戦争の足音


「グレミア公国はセイレ王国に、侵攻する──!!」



「「「侵攻するですって!?((だと!?))」」」

 紡ぎ出されたその衝撃的な言葉に、私たち3人の声が重なった。


「お? そこに氷銀ひぎんもいるのか?」

「タスカ・グレモア、今の話は本当か!!」

 先生がずいっと私の方へと身を寄せ、コンパクトを覗き込み声をあげる。

 こんな話をしてる時じゃなければこれ幸いにと先生にくっついているところだっただろうけれど、今は残念ながらそんな冗談やってる場合じゃない。


「あぁ氷銀ひぎんがいるならちょうどいい。一緒に聞け。大公の命令で今、魔術師隊が動き出している。ついに戦争準備が本格的に始まった。いつセイレに進行してもおかしくはない状況だ」

「そんな……」


 大公は姫君プリンシアの即位のことを知っているはずよね?

 だって私、お知らせと戴冠式への招待を送るようにしたもの。

 それにセイレ国内でこんなに広まっている噂を隣国であるグレミア公国が知らないはずがない。


「大公はなぜ? 即位の話は知っているはずですよね? 噂も届いているはずだし……」

「あぁ。そっちでの姫君の噂も届いてる。だが所詮は女子供だと侮り、国王が出てこないことから見ても王家はすでに滅んでいるも同然だと考えた。小娘1人。今ならばセイレを落とせると踏んだようだ」


 そんな……。

 私が女で、子どもだから……?


「……準備はどの程度?」

「最近になって外務省の方でロンド国とベラム国との取引が頻繁に行われてるようだな。グレミアは戦争を起こしすぎた。そして工業を発展させすぎたが故に、魔法が使えなくなるものが今続出している。だから、他の二カ国から大量に武器を購入したり、自国での製造を急いでいるんだろう」


 戦争を繰り返し森林伐採が進んだグレミアでは精霊が減っている。

 汚れた土地に精霊は住むことができないからだ。

 そしてその汚れた地は病を生み、今グレミア公国では病が広まっていると以前タスカさんが言っていたのを思い出す。

 魔法はそんな精霊の力をもとに使うものだ。

 精霊がいなくなったグレミア公国では、武器の製造が進み続ける……か……。


「厄介だな……」

「俺たち騎士団は戦争には反対だが、家族を人質に取られてるものも多い。命令が降れば出ることになる」


 家族を……人質に?

 まさに独裁国家じゃない!!


「信頼のおけるこちらの騎士には、戦いになったとしても極力こさぬよう言ってはあるが、あまりやりすぎると大公に反乱分子とみなされるからな。悪い」

 申し訳なさそうに眉を下げるタスカさん。

 彼も苦しい立場なんだ。

 たくさんの部下を持つ騎士団長としても、そして臣下としても。


「……わかった。こちらもそちらの事情を騎士団で共有した上、そのように配慮しよう。だが、全員が無事というわけにはいかんだろうな」

「そうだな……。それが戦争だ」


 それが戦争──。

 その言葉は、今まで平和な世で暮らしてきた私の上に重くのしかかった。

 前の世界じゃない。

 今はこれが現実なんだ……。


「何か動きがあればまた知らせる。取り急ぎここまでだ。じゃぁな、姫さん。あんま気負うなよ」

「あ、はい。ありがとうございました。タスカさん、お気をつけて」

「あぁ。じゃぁな」

 そう笑ってタスカさんとの通信はぷつりと切れた。


「急ぎ隊長会議を行う。カンザキ、君も参加してくれ」

「はい、もちろんです!!」

「ジオルドはフォース学園長と大司教に、至急会議室に集まるよう伝えてくれ」

「わかりました」


 私たちはそれぞれの役割を果たすため、ホールから急足で出ていった。


 戦争が始まる──。


 この戦争で命を落とす人物は……。

 フォース学園長と……レオンティウス様──……。


 その先にあるのは魔王の復活。

 そして──。


「先生の、死──……っ!!」


 っさせない……!!

 守らなきゃ。

 大切な人たちを……!!


 愛する人を──!!

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