第283話 刺身とケーキ その1

 ……


 俺と虹心は今日香ちゃんのお店。新倉洋菓子店から自宅に向かっているが、自宅最寄り駅に着いて駅舎を出た所で、俺は虹心と別れる。


 虹心が晩ご飯の材料を買う為に、スーパーに寄るからで有る。

 最近なら、それに俺も付いて行くのだが、俺はケーキを冷蔵庫にしまう任務を虹心から命令されたので、此処からは別行動に成る。


「じゃあ、兄ちゃん。行ってくるね~~♪」


 虹心は和やかな表情で言って、俺と別れる。

 帰りの電車の内で、俺と虹心は晩ご飯相談をしたが、刺身で落ち着く事に成った。


 理由と言うのも変だが、俺は昼食にカツ丼大盛りを食べて、更に午後のお茶もしている。

 そして、時刻も17時を過ぎた時間だと言うのに、俺は未だに満腹感を感じるし、ゲップもカツ丼風味を感じる!!


 虹心の方も、カツ丼は普通盛りで有ったが、ショートケーキを2個食べているので、こってり系料理は最初から候補すら出さなかった!


 それに今晩はデザートに、さっき買ったケーキも有る。

 ケーキは生もので有るし、おまけに夏場で有るから、なるべく今日中に食べた方が良い。


 これはどうでも良い話しで有るが、俺たちが今日香ちゃんのお店を出る時、今日香ちゃんは善意でケーキを再梱包をしてくれた。

 この時期の保冷剤は、直ぐに駄目に成ってしまうからで有る。


 その時に今日香ちゃんは、何かの小袋もレジ袋に一緒に入れてくれたが、他のお客さんがいたので、そのことを虹心に小言で言っていた。

 きっと、何かのサービスをしてくれたのだろう。


 ……


 俺は家に戻り。虹心の命令を守る為、レジ袋からケーキの箱を取りだして、ケーキの箱ごと冷蔵庫にしまう。

 サービスで貰えたのはキャラメルで有り『生キャラメル風』と、袋にラベルが貼って有る。


(生キャラメル……確か、俺が小学生の頃にブームが有ったな!)

(メディアに踊らされた母親が、喜んで買って来ていた覚えが有る…。一過性のブームでは無かったんだな!)


(そして、洋菓子店で売っているのだから当然、手作りなんだろうな?)

(今日香ちゃんは、お菓子作りをしていないと言っていたから、これもおじいさんが作ったのかな?)


 俺はそんな事を思いながら、キャラメルも一緒に冷蔵庫にしまう。

 俺の記憶が間違っていなければ、生キャラメルは冷蔵庫で保管しないと溶けるらしい。


(母親は今晩夜勤だし、兄も残業だから、まだ帰っては来ない…)

(虹心はもうすぐ帰って来るだろうが、それまでどうしていようかな?)


 俺と虹心の関係は良好で有るので、今までのように俺は、虹心に家事を全部押し付けたりはしない!?

 虹心からのお願いや命令(?)が中心で有るが、俺は家事を以前より頑張っている!?


(先ずは普段着に着替えて、その後はリビングでテレビでも見ながら、虹心の帰りを待つか!)

(今晩は刺身だから、そう手伝うことも無いだろうし、兄の時間に合わせて晩ご飯にするから、普段よりも”ゆとり”は有るだろう…!)


 俺は心の中で言い終えてから、着替える為に自室に向かった……


 ☆


 時間はしばらく過ぎて……晩ご飯の時間で有る。

 兄は残業で有ったが、残業の延長は無くて、残業時の帰宅時間で兄は帰って来る。


 兄は職場の入浴設備で入浴を済ませているので、兄が帰って来た時点でほぼ晩ご飯の時間と成る。

 兄が着替えを済ませて台所に入ると、俺と虹心が台所テーブルに有る椅子に座っていて、更にテーブルには三人分の食事が並んでいるので、兄は当然驚く。


「んっ!?」

「何だ……まだ、武蔵と虹心は食事を摂っていなかったのか?」


「それとも何だ。僕を待っていてくれたか!」

「そんな訳無いよな。あはは~~♪」


 和やか表情と冗談を交えながら、兄は言う。

 虹心も和やか表情で兄に話し始める。


「今晩はお刺身だから、みんなが揃ってからの方が良いかなと思ってそうした!」

「そして、お兄ちゃん!」

「今晩はデザートに、苺のショートケーキも有るよ!!♪」


「へぇ~~。今夜はケーキまで有るんだ!」

「何か、良いことでも有ったのか?」

「虹心!!」


 ケーキの言葉を聞いて、みをこぼす兄。

 言葉だけを聞いていれば、今晩は豪華な晩ご飯で有る!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る