを返しながら持ってきた雑誌に目を通す。今月の漫画面白くねぇな。
やり取りを終えた後、俺達の間に静寂が訪れた。
(それにしても―)
元カノ二人と教室で二人きりとか超気まずいんですけど~。
何これ? 何の拷問だよ、これ。
「……」
依代の奴もなんか黙ったままだし……いや、さっき若干喋ったけど。
俺、こいつらと付き合ってた時に何話してたの?
答え。短すぎて話してない。
駄目じゃん、何も解決出来ないじゃん。
(とはいえ、この状況は気まず過ぎる……)
なんで振られた俺の方が気を使わなきゃならんのか……。
しかし、依代はどこか俺の方をチラチラと見ながら動向を気にしているのは明らかで、そんな依代にため息を吐いた俺は雑誌をパタリと畳む。
そして、これまでの人生で培ったコミュ力を最大限に生かして適当な話を切り出すことにした。
「……お前ら、本当に手芸やんの?」
「え?」
今さら聞くとか、会話下手過ぎかよ。
っていうか、手芸やるから手芸部入ったわけだしさ……俺、人と話さな過ぎてコミュ力ヤバ過ぎかもしれん。
「……いや、お前って手芸が好きなのかな、と」
「あ、そういう……」
いや、お前もなんか反応変過ぎだろ……マジでこれ後何分続くんだ。
「……手芸に入るわけだし、そこまで好きなのか聞いたんだが」
「あ~……まあ、嫌いじゃないよ? 私、手作りのものとか好きだし」
「……好きだから入部したんじゃないのか?」
「え? あ、あ~、うん。好き―あ、ライクね! ライク!」
「いや別に、ライクでもラブでもどっちでも良いんだが……」
違和感バリバリの会話に俺はため息を吐くしかなかった。
というか、依代はどこか会話の内容が頭に入っていないというか……俺の会話を適当に聞き流してる感があった。
そりゃそうか、元カレのことなんて今さらどうでも良いだろうしな。
(……馬鹿馬鹿しい。俺が気にし過ぎてだけだな。これからは気にせずに適当に過ごせば―)
そうして俺が週間雑誌に再び手を向けようとした時だった―
「―じょ、女優!」
「は……?」
どこか興奮気味な様子で依代が雑誌に手を伸ばす俺を見ていた。
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