8.スキルの検証と命の危機?

 おはよう。

 今日も1日薬草採取に励みますかー。


 俺は麻袋とナイフを装備し部屋を出る。

 1階へ降りていくと今日もパンのいい匂いがする。

 今日の朝食はサンドイッチかぁ。うまそうだなぁ。

 なんて考えながら、受付のツン子のところへカギを返しに行く。


「おはようございます。昨日の夕飯もすごくおいしかったです」


「ふんっ。褒めたってあんたの朝食は無いんだからね」


「ははっ、そんな下心ないですよ。おいしかったのは本心です」


 うん、褒めて朝食もらえるならもっと褒めまくるんだけどね。

 でも、絶対ツン子はそんなことしてくれるようなタイプじゃないよね。


「っそ。まぁ、せめて死なないように頑張ることね。うちの客が減ると損だから」


「心配してくださりありがとうございます。いってきます」


「何を聞いてたの? 別にあんたの心配してる訳じゃないわ。調子に乗らないで」


 素直じゃないけど、いい子だってことはわかってきた。

 今日もここに泊まれるように頑張るとしますか!


 意気揚々と宿屋を出たが、手持ちが5円じゃ串焼きも買えない……

 今日は朝食も完全に抜きだな、腹減ったぁ……


 門番に挨拶して村の外へ出る。

 今日は10円玉召喚スキルの召喚範囲を調べたいと思う。

 門番や村人に見られるとまずいから、アズーマ山の近くまで行って人がいないところで試しますか。


 

 ―◇◇◇―



 この辺なら人もいないし見通しもいいから丁度いいかな。

 まずは目印となる大きめの石を見つけて、それが見えない位置まで移動する。

 それから目印の石の上をイメージしてスキルを使う。

 まずはこのくらいの範囲から調べていこう。


「10円玉召喚!」


 俺は目印の石まで走る。


 ……無い。


 周りを探してみる。


 …………無い。


 この距離でもうダメなのか。

 もし見失っただけなら泣く。


 今度は石が見えるギリギリの位置まで移動する。

 石の上に10円玉が出るイメージをして。


「10円玉召喚!」


 俺はまたも石に向かって走る。


 ……あった! あったぞ!


 召喚範囲のことよりも、まずはちゃんと10円玉を見つけることができたことに安堵した。


 多分、召喚範囲は目視で確認できるところまでなんだろう。

 大体100mくらいかな?

 これがどんなことに使えるかわからないが、知っておくことは大切だからな。

 本当に何に使えるんだろう……

 ダンジョンの閉まった鉄格子のドアの向こうに開閉スイッチがある場面、とかあるだろうか?

 うーん、ないな。そもそも局所的過ぎる。

 何も思いつかないし、追々考えるしかないか。



 ―◇◇◇―



 そして、今日も今日とて薬草採取。

 てか、ナイフってすげー!

 ナイフのおかげで簡単に採取できるぞ!

 今までは折ったりひねったり結構時間かかってたけど、これならすごい効率的じゃないか。

 倍の60束も夢じゃないぞ。

 そうしたら、着替えとか防具とか武器とか色々買いやすくなる。

 よっしゃ、やる気出てきた!



――数時間後



 そんなに効率良くいきませんでした。

 そりゃそうだよ。採取してる時間よりも探してる時間の方が長いんだから。

 採取する時間だけ短くなっても高が知れてるじゃないか。

 どうして俺はいつもこうなのか……


 あー、今日まだ飯食ってないから、腹減った……

 何か食べられそうなものはないか?

 キノコは毒とか怖いし、動物は狩れない解体できない料理できないの3拍子だ。ここはやっぱり果実がいいよな。

 いつも薬草採取で下ばっかり見てたから、木に実がなっているところを見た記憶が無い。


 俺はすがる思いで木を見上げる。

 

 お! ちょうど近くの木にプルーンみたいな実がなってるじゃないか。

 異世界転移して俺にも運が向いてきたか?

 結構たくさんなってるし、これからは食費をケチってこの実でお腹を膨らませるのもいいかもな。

 それじゃあ1つ拝借して。


「いただきま……」


「イヒトさん! 何やってるんですか!? その実は食べちゃダメですよ!!」


 なんだって!?

 キンジくんに言われ、俺は食べようとしていた手を止めた。

 え? もしかして毒があったりした……?

 キンジくんに命助けられちゃった……?


「も、もしかして、この実を食べたらヤバかった……?」


「ヤバいなんてもんじゃないですよ! オリーブの実なんて食べたら、渋くて渋くて、1時間くらい口の中が大変ですよ!」


 お、オリーブの実? これが二宮町が特産にしようとしているというオリーブの実なのか。

 もう驚かさないでよ、キンジくん。

 キンジくんのせいで命の危機を感じたの2回目だよ。

 でも、俺のこと心配して注意してくれたんだよな、ありがとう。


「キンジくん、ありがとう。またキンジくんに助けられちゃったね」


「いえいえ、冒険者は助け合いが大事ですから。もしかして、イヒトさんお腹空いてるんですか? えーっと、これでよかったらどうぞ食べてください」


 そう言って、キンジくんは鞄の中から四角柱のクッキーみたいなもの、つまりカロリーの友達みたいなものを出してくれた。


「えっ、いいのかい? これ、キンジくんの昼ご飯なんじゃ……」


「昼ご飯はさっき食べたので大丈夫ですよ! これは小腹が空いた時におやつとして食べようとしてたものなので、無くても全然大丈夫です!」


 本当にいい子だよキンジくん。


「それじゃあ遠慮なくいただこうかな。ありがとう、キンジくん」


 俺はクッキーみたいなものを受け取り、かぶり付く。


 ガリッ


 クッキーのようにサクサクしてる訳じゃなく、どちらかというとカンパンみたいなかなり硬めの食感だ。

 保存性を良くするために、なるべく水分を抜いているのだろうか。

 味もかなり素朴だ。だが素朴が故に噛み締めていると小麦本来の風味や甘味が楽しめる。

 空腹にはありがたい満足感だ。


「こんな粗末なものしかなくて、すみません……もう少し早く会えてれば昼ご飯があったんですけど……」


「何言ってるんだよ、キンジくん。すごくありがたいよ。噛み締めていると小麦の風味や甘味が感じられるし、すごい満腹感があるよ」


 もうキンジくんに足を向けて寝られないね。

 いつもキンジくんに助けてもらってばかりで申し訳ない。

 そうだ! キンジくんをご飯に誘ってもっと親睦を深めよう。そうしよう。


「そうだ、お礼じゃないけど親睦を深めるために飯でも一緒にいかないか? 手持ちが少ないから割り勘になっちゃうけど、それでもよければ。飲み物くらいなら奢れると思うし」


「いいですね、行きましょう! でも、お金は自分で出すので大丈夫ですよ! 冒険者仲間とご飯に行くの初めてなので嬉しいです!」


 キンジくんの初めていただきましたー!

 ごちそうさまです!

 はっ! もしかして、オリーブさんもこんな気持ちだったのだろうか。

 いや、それは自意識過剰か。


「それじゃあサトナカ亭でいいかな?」


「はい! 家も近いのでありがたいです!」


「じゃあ決まりだね。もう少し薬草採ったら帰ろうか」


 まだ時間が早かったので、2人で一緒に薬草採取をすることにした。



 ―◇◇◇―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る