先生の本音?


 夕食は先生がいないので友人たちと食堂で食べ終えてから、私は自分の部屋の手前──先生の部屋で1人二次会をしている。


 絶対に先生が帰ってくるまで寝ないんだから!!

 そんな意気込みで、先生の部屋のソファにどっしりと座ってテーブルの上にコーヒーを用意し、眠気を抑えながらぷりぷりと怒っている。


 絶対寝ないぞ。

 寝るもんか。

 意気込みつつも瞼が重くなってきたその時だった。


 バンッ──!!


 勢いよく先生の部屋の扉が開かれ、険しい顔をした先生が足を踏み鳴らしながら部屋へと入ってきた。


「せ、先生!?」

 いつもの先生らしくもない様子に、私は驚き部屋に入ってきたばかりの先生へと駆け寄る。

「どうしたんですか? 何かあったんですか?」

 ものっすごく顔が険しい。

 眉間の皺がいつもの三倍増しだ。


「っ、これは……」

 近くに寄って気づいた。

 ものっすごいお酒の匂い!!

 先生がこんなにお酒の匂いをさせてるなんて珍しい。

 もしかして、飲みすぎて気持ち悪くなってしまったんだろうか?


「と、とにかくお水!! 今お水を持ってきますから!!」

 私が隅っこの簡易調理場で水を汲もうと足を向けた瞬間──。


「っ!? せ、せんせ……っ!?」

 突然に後ろから私の鳩尾あたりに腕が回され、私の身体は先生によって強く抱きしめられた──!!

 背中から伝わる先生の身体が妙に熱く、私の全身に先生の熱が転移し広がっていく。


「夕刻も、上級生に絡まれていたな」

 耳元で静かに囁くように言葉が紡がれる。

 夕刻? ……あぁ、アッパーくらわせちゃったあれ……?

 先生、見てたんだ。


「あの、先生……?」

「言ったはずだ」

「へ?」

 低く耳元で呟かれた言葉に、私は間抜けな声を発する。

 そんな私の唇を、後ろから細い指先がなぞる様に撫で──、

「『“ここ”は誰にも許すな。初めても、二度目も、その後も全部────私のものだ』……と」

 そう言って耳元でなおも私の耳を責め続ける先生に、ぴくりと身体が揺れた。


 耳!!

 耳が死ぬ!!


 それにこのセリフ、聞き覚えがある。

 あぁそうだ、過去でのシリル君との別れの時、彼に言われた言葉だ。

 あれ?

 先生、覚えて──?


「君を、ずっと閉じ込めていられたらいいのに……」

「はいぃっ!?」

 ちょ、と、とりあえずベッドに運ぼう。

 うん、なんか、このままじゃやばそう。

 先生がおかしい!!


「先生、と、とりあえずベッドに……」

 先生が背中から抱きついている状態で私はベッドまでなんとか歩いて行く。

 素直に抱きつきながらもついてくる先生にキュンとしながらベッドまでたどり着いたその時──「ひゃぁっ!?」


 ポスンッ。


 突然背中から力が加わり、私は先生ごとベッドへと倒れ込んでしまった。

 2人揃ってふかふかの布団に沈む。

 ちょうどベッドの上でよかった。

 と、思ったのも束の間、目を開けた私は目の前にある恐ろしく美しく端正な顔に、思考を停止させてしまった。


「な、なな、な……」

 美しすぎる……!!

 ベッドの上。

 私を見下ろす愛しい人。


「もう、待ちたくない」

 酔っていることが傍目にはわからないほど普通の表情なのに、言ってることとやってることが酔っ払いのそれだからタチが悪い!!

 色気をしまって先生!!


「ちょ、待って先生!! 私のこと子どもだって言ってたじゃないですか!! 落ち着いて

──」

「子どもだなんて、思ってない。思っていたら、こんな気持ちにはならん……」

「あ、あの、せんせ──っ!?」

 私の頬に当てられる先生の白い手袋越しの大きな手。

 一体どこから持ってきたんだこの手袋。

 しかも白。

 先生と言ったら黒でしょぉぉ!?


「誰にも、許すな。私以外、誰にも」

 切なげに潤んだ瞳が私を見下ろす。


 これは、先生の本音、なんだろうか?

 先生も、不安に思ったりしてくれるんだろうか?

 だとしたら……とっても嬉しいんだけど……。


 一歩だけ、踏み出しても、いいかなぁ?


 そこまで考えて、私は先生の頬へと同じように手を添えると、安心させるようにふにゃりと微笑んだ。


「誰にも許しません。私は、今も、昔も、これからも、全部先生のものですから」

「っ……」

 ごくりと先生の喉が鳴って、それからゆっくりと、私の大好きな先生の顔が私に降ってくる。


 瞳を閉じてそれを待てば、先生の吐息が私の口元にかかり──。


 ぽすん。


 へ?


 ずっしりと私の上に落ちてきた先生の身体。

 そして顔は私の首元へと落とされた。


「せ、先生?」

 動かない。

 耳元でかすかに聞こえるのは、規則正しい寝息。


 寝てる……。


 うそでしょぉぉぉぉお!?


 す、据え膳……。


「はぁ……。ま、いっか」


 私は少しだけすっきりとした晴れやかな気持ちと、この状態にもやもやとした気持ちを抱えたまま、先生に抱き込まれた状態でそのまま眠りについたのだった。



ー後書きー

挿絵

https://kakuyomu.jp/users/kagehana126/news/16817330652798208090


イラストはいつも番外編のイラストを描いていただいているADA様です♪

ADA様ありがとうございました!!

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